eSIMでグローバル通信が可能なKDDI「IoT世界基盤」とOT-IoT実績のある日立「Lumada」が連携
KDDIと日立がグローバルIoT事業で協業、幅広い産業へ展開
2018年06月08日 07時00分更新
KDDIと日立製作所は2018年6月7日、グローバルIoT事業での協業を発表した。KDDIのIoT通信接続/データ分析プラットフォーム「IoT世界基盤」と、日立のIoTプラットフォーム「Lumada」とを連携させて、さまざまな産業におけるIoT活用を通じた価値創出やビジネス変革を支援する。
今回の協業に基づき、KDDIでは「IoT世界基盤」の中核となるグローバル通信プラットフォームの開発を促進する。また日立は、この通信プラットフォームとLumadaとを連携させるほか、同通信プラットフォームにおける主要機能の開発/構築支援を行う。
協業の第1弾として2018年7月から、日立産機システムがグローバルに展開する産業用インクジェットプリンターに、グローバル通信プラットフォームとLumadaを試験適用する。全世界で10万台が稼働しているこの産業用プリンターは、非接触型の印字方式を採用した高速プリンターで、主に食品や飲料、薬品などの工場において製造ロット番号や消費期限などの印字に活用されている。
今回の試験導入では、顧客である米国大手食品メーカーの工場に配置された産業用プリンターに対して、モバイル回線経由での遠隔モニタリングを行うことで、印字品質の管理や機器状態の一括監視、保守コスト低減といった効果の検証を行う。
従来、こうした産業用プリンターは工場内の有線LANや無線LANに接続されていたが、有線の場合は工場内における通信ケーブルの取り回しが、また無線では通信セキュリティの確保や導入設定の煩雑さなどが課題となっていた。今回、KDDIのグローバル通信プラットフォームを適用することで、顧客側で煩雑な設定を行うことなく現地キャリアを通じたセキュアで高品質なIoT通信環境が実現し、データの大容量化への対応や、高品質な遠隔モニタリングのグローバル展開が見込める。さらに将来的には、高度なデータ分析に基づく障害発生前の予兆メンテナンスサービス拡大、コスト低減も目指すという。
「今回、試験導入を行う大手食品メーカーでは、有線接続による遠隔モニタリングの導入を検討していたが、既設機(プリンター)への接続やレイアウト変更による追加工事の発生などの課題を抱えていた。IoT世界基盤の活用でこうした課題を解決する。さらに、グローバル共通のネットワークで接続できるため、同一システムでグローバルな遠隔モニタリングが実現する」(日立製作所 執行役常務 社会ビジネスユニットCEOの永野勝也氏)
さらに両社では今後、建設機械や工場の生産設備、エネルギーや交通などの社会インフラ設備など、幅広い領域における活用検証を行っていく。顧客の各種設備/機器で生成される多様なデータから新たな価値を創出することで、IoT関連ビジネスを拡大していく考えを示した。
世界50カ国以上の地元キャリアを使い高品質/低コストなIoT通信を
KDDI 取締役執行役員常務の森敬一氏は、IoT世界基盤の中核をなすグローバル通信プラットフォームは、eSIMを採用することで各国キャリアに対応し、ローミングに依存していた従来のグローバル通信環境に比べて高品質かつ低価格な回線を一括運用できること、通信速度や通信容量、セキュリティ、回線管理など多様なメリットがあることなどを強調した。ローミング料金を削減することで「通信コストは多くの国において半額以下で提供できる」という。
「グローバル通信プラットフォームは、日本にいながら、世界中のIoTデバイスを管理、監視することができる。ひとつのeSIMで各国のベストな料金、ベストな通信品質のキャリアと接続が可能であり、導入前から導入後までKDDIがグローバルで一括サポートする。2019年度の商用化に向けて対象国を世界50カ国以上に拡大する予定で、日本企業の海外現地法人の9割以上をカバーする見込みだ」(KDDI 森氏)
一方、日立 永野氏は、幅広い産業分野で実績を持つ同社のIoTプラットフォーム、Lumadaの強みを説明した。豊富なソリューションの提供とパートナー提携により、顧客における新たな価値創出を支援していくと語る。
「Lumadaは、鉄道、運輸、製造など、さまざまな分野の顧客と協創を推進してきた。たとえば、人流データを解析して乗客数に応じた列車運行を実現したり、車両走行データの活用で運輸車両の稼働率を向上したりと、これまでに500件以上のユースケースがある。 Lumadaはスケーラブルでアダプタブルな(拡張可能な)IoTプラットフォームであり、KDDIとの協業は、日立が多岐の分野で培ってきたOTと最先端のITと、グローバルの実績を活用して進めていきたい」(日立 永野氏)
KDDIでは、15年以上にわたってIoTソリューションに取り組んできた。森氏は、「IoT法人契約回線数はここ数年顕著に伸びている」と説明する。
「セコムやトヨタ、いすゞ自動車、ミサワホームなどとも連携し、見守りサービスや自動車の盗難対応、電力の見える化による節電/省エネの取り組みなど、IoTはモノが通信することで顧客の様々な課題を解決できる。KDDIはあらゆるレイヤーで差別化し、ワンストップで提供するIoTソリューションを実現しており、さまざまな業種の企業がビジネスを進めやすくしている」(KDDI 森氏)
2016年6月には、グローバル通信プラットフォームの構築に関してトヨタ自動車との協業も発表している。これはコネクテッドカーの車載通信機(DCM:データコミュニケーションモジュール)とクラウド間で、高品質かつ安定した通信回線を確保するための取り組みであり、今回はそれを他産業に拡大展開したものとなる。KDDI 森氏は、「さまざまな業種へと展開するうえで、最適なパートナーとの協業を模索したい」と語った。
「(グローバル通信プラットフォームによって)国ごとに異なる通信環境を超えて、世界のあらゆる国のクルマからデータを収集する仕組みを構築できる。世界のIoT市場は2020年には247兆円規模になると見込まれており、それに向けて当社は世界で事業を拡大していく。今後は、クルマ向けに構築したグローバル通信プラットフォームを他産業に展開していくことになる。製造業でのモニタリングやAI活用による故障予知/稼働率向上、物流業での国境を越えた輸送車両/物流パレットのリアルタイム管理と最短経路探索、輸送コスト削減、ドライバー/荷物の安全確保などが実現できる」(KDDI 森氏)