このページの本文へ

発達障害の人に向く職業、向かない職業は何か

2018年07月10日 06時00分更新

文● 布施翔悟(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

2018年4月に障害者雇用促進法が改正され、企業の雇用義務の対象に、発達障害を含む精神障害者が加わった。大人の50人に3人程度は発達障害といわれるが、個々の特性に合った職に就けば、彼らも十分にその能力を発揮できるという。そんな発達障害者に向いている職業、向いていない職業や、企業側の対応の仕方を、『となりの少年少女A』(河出書房新社)の著者で、約20年間、発達障害について取材しているジャーナリストの草薙厚子氏に聞いた。(清談社 布施翔悟)

まずは発達障害を
正しく理解しよう

ホワイトボードにタスクを書いておくことは、発達障害の人を助けます
発達障害のある人々にとっては、視覚が重要。ホワイトボードなどにスケジュールやタスクを書いておくなどの工夫をすれば、ぐっとミスを減らせて働きやすくなる

 近頃よく耳にするようになった発達障害。だが、一口に発達障害と言っても、大きく3つに分類され、それぞれその特性も異なる。

 まず、ASD(自閉症スペクトラム)。かつては「自閉症」「広汎性発達障害」「特定不能型広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」などさまざまな名称が用いられていたが、現在ではそれらを総称して、「自閉症スペクトラム」と呼ばれている。

 主な特性は、「コミュニケーションの障害」「社会的なやりとりの障害」「こだわり行動」の3つ。一言で言えば「空気が読めない」。相手の表情やしぐさからサインを読み取ることができないため、スムーズに意思の疎通ができず、たとえ話や冗談も通じない。これが、社会生活を送る上で相当な障壁になることは想像に難くない。

 次にADHD(注意欠陥・多動性障害)。不注意、落ち着きがない(多動性)、よく考えずに行動する(衝動性)という3つの特性がある。極端に遅刻や忘れ物が多い、デスクが片付けられない、頻繁に貧乏揺すりをする、周囲に指示を仰がずに勝手に行動する、などが特徴だ。

 最後にLD(学習障害)。知的能力全般に遅れはないものの、「読む」「聞く」「話す」「書く」「計算する」「推論する」など、学習に関わる能力や機能において、特定の能力の実行が困難な状態のことを指す。

 
 有名人では、俳優のトム・クルーズもLDとして知られている。彼は文字の意味を脳内で認識したり、理解したりするのに時間を要する「失読症」というLDで、映画の台本などは第三者に音読してもらうことでセリフを覚えているのだという。

それぞれの特性から分かる
向く職業、向かない職業

 では、それぞれに向いている職業、向いていない職業には、どのようなものがあるのか。

「まず、ASDの人に向いているのは『コミュニケーションをあまり必要としない職業』です。例えばプログラマーなどのコンピューター関連の仕事が挙げられるでしょう。また、なにか1つの物事に対して抜群の集中力を発揮する、という特性も持っているので、研究者、校正・校閲のような、スペシャリスト的な仕事に向いています。単純な入力作業など、同じことを何回も繰り返すような仕事にも向いているでしょう」(草薙氏、以下同)

 逆に、コミュニケーション能力を要するような職業や、マルチタスク能力を要する職業、臨機応変に対応しなければならない職業などには向いていない。具体的には接客業や営業職、教師などがこれに当たる。また、様々な業務を並行するマルチタスク能力が必要な一般事務や電話オペレーターなども難しそうだ。

 ADHDの人は、職種以前に、まずは自分の興味のある分野から仕事を探すべきだという。

「何事にも強い動機づけが必要なADHDの人には、その人が興味を持っている分野の職業が向いています。得意だ、好きだ、という明確な意思があれば、そのハンディを克服できるでしょう。また、興味の対象が移り変わりやすいので、その日によって扱う物事が変わるような職業が向いています。具体的に挙げるならば、ジャーナリストなどのマスコミ関係、芸能人、個人経営の貿易商などです。逆にマルチタスク能力を必要とする職業は不向き。また、継続した集中力が求められる、工場の流れ作業のような仕事も難しいでしょう」

LDの人は全体像を読み取る
能力に長けている

 3つ目のLDの人は、全体像を読み取る力に長けているため、視覚的な仕事が向いている。

「建築家、彫刻家、カメラマン、デザイナー、俳優、シェフ、アニメーターなどが向いています。細かい情報を読み取るのは苦手かもしれませんが、そのぶん、記号として視覚的に物事を認識できる仕事がいいのでしょう」

 ただし、LDの人は苦手な能力が人それぞれ異なるため、一概に言うことはできない。何が苦手なのかをしっかりと把握した上で職業選択に臨む必要があるという。

 注意したいのはASDとADHDを併発しているといったケースもあることだ。もし併発している場合は、特にどの症状が強く出ているのかをより見極め、「絶対にできないこと」をあぶり出す必要がある。

 一方、企業側もこれからますます発達障害者への対応が必要になってくるわけだが、草薙氏は、「大企業の場合は、特例子会社をつくるのが得策」だという。

発達障害者と共に働くには
タスクの視覚化が有効

「特例子会社というのは、障害のある人の雇用の促進や、安定を図るために設立された会社のこと。正社員46人以上の民間企業につき法定雇用率の2.2%の障害者を雇用しなければなりません。一定の要件を満たせば、この数字は系列会社も含めてのものなので、グループの障害者雇用を、特例子会社でまとめて請け負うこともできるのです。あらかじめ障害があると分かっていれば、障害のない人との衝突を避けることができますし、雇用された障害者側も、時短などを含め個々の能力に合った仕事をすることができる。雇用主と障害者の双方にメリットがあるのです」

 とはいえ、小資本の中小企業が特例子会社を設立するのは簡単ではないだろう。そこで、実際に発達障害者と一緒に働く際の、具体的な配慮の仕方を聞いた。

「発達障害のある人々にとって重要なのは視覚。なので、大きなボードにスケジュールや重要なタスクを書いておくなどの工夫をすれば、発達障害者にありがちな、業務の抜け落ちを減らすことができるでしょう。また、特にASDの人は急な変化に対応するのが苦手。突然『これ、処理しておいて』と言われてもパニックになってしまいます。比喩も苦手なので、この場合、『処理する』ことが捨てることなのか、仕事を終わらせることなのかが分かりません。従って、指示をする際は『今やっている仕事は中断してください。いつ、どこで、どうやって、何時何分までに、○○の集計を終わらせておいて』と、かなり具体的に言う必要があります」

 発達障害者は一見、障害があるようには見えないことも多いが、障害がない人との間には、薄い膜のような隔たりがある。一見破れそうで破ることができない、双方がもどかしく感じる隔たりだ。

 発達障害がある人々は、自らの適性をしっかり把握した上で職業を選ぶべきであり、雇用主側は、発達障害という特性を理解し、ケアをする必要がある。双方が歩み寄ることで、共存が可能になっていくはずだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

アスキー・ビジネスセレクション

ピックアップ