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中国テック事情:香港政府がいまだに「Web3」に熱心になる事情

2023年11月11日 09時15分更新

文● Zeyi Yang

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Marc Fernandes/NurPhoto via AP

画像クレジット:Marc Fernandes/NurPhoto via AP

暗号資産業界は再び「冬の時代」に入っている。だが、テック界の経済成長に乗り遅れた香港は、新たな成長の道を見つけるため、Web3企業を誘致する枠組み作りに政府自ら精力的に取り組んでいる。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ここ香港は、サム・バンクマン=フリード(日本版注:暗号通貨取引所FTXの共同創業者。FTXは昨年11月に経営破綻)が、11月2日に詐欺や共謀など7つの刑事責任で有罪評決を受けた米ニューヨーク州の連邦地裁から遠く離れているが、誰もが彼のことを話したがっていた。とはいえ、私が耳にした会話は、米国で交わされている会話とはかなり違っていたような気がする。

バンクマン=フリードに有罪評決が下った翌日、私は香港政府主催の新たな年次カンファレンス「香港フィンテック・ウィーク 2023(Hong Kong FinTech Week 2023)」に出席していた。バンクマン=フリードの裁判が長引く暗号資産の冬にまた1つ生まれた新たなエピソードに過ぎない米国とは異なり、香港では人々が「Web3」のあらゆることを、ずっと楽観的に感じていた。

カンファレンスには香港の最高責任者であるジョン・リー行政長官も参加し、この都市をテクノロジー・ハブとして創造し直す取り組みや、ブロックチェーンと暗号通貨に対する過去1年にわたる大きな賭けから利益を得る方法について議論した。この2日間のイベントの明らかな主役であった現地のWeb3スタートアップ企業、アニモカ・ブランズ(Animoca Brands)の創業者ヤット・シウは11月3日、聴衆に向かってこう語った。「バンクマン=フリードの有罪評決は、この業界の暗黒の章の幕引きです。これで私たちは前に進むことができます」。

私は、トークン化された資産や中央銀行デジタル通貨、さらには「非代替性トークン(NFT)」の未来について議論するパネルディスカッションに次々と出席し、米国では感じるのが難しいであろう希望に顔を輝かせた。まるで、タイムマシンに飛び乗ったような気分だった。

クリプト・ドットコム(Crypto.com)やボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club:BAYC)をはじめとする国際的な暗号資産大手の幹部が直接この会議に出席しており、コインベース(Coinbase)のCEO(最高経営責任者)はビデオ通話を通じて、あるファイヤーサイドチャット(リラックスした気分で楽しむチャット)に参加した(サイドイベントとして同時に開催されたBAYCのパーティには行かなくて良かったと言わざるを得ない。同パーティでは不適切な照明の使用により、多くの参加者が「目にひどいやけど」を負ったそうだ)。

そうした企業の幹部たちにとって、香港は政府から歓迎される極めて数少ない場所である。FTXやテラ(Terra)の破綻など、昨年起こった暗号資産の不祥事や、NFTの無価値性に関する報道を受け、多くの政府やオブザーバーは暗号資産業界への警戒感を強めている。しかし、香港にとっては、この新たなデジタル・フロンティアが経済を再編成するチャンスに見える。

かつては金融や貿易で身の丈以上の成功を収めていた香港だが、それらの分野における重要性は低下し続けてきた。また、深センなど他の都市がテック産業のおかげで飛躍的な成長を遂げる中、香港はそのブームにほとんど乗ることができなかった。しかし、暗号資産は、比較的簡単な方向転換の機会を提供してくれる可能性がある。

香港政府は昨年の「フィンテック・ウィーク」で、独自のNFTとトークン債を発表した。それ以来、世界中のWeb3プロジェクトのリーダーたちが香港を訪れ、この都市への投資を検討してきた。そう語るのは、香港で2つのWeb3スタートアップ企業、ターミナル3(Terminal3)とアーティファクツ・ラボ(Artifacts Lab)を創業したゲイリー・リューCEOだ。「他の国々がすべて弱気相場になっている中、香港は上昇しています」。

国際的な暗号資産事業者にとっておそらく最も重要なのは、香港が合法的なサービス提供を可能にする枠組み作りに精力的に取り組んできたことである。5月には個人向け暗号通貨取引所の許認可制を導入し、すでに2社の営業が認可されている。今回のカンファレンスで登壇者たちがしきりに持ち出していた話題は、香港が近いうちにステーブルコイン(安定通貨)に関する新たな法律を施行するという見通しだった。ステーブルコインは、法定通貨と暗号通貨の間の重要な架け橋となり、多くのWeb3サービスに基盤を提供するだろう。

他の政府と比較して、香港は暗号資産の法制化の動きが速く、しかも、一貫してより友好的な姿勢をとっている。暗号資産に関する法律を作ろうとした政府は、香港が初めてではない。欧州は2020年に「暗号資産市場規制法」の検討を開始し、シンガポールと日本も数年前に法制化の検討を始めている。しかし、香港はそれらの動きに追いつくための取り組みにおいて、この1年で大きな進歩を遂げてきたと、ワシントンDCを拠点とする業界団体「イノベーションのための暗号資産カウンシル(Crypto Council for Innovation)」でグローバルWeb3戦略の責任者を務めるリンダ・ジェンは言う。

「私の予想では、香港はおそらく欧州よりもずっと早く、すべての法規制の枠組みを導入し終えるでしょう」と、ジェンはカンファレンスで私に話した。「香港は欧州を、文字通り飛び越すことができます。そうなれば、より多くのWeb3企業や投資家が香港に進出してくる可能性があります」。

しかし、この分野の何にでも言えることとして、このような速い動きはリスクの高い賭けでもある。暗号資産が当初の約束ほどの変革をもたらさないことが判明するかもしれないし、意図せずしてさらなる詐欺や罠を可能にしてしまう可能性もある。9月には、香港で投資家から1億9200万ドル相当の資産をだまし取った暗号資産取引所JPEXが破綻し、現地の暗号資産業界に衝撃を与えたばかりだ。

しかし今のところ、香港政府はひるんでいないようだ。香港のクリストファー・ホイ金融サービス財務長官は基調講演でこのように述べた。「Web3を成長させる我々の決意にJPEXの破綻が影響を与えるかどうか、何度も聞かれました。答えは明確に『いいえ』です」 。

暗号資産に対する中国政府の態度も、もう1つの大きなリスク要因になるだろう。中国政府は暗号通貨を禁止してきたことで有名だが、香港に対しては、技術的な実験について暗黙の承諾を与えているようだ。中国自身がWeb3で何をするべきか判断するため、香港をサンドボックスとして利用することを望んでいるのかもしれない。しかし、中国政府が考えを変えて、香港の取り組みを中止させることはないという保証はない。私にとっては、サム・バンクマン=フリードではなく、そのことこそが、今回の会議において分かっていながら無視されていた重要な問題である。

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1. 香港について

  • 民主化運動の弾圧後、何万人もの住民が香港から移住してしまったが、香港政府は中国本土から移住者を募り、労働力不足を解消しようとしている。(AP通信
  • 身分証明書を更新するため日本から帰国した香港のある学生が、海外滞在中にネットへ「扇動的な」コンテンツを投稿したとして逮捕され、懲役2カ月の判決を受けた。(香港フリープレス

2. 中国のソーシャルメディア・プラットフォームは現在、50万人以上のフォロワーを持つすべてのユーザーに対し、ネット上での実名表示を義務付けている。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト

3. 中国、米国、欧州の政府関係者が、11月1~2日に英国で開催された「AI安全サミット(AI Safety Summit)」で、AIガバナンスについて協力することに合意した。(ロイター

4. 米国が40年以上ぶりに、自国の資金を使って台湾へ武器を送っている。(BBC

5. 中国で最も裕福な億万長者は、きれいな水をボトルに詰めることで自身の企業帝国を築いた。その環境に与える影響は憂慮すべきものである。(ブルームバーグ

出会い系アプリの実験で分かったこと

6月、ある中国人女性グループが社会実験を開始した。彼女たちは人工知能(AI)ツールを使って、4人の女性キャラクター(セクシーな金持ち女性、生意気な若い女性、隣の家の女の子、シャオ・ユーという名前の未成年の少女)の写真を生成した。そして、中国の出会い系アプリでこの4人のプロフィールを作成し、彼女たちが嫌がらせを受けるかどうか、および受けた場合はどのような嫌がらせか調べた。

驚いたことに、16歳の少女であることをはっきりと示しているシャオ・ユーが、最も嫌がらせを受けた。シャオ・ユーの架空の年齢を14歳に下げると、嫌がらせはさらに激しくなり、全メッセージの半分を占めるまでになった。男たちは彼女に際どい写真を求めたり、勝手にヌード写真を送りつけてきたりした。嫌がらせに対する「保護者」になることを申し出た後、 ある種のロールプレイに興味があるか聞いてくる者さえいた。

中国メディアのホワイトナイト・スタジオ(White Night Studio)によると、この実験は中国のネット児童虐待の程度に焦点を当てているという。この問題は、両親が都市部に働きに出ている間、農村部の自宅に残っている子どもたちにとって、特に深刻である。今年、中国南西部の農村地域で実地調査をしたある性教育提唱者は、同地域の子どもの80%近くがネットでいやがらせを受けていることを明らかにした。

あともう1つ

近日発売されるビデオゲーム『8番出口(The Exit 8)』では、私が想像しうる最悪の状況の1つを体験できる。プレイヤーは日本の地下鉄の駅に閉じ込められ、無限に続く曲がり角や分岐通路から出口を見つけようとする。開発者は、ゲームの想定プレイ時間は15分から30分だとしているが、現実の東京の巨大な地下鉄駅を考えると、あまりにも楽観的に思える。

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