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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第199回

「テレビの映像が乱れる可能性があります」 何が原因なのか

2023年08月15日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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テレビの「受信障害」対策

なぜ映像が乱れるのか?

 「ご使用中のテレビの映像が乱れる可能性があります」。最近、こんなチラシやパンフレットを見たことがありませんか。これは700MHz帯(710MHz〜806MHz)の電波の再編によるものです。

 この電波の再編のおもな目的は、ワイヤレスマイクやテレビ中継用の周波数帯を空け、そこに携帯電話用に割り振りすること。新しい基地局で使われ始める700MHz帯が、テレビの地上デジタル放送と帯域が近いため、テレビの画面が乱れる可能性が想定されています。

どんな映像の乱れがあるか?

 テレビ映像の乱れについては、画面が動かなくなる(フリーズ)、ブロックノイズが現れる、画面が映らなくなる(ブラックアウト)などの障害が起こる可能性があるとされています。

テレビの「受信障害」対策

テレビ映像にブロックノイズが入る場合のイメージ

テレビの「受信障害」対策

テレビ映像がブラックアウトする場合のイメージ

乱れやすい地域と乱れにくい地域がある

 この受信障害によるテレビ映像の乱れは地域でも異なるとのこと。もっとも乱れが懸念されているのは、700MHz帯の携帯電話基地局が新たに設置される地域です。そうしたエリアに家屋やビルで地上波デジタル放送をご覧になるなら、以下のような対策が必要だといわれています。

○障害が起こりやすい地域(事前対策が必要な地域)
新たに設置された700MHz帯携帯電話基地局の周辺の家屋やビルで地上波デジタル放送を見る場合

○障害が起こりにくい地域(障害があったときに対応する地域)
その他の地域で地上波デジタル放送を見る場合

 ただし、ケーブルテレビを利用する場合、今回の電波帯の再編や新基地局の影響は受けません。

 自分のテレビが新基地局の設置の影響を受けやすい地域かどうかは、ポストなどに投函されるチラシやパンフレットでも確認できます。また、下で紹介する「700MHz利用推進協会」の対策員の訪問なども実施されています。

テレビの「受信障害」対策

小売店やコンビニなどで配布されるパンフレット(新基地局周辺でないバージョン)

テレビの映像に影響が出たらコールセンターへ

 700MHz帯の活用は2015年から始まっていて、新しく700MHz帯の電波を使う基地局ができるたびに、その周辺の住居にチラシを配っています。

 総務省からも、「お住まいの近くに700MHz帯携帯電話基地局が開設され、テレビ受信への影響が想定される場合には、事前に『一般社団法人700MHz利用推進協会』より、受信障害対策工事のお願い等の周知があります」とアナウンスされています(総務省|700MHz帯の周波数再編と地デジテレビブースター対策について)。

 たとえば、筆者の家の近くでは、8月17日に試験電波が発射されるようです。このような、700MHz帯の利用による影響でテレビ画面に乱れが発生したと考えられる場合、「700MHz利用推進協会」(電話0120-700-012、受付時間9:00-22:00。年中無休)に連絡しましょう。

 回復作業は無料です。なお、700MHz利用推進協会はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが正会員の一般社団法人です(参考:テレビの「受信障害」対策がはじまっています | 一般社団法人 700MHz利用推進協会)。

おもな対策はテレビ受信ブースターの交換

 700MHz利用推進協会による対策作業は、おもにテレビ受信ブースターの調整や交換です。テレビ受信ブースターは、アンテナで受信するテレビ電波(今回は地上波テレビで使われる710MHzまでの電波)を増幅する装置のこと。

 アンテナで受信するテレビ電波が弱いときや、アンテナからテレビまでのケーブルが長い、分配器を使用している場合などに使われます。

 テレビ受信ブースターには屋内用と屋外用があり、屋内用は天井裏などに設置されることが多く、屋外用はアンテナのそばに設置されます。またテレビごとに周辺に設置する小型のブースターもあります。いずれのブースターでも電源が必要で、最近ではテレビのUSB端子から給電するタイプも登場しています。

 家を新築、改修するときなど、新しい受信ブースターを購入するときは、電波再編に対応した「DHマーク710」があるテレビ受信ブースターを選んで設置することも大切です。

関連して注意するべき2つのこと
詐欺・悪徳商法と、ワイヤレスマイクについて

 今回の電波再編で注意すべきことは、今回の映像の乱れにつけこんだ詐欺や悪徳商法です。今回の電波帯の再編によるブースターの交換はすべて無料です。もし不審に感じた場合は、上記のコールセンターに問い合わせるといいでしょう。

 もう1つ、意外に忘れがちなのは、電波法が改正され、使えなくなるワイヤレスマイクがあること。

 もともとその周波数帯(770〜806MHz)で使っていた、ワイヤレスマイク(「A型ワイヤレスマイク」に分類されます)やFPU(事業用テレビ中継波)は、770MHz帯から470〜710MHz、710〜714MHz、1240〜1252MHz、1252〜1260MHzに移行されています(A型ワイヤレスマイクは2019年3月31日までが使用期限)。

 ただ、770〜806MHzを使用するA型ワイヤレスマイクに関しては、運用の際には許可が必要であることや、使用期限が終了していることから、ほとんどの読者の方には影響がないことと思われます。

ワイヤレスマイク

筆者もプレゼンやショーには、ワイヤレスマイク、トランスミッター、レシーバー一式を携行しています。こちらの機器で使用する周波数は2.4GHz

 ただ、これと関連して、ワイヤレスマイクに関してはもう1つ注意しなければならないことがあります。2005年、電波法に関連する法案である無線設備規制において、マイクなどの無線設備のスプリアス発射の強度の許容値が改正されました。

 スプリアス発射とは、発信側の機械が出したい周波数以外の電波も出してしまうこと。これが強くなってしまうと、電波を受け取らなくてよい機器もその電波を受信してしまうため、法案改正ではスプリアス発射の強度が規制されたのです。

 この法案改正により、それまでの旧規格で作られたワイヤレスマイクの使用期限は2022年11月30日までと定められました。ただ、コロナ禍による社会経済への影響などを考慮し、他の無線局の運用に妨害を与えない場合に限り、当分の間、期限を延長するとされています(総務省 電波利用ホームページ|免許関係|無線設備のスプリアス発射の強度の許容値)。

 もっとも、移行期限は延長されましたが、法改正そのものは存続しています。新たな使用期限の設定にそなえ、ワイヤレスマイクを扱うメーカーも、公式サイトで買い替えに向けたガイドなどを公開しています(参考:Shureの「旧規格B帯ワイヤレスマイク買い替えガイド」)。

SHURE

新たな使用期限の設定にそなえ、買い替えを促すワイヤレスマイクを扱うメーカーも多い。こちらはShureのサイト

 ちなみに使用期限を過ぎてからも旧規格のワイヤレスマイクを使用した場合、電波法違反で罰則・罰金の対象になる可能性があります(電波法 第110条「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、第108条の2「5年以下の懲役又は250万円以下の罰金」)。

 いずれにせよ、電波法の罰則や罰金は上記のように厳しいものです。10年以上前に購入したようなワイヤレスマイクを使うときは、メーカーに型番を問い合わせる、買い替えを検討するなどの注意が必要です。

前田知洋(まえだ ともひろ)

前田知洋

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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