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一見ニッチなグーグルのネット検閲回避技術に注目すべき理由

2023年09月26日 06時52分更新

文● Tate Ryan-Mosley

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Stephanie Arnett/MITTR | Getty

画像クレジット:Stephanie Arnett/MITTR | Getty

自由なインターネット・アクセスを禁じ、検閲に力を入れる権威主義国家の動きが目立っている。グーグルは、検閲から逃れる上で有効な技術を開発し、アプリに組み込める形で公開した。なぜこの取り組みに注目すべきなのか。その理由を説明しよう。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

今回は、オンライン・コンテンツを検閲しようとする人々と、自由で開かれたインターネットへのアクセスを守ろうとする人々の間で日々繰り広げられている戦いについて話したい。

この話は、グーグルの新製品に関する最近のスクープとも関連している。開発者が検閲に対して抵抗力を持つアプリを開発しやすくするために設計された製品だ。以前にもお伝えしたとおり、これは注目に値する分野である

誰がインターネットをコントロールするようになるか、そして誰がオンライン情報にアクセスできるようになるかは、私たちの世界の未来を語る上で中核となる問題だ。これらは、地政学、言論の自由、国家安全保障、政治的組織化、基本的人権、衡平性、一般的な権力分配に影響を及ぼす。ニッチな問題、あるいは単純な問題と考えるかもしれないが、そうではないことを約束する。

私たちは今、検閲しよう者たちと、それを回避しようとする者たちとの間で繰り広げられている、静かなテクノロジー軍拡競争の真っただ中にいる。中国のグレート・ファイアウォールや北朝鮮のデジタル氷河期のことは、すでに多くの人が知っているだろう。だが、この2年間で、ロシアやイランの検閲にも興味深い動きが見られた。ロシアの場合は特にウクライナ戦争に関連するもので、イランについては昨秋、民主化デモの最新の波が起きている間のことだ。

さらに悪いことに、権威主義体制はますます互いから学び合っている。お互いの検閲戦術を、以前よりも迅速に共有し、コピーすることができるのだ。その結果、インターネット検閲は今や、民主主義国家をも含む世界中の国々で、政治的武器として巧みに利用されている。 そして、人々のデジタル・ツールやデジタル・プラットフォームへの依存度が高まるにつれ、オンライン検閲が及ぼす害はより深刻になっている。

VPN、トラフィック偽装、匿名・暗号化ツールなど、検閲の回避に役立つ技術の開発者たちは、戦術の変化に後れを取るまいと常に努力を続けている。 インターネット上で締め付けが続いている間、検閲者たちと検閲を回避しようとする者たちの「いたちごっこ」が繰り広げられる。検閲者たちがある方法でアクセスをブロックしようとすると、検閲を回避しようとする者たちはブロックを迂回する技術的解決策を見つけようとする。このゲームは終わることがなく、しばしばエスカレートする。

しかし、ミシガン大学のロヤ・エンサフィ准教授(コンピューター科学)によれば、検閲と戦う人々の大半は、ロシア、中国、イランのような政府の、進化を続ける検閲戦術や、高度な監視に耐える「回避能力を開発・展開するために必要な、技術的手段が不足している」という。

既存の検閲回避ツールは運用に多額の費用がかかる上、大部分のインターネット・ユーザーが持ち合わせていないレベルの技術的専門知識が必要となることが多い。グーグルのジグソー(Jigsaw:社会的な取り組みを担うグーグルのシンクタンク部門)が作り出した新製品は、それを簡単にすることを狙っている。ジグソーが開発した「アウトラインVPN」のSDKを使えば、開発者は自分のアプリに直接、検閲に対する抵抗力を組み込むことができる。

そのほかにも毎日のように進歩は続いており、Webは検閲に対してより抵抗力を増している。これは主に、インターネットの自由を実現するため、しばしば秘密裏に、そして大きな個人的リスクを顧みず献身的に活動する、活動家やボランティアのネットワークのおかげである。

しかし、やるべき仕事はほかにもたくさんあると、エンサフィ准教授は言う。検閲との戦いには、「ジャーナリスト、NGO、研究者、エンジニア、そして最も重要な存在として、検閲がされている地域のユーザーとの間の、学際的な協力が必要です」。

テック政策関連の気になるニュース

  • イーロン・マスクが、ようやく「言論の自由」プラットフォームのために戦う立場に立ったようだ。それは、マスクがかねてからツイッター(X)に望んでいたことである。マスクは、ソーシャルメディアのコンテンツ・モデレーション・プロセスの透明性を高めることを目的とした新法が、憲法修正第1条の言論保護に違反しているとして、カリフォルニア州を訴えている。この法律によってXのコンテンツ・モデレーション費用が増大することは、間違いなく偶然ではない。
  • 大手テック企業が顔認識テクノロジーを開発した当初、その技術を公開しないと決めた様子を描いた、ニューヨーク・タイムズのカシミール・ヒルによる内幕記事に心を奪われた。テック企業が社会に対してどれだけ大きな力を持っているのか示す、魅力的でドラマチックな話である。
  • グーグルはここ数年で最大の反トラスト法裁判に臨んだ。携帯電話やWebブラウザーでグーグルの検索エンジンが標準設定となるような商取引を違法に画策したと訴える、米司法省と戦っているのだ。NPR(米国の非営利のラジオ・ネットワーク)が、知っておかなければならないことを明示するすばらしい記事を書いている。

テック政策関連の注目研究

ネット上での嫌がらせが現実世界での暴力につながる可能性があるという証拠は積み上がる一方だが、9月12日に公表された「テック・ポリシー・プレス」の報告書が、さらなる証拠を積み上げている。この報告書は、パレスチナのデジタル権を擁護する非営利団体「7amleh – ソーシャルメディアの進歩のためのアラブ・センター(Arab Center for the Advancement of Social Media)」の職員である、イチャソ・ドミンゲス・デ・オラサバルが執筆したものだ。同団体は6月にもこのテーマに関する報告書を公表している。

7amlehの研究者たちは、イスラエル人入植者とパレスチナ人住民の対立の中心となっているパレスチナの村「フワラ」に関するツイートを調べた。研究者たちは感情分析アルゴリズムを使って、「フワラ(#חוארה)」や「フワラを消し去れ(#חוארה_את_לק)」というハッシュタグの付いた、今年始めから3月末までの1万5000件を超えるヘブライ語のツイートを分析した。その結果、分析対象となったツイートの80%以上に、フワラの人々に対する暴力、人種差別、憎悪を煽り立てる内容が含まれていることが分かった。

これは、ネット上の扇動的な言論が現実世界の暴力の厄介な一面となっている新たな例であり、ソーシャルメディア、特にヘブライ語の投稿がイスラエル人とパレスチナ人の間の対立で果たす役割に関するかなり珍しい研究である。

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