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地方の離職主婦を戦力に!企業の「郊外オフィス」に自治体も注目

2018年05月23日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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流山市サテライトオフィス「Trist」
流山市にあるサテライトオフィス「Trist」2号店。代表の尾崎えり子さんも流山市で母になった

「正直うらやましいですね」。ある地方自治体の長は千葉県流山市の主婦活用に嘆息する。

 同市にあるサテライトオフィスに、地方自治体の注目が集まっている。サテライトオフィスとは、企業が本社や支社でもない場所に設置する、遠隔勤務が可能なオフィススペースのこと。自宅勤務とは異なり、民間のシェアオフィスなどを利用するケースが多い。

 流山市は、「母になるなら流山市」というPRが功を奏し、20・30代の子育て世代が流入し続ける自治体だが、企業がここにサテライトオフィスを構え始めているのだ。

 流山市は共働き世帯の大量流入に成功したが、住民がつくばエキスプレスで都心に通勤することを想定していた。だが、移住した女性はいざ出産・子育てが重なると、やはり都心からの距離がネックになり、退職してしまい、そのまま専業主婦やパート主婦になってしまった。流山市は彼女たちの受け皿となるような働く場を提供できておらず、彼女たちはまさに「余り物」状態になってしまっていたのだ。

 先鞭をつけたのは美容系ウェブサイト「@cosme」を運営するアイスタイルだ。「子育て中の社員が流山市に住んでいたが、二人目の子どもの小学校進学を機に『辞めたい』と言い出したことが、サテライトオフィスを考えるきっかけになった」とアイスタイル取締役の山田メユミ氏は話す。都心は空前の採用難。先の社員同様、スキルや能力が高いにもかかわらず、出産・子育てを理由に離職した女性の多さに気づき、同社は「職住近接」をうたった子会社・ISパートナーズを設立した。

 現地のサテライトオフィスの立ち上げは、市内在住の女性起業家・尾崎えりこ氏が手を挙げた。市内の空き店舗を利用し、自己資金と補助金、クラウドファンディングでサテライトオフィス「Trist(トリスト)」を、2016年5月にオープンした。

 企業が同施設を利用する流れを簡単に説明しよう。まず、流山市で説明会を開いて人材を確保し、社員として直接雇用する。その上で、企業はTristに座席料を支払って、社員になった女性たちにリモートワークをしてもらうことになる。初めはISパートナーズの5名だけだったサテライトオフィスワーカーは、いまや11社50名に上り、今年4月には2号店を出店したほどだ。

 企業側がサテライトオフィスの活用を進めるのは、都内で人材を採用できないのが最大の理由だ。最近では通信インフラや在宅勤務の仕組みが整っている会社も多く、地方での採用のハードルは低くなってきた。

 地方での採用は、コスト面でも魅力がある。説明会を開くだけで人が集まるため、採用コストが抑えられるし、もともとスキルのある人が集まるため教育コストも低く抑えられる。もちろん、通勤代もあまりかからない。また、スキルがあってもパート勤務やブランクのある女性は、新卒程度の給与で雇っている企業も少なくない。

 ISパートナーズは、横浜や新潟・六日町でもサテライトオフィスのトライアルを行っているという。シェアオフィスで仕事をするチームを増やしていくという方針で、「もはや自前のオフィスを作る時代ではない」と山田氏は断言する。

 このように、企業と女性のニーズがマッチし、政府の女性活躍推進も後押しして、現在、主婦の再就職は一種のブームを起こしている。女性の再就職支援サービスを行うWarisのワークスタイルクリエーター、小崎亜依子氏は、「一旦主婦になった女性を採用する企業が増えている。再就職を希望する主婦は全国に44.5万人いると推計(出所:総務省「就業構造基本調査」2012年)されるが、これは就活生の42.3万人(出所:リクルートワークス)に匹敵する大きな市場だ。職種としては小売りや介護など現場仕事のニーズが高いが、非正規雇用から正規雇用への間口が広がったことは大きな変化」と話す。

流山市サテライトオフィス「Trist」
「Trist」2号店の外観。市の倉庫を改装した

 こうした流れに、熱い期待を寄せるのが、地元の活性化を図りたい地方自治体だ。サテライトオフィス誘致では宮崎県日南市や徳島県神山町の事例が有名だが、離職主婦に目をつけたのは流山市の戦略である。「地方では、子育て世代で仕事を辞めてしまった女性は、パートでも働ければ御の字の状態。雇用の選択肢が生まれることは、自治体の差別化にもなる」と冒頭の首長も言う。

 しかし一方で、「あれは流山市だからできるのだ」(他の自治体関係者)と言い捨てる人もいる。郊外の流山市の場合、結婚や出産で止むを得ず離職した女性が多い。しかし、もっと田舎の方に行くと、そもそも社会人経験のない女性が多く、企業のお眼鏡にかなうようなスキルの高い女性がいない。そんな田舎まで企業は来てくれない、と諦めの声も上がっている。

 実は、そこに問題の本質がある。いくら女性自身に働く意欲があっても、「スキルが低いのだから、女性はパートでいいじゃないか」という周囲の空気が生まれる。そうなると、自らスキルアップやキャリアアップを志向する女性が出てきにくくなるというスパイラルに陥るのだ。「『うちは女性の活躍を応援していますよ』という空気を、自治体が醸成することが必要」(山田氏)なのである。

 そもそもサテライトオフィスで求められる人材は女性に限らない。Trist2号店には、職住近接を求める男性も入居可能だ。企業も働く人の意識も変わりつつある。第2、第3の流山市の登場が、地方創生の起爆剤になるかもしれない。

(『週刊ダイヤモンド』委嘱記者 相馬留美)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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