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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第195回

ワイヤレスでクリアなマイクの音を届ける マジシャンも使う「SYSTEM10」とは

2023年06月20日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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プレゼンの内容も大切だけど、PAも大切

 日本時間6月6日2時から開催された、アップルの開発者向けイベント「WWDC23」。技術情報はもちろんのこと、同社初のARヘッドセット「Apple Vision Pro」や、15.3型ディスプレイとM2を搭載した「MacBook Air」など、新製品に心を踊らせた人も多いでしょう。

 そんなアップルの基調講演だけでなく、コンサートや演劇などで筆者が注目してしまうのは、内容もさることながら「PA」です。PAとは「Public Address」の略で、音響設備や放送設備のこと。

 プレゼンターがどんなに素晴らしいことを言っても、PAが悪く、観客に声がうまく伝わらなければ、プレゼン自体が台無しになることもあるからです。

ハンドマイク? ピンマイク? それともヘッドセット?

 「PAといっても、観客に声が伝われば何でもよいのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。身振り手振りが大切なプレゼンにおいては、マイクを手に持つことを嫌うプレゼンターも多いのです。

 アップルの基調講演でスティーブ・ジョブズがスライドのリモコンを片手にステージを歩き回るプレゼンは、多くの人に強い印象をあたえました。プレゼンのそれまでのスタイル……「演台」の後ろに立ち、卓上のマイクに話すやり方は、古くさいイメージになってしまったかもしれません。

スティーブ・ジョブズによるプレゼン(2008年)

 ハンズフリーのプレゼンでは、シャツの首元などにつけるピンマイク(ラベリア型マイク)が使われることがほとんどです。しかし、観客とアイコンタクトをとるため、首を前後左右に動かすプレゼンターやパフォーマーには向きません。なぜなら、首の向きが変わるたびに音量が変化してしまうからです。

 ミュージシャンやアクターなど、エンターテイメントのジャンルではヘッドセット型のマイクが使われます。筆者は目立たない肌色のヘッドセットマイク、DPA「CORE 4088」を愛用しています。

筆者の愛用しているCORE 4088。5年前に購入して、価格は10万円ほどだった

 DPAはデンマークの音響機器メーカーで、汗や湿気に強いマイクを製造するメーカーとして有名です。ただ、価格がマイク部分だけで10万円以上なのが難点。専用機材って高いんですよね。

 さて、筆者はプレゼンやショーで使用するためにヘッドセット型マイクを購入したわけですが、そのマイクで拾った声を会場のスピーカーなどに届ける必要があります。

 それらを有線で繋ぐとなると、取り回しなど、いろいろわずらわしいところも出てきます。そこで、ワイヤレスで運用するために、トランスミッター(送信機)とレシーバー(受信機)を用意する必要があるのです。

2.4GHz帯デジタルワイヤレスシステム「SYSTEM10」

 今回紹介するオーディオテクニカの「SYSTEM10」は、デジタルワイヤレスシステムを構築する製品のシリーズ。

 筆者が購入したのは、ベルトなどに装着するトランスミッターとレシーバーの組み合わせ「ATW-1101」です(3万7400円、ヨドバシカメラで購入)。この組み合わせでは音声の送信と受信をするだけなので、利用するにはマイクと音を出すためのアンプやスピーカーなどが必要です。

レシーバーの背面にはゲイン調整、XLR3ピン、モノラルジャック、電源ジャックがある

 アナログで電波を送信するワイヤレスマイクもありますが、音が途切れたり、混線、ノイズなどが起きたりする場合があります。とくにイベントや会議などが重なりやすい会場では注意が必要です。

 SYSTEM10では2.4GHz帯を使ったデジタル通信で音声を送受信するため、そうしたトラブルが起こりにくいのが特徴。ただし、2.4GHz帯は無線LANでも使われる周波数です。SYSTEM10は、トランスミッターとレシーバーの間でリアルタイムに双方向通信を行うことで、干渉周波数を自動回避しているとのこと。

 また、2つの同じ音声データを時間をずらして送信することで音声エラー(音飛び)が起きないようにしているそうです。

音質の向上はもちろん、小型で軽量なのがありがたい

 SYSTEM 10を使ってみての第一印象は、音質の向上です。筆者は、プロのPAオペレーターほど耳はよくありませんが、シロウトの耳にもクリアなサウンド。プロのPAエンジニアによるレビューでも「(音の)ヌケが非常にいい」と評判は上々だそうです。

 もう一つよかったのは、レシーバーが小型軽量なこと(およそ幅190×奥行き128.5×高さ46.2mm、重量およそ290g)。通常、この手の受信機はラックマウントと呼ばれる専用の棚に入れるタイプがほとんどです。

 しかし筆者が購入したATW-1101では、普段マイクを持ち運んでいるペリカン(Pelican)の小型ケースに、トランスミッターとレシーバーや電源アダプターが一緒に収納できるほどの小ささです。

小型のペリカンケースにマイク、トランスミッター、レシーバー、マイク、電源アダプター、電池などがすべて収納できるコンパクトさ

 最大8チャンネル(8本のマイク)を同時使用可能ですが、設定は複雑ではありません。購入後のセットアップも自動設定機能のため簡単でした。開封して電池と電源をつなげば、すぐに使えます。

 送信距離は30メートル(見通し時、妨害電波がない場合)なので、ほとんどのステージや会場で使用可能。そんなことも筆者のようなプロユースでは心強いばかりです。

 デジタルになったことで「バッテリーの持ちが悪くなった」というレビューも見かけましたが、1度のパフォーマンスが最長90分程度の筆者の使用環境では、バッテリーの減りはそれほど気になりません。

 ただし、充電式のニッケル水素電池などを使用する場合には注意が必要です。その理由はニッケル水素電池は公称電圧が1.2Vの製品がほとんどのため。ショーの最中での音飛びなどを避けるため、新品のアルカリ乾電池を毎回用意しています。

プレゼンが多い人には、自分専用マイクがオススメ

 筆者のようなショービジネスの人間だけでなく、ビジネスパーソンでも、プレゼンする機会が多いなら自分専用のマイクを持つのもおすすめです。今回紹介したSYSTEM10のような、デジタルワイヤレスシステムを用意するのもよいでしょう。

 「会場のマイクの音量が小さい」「音切れがする」「ノイズが多い」など、プレゼン中のイライラを回避するためにも、お気に入りのマイクシステムを持っておくのはいかがでしょうか。

 プレゼンターの声がしっかりと聞こえると、プレゼンがよりよいものに感じられるのは筆者だけではないはずです。もちろん、プレゼンの内容も大切ですが……。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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