今回は毛色を変えて、古いMacintoshのファンには懐かしさを覚えるであろうRasterOpsを紹介したい。
筆者も昔(確か漢字Talk 6.0.3あたりから漢字Talk 7.1あたりまで)はMacintoshのユーザーで、原稿の執筆をMacintosh SE/30+Vimage SE/30の環境でやっていた時代もあった。この時代にRasterOpsの製品は「手が届かないハイエンドグラフィックカード」という位置づけだった。
Ramtek Inc.の2人が起業し
RasterOpsを興す
RasterOpsの2人の創業者はRamtek Inc.の出身である。Ramtekはマサチューセッツ州で1970年代に創業した、コンピューターグラフィックスの草分けの1社である。
下の画像はComputerWorld誌に出したRamtekの広告だが、そもそもカラー(それも16色などではなくフルカラー)の表示は当時としては非常に困難で、かなり大規模な専用システムが必要だった時代だ。
画像の出典は、“Google BooksのComputerWorld 1979年4月23日号”
もちろんこれは1980年以降はコンピューター業界の進化により急速に改善されてゆくのだが、それでも普通のPCやワークステーションの表示能力でビジネスに利用できるフルカラー表示が可能になったのは、現実問題として90年代後半からという気がする。
このRamtekはその後だんだん規模を縮小していく(とはいえ、2002年まで事業が続いていたことはわかっている)。本題はRamtekではない。
このRamtekで働いていたKieth E. Sorenson氏とRobert J. Sherwood氏の2人が独立して1986年に創業したのがRasterOps Corporationである。一応役割としてはSorenson氏がCEO、Sherwood氏がSales/MarketingのVPとなっていたが、2人ともRamtekではエンジニアとして働いていたこともあり、当初は2人で設計から製造・販売まで全部まかなっていたようだ。
Ramtekは言ってみればプロ向けのCG製品を提供するベンダーだったが、RasterOpsはこれをもう少しコンシューマー向けに近い価格で実現しよう、というものだった。
Macintosh II用の
グラフィックボードを販売
幸いだったのは、ちょうど手ごろなプラットフォームが出現したことだ。1987年3月、Apple ComputerはMacintosh IIを発売する。Macintosh IIはQuickDrawを搭載してカラー表示機能をサポートしたほか、NuBusという拡張スロット規格をサポートしていた。
Macintosh IIがコンシューマー向けと言えるか? というと微妙ではあるが(米国での基本価格が3898ドル、日本での価格は60万円)、筆者の周りにもローンを組んで一式100万円オーバーのシステムを純粋にホビーのために購入していた知り合いが2人ほどいたので、今なら大紅蓮丸みたいなものと思えばいいのだろう。
このMacintosh IIのプラットフォームに向けて、RasterOpsは1987年7月にColorboard 108をリリースする。これは8bitカラーのグラフィックボードで、640×480/800×600/1024×768の3種類の解像度をサポート。VRAMを768KB搭載して価格は1595ドルだった。
ちなみにモニターも併売されており、16インチのトリニトロン管で2995ドル、19インチでは4195ドルとなっている。24bitカラーのColorboard 104も同時に発売され、こちらは2.3MBのVRAMを搭載、価格は3495ドルとなっていた。
ボードはともかくモニターが高い、というユーザー向けにはNTSC/PAL出力をサポートしたColorboard 100(やはり8bitカラー)が1795ドルで用意されている。
この製品を誰が使うのかというと、最初のユーザーはDTP向けだったようだ。連載377回でも少し触れたが、Macintosh II+Aldus PageMakerという組み合わせはDTP向けに最適なソリューションとしてたちまち広がることになる。
DTPといっても印刷そのものは従来の印刷機を使うことになるので、カラー印刷も可能(4色分解して版下を作るだけ)になるから、編集の側でフルカラーの編集環境は必須になり、こうした用途にピッタリとはまった形だ。
もっとも当初、RasterOpsはMacintosh IIだけをターゲットにしたわけではなかった。やや後になるが、1990年の10月に(最近富士フイルムに買収された)Eastman KodakがPhoto CDの処理システムを発表する。
これはSunのSPARCStation 1+をベースにしたものだが、RasterOpsはここに向けて24bitカラーに対応したグラフィックボードを提供したりしている。翌1991年10月には、やはりSPARCstationのSBusという拡張スロットに対応したRasterOps SPARC Card TVという製品を発表している。
RasterOps SPARC Card TVはNTSC/PAL/SECAMのビデオ映像をキャプチャーするボードで、2000ドルという価格がついている。ただ同時にRasterOps MediaTimeというNuBus対応のデジタルキャプチャー/編集ボードを3000ドルで発売するなど、マルチプラットフォームを意識したラインナップになっている。
この連載の記事
-
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第789回
PC
切り捨てられた部門が再始動して作り上げたAmpereOne Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第788回
PC
Meteor Lakeを凌駕する性能のQualcomm「Oryon」 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ