新技術によりリーク電流を大幅に削減
ここまで説明してきたようにSF3はGAA(Samsung用語ではMBCFET:Multi Bridge Channel FET)を採用しているが、これはインテルのRibbonFETなどと同じようにNano Sheetをゲートに使う構造になっている。この構造のメリットを端的に示したのが下の画像だ。
FinFETの場合、駆動電流を増やす(=高速化する)場合にはFinの数を増やすことになるが、これは底面積がそれだけ増えることになる。ところがNano Sheetの場合、Sheetを垂直方向に積み重ねる形なので、3枚重ねようが4枚重ねようが底面積は不変である。したがって同じ底面積でより高速化が可能である。
また高密度版の場合は底面積が減らせるので、それだけセルの高さを抑えられることになる。この底面積と速度の関係をまとめたのが下の画像である。
UHD(超高密度)は1~2 Sheet、HD(高密度)は1~3 Sheet、HP(高性能)は1~4 Sheetと、Sheetの枚数を増やすとそれだけ動作周波数を上げやすくなるし、FinFETと異なりゲートの周囲が完全に絶縁層で覆われている(*5)分リーク電流に起因する消費電力を削減でき、また上で述べたようにNano Sheetを垂直に積層する関係で、特に高速のトランジスタの場合には底面積削減にも貢献する。
(*5) FinFETは、Finそのものは絶縁層で覆われているが、Finの根本は絶縁層がないのでそこからのリークを止められない。
このNano Sheetの幅と特性に関する結果が下の画像だ。
別にNano Sheetに限った話ではないが、配線の幅は広いほど抵抗値が低くなる。したがって一番狭いNS1と一番広いNS4を比較した場合はNS1が一番抵抗が高くなり、NS4が低くなることそのものは当然の原理だが、一番最初(上の画像の右グラフのグレー)では、NS4の抵抗値を1とするとNS1の抵抗値の差が18%となっていた。
ところがこれを2回(Phase-1/Phase-2)見直しを掛けて製造方法(growth rate)やソース/ドレインの比率を調整することで、最終的にNS1とNS4の抵抗値の差を4%まで縮めることに成功した、とされる。
先ほどGAAだとリーク電流が減る、という話をしたがこれに関する詳細が下の画像である。
一般論としてソースとドレインの距離が近いと、ソースとドレインの間でのリークが問題になってくるが、これも新しい技術(具体的な手法は未公開)により大幅に削減した結果として、リーク電流の絶対値と、リーク電流のバラつきの幅、両方が大幅に削減されたとする。
ちなみにグレーが従来のリーク電流(の最大値と最小値、中央値)、青がSF3のものである。Wide Nano Sheetの方が若干リーク電流は多いが、それでも従来に比べると大幅削減されているのがわかる。
この連載の記事
-
第771回
PC
277もの特許を使用して標準化した高速シリアルバスIEEE 1394 消え去ったI/F史 -
第770回
PC
キーボードとマウスをつなぐDINおよびPS/2コネクター 消え去ったI/F史 -
第769回
PC
HDDのコントローラーとI/Fを一体化して爆発的に普及したIDE 消え去ったI/F史 -
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ - この連載の一覧へ