DTPでの需要が高まる
このあたりが変わってくるのは、1986年である。SyQuestはまず容量15MBの「SQ319RD」ドライブと「SQ300」カートリッジを、ついで容量44MBの「SQ555」ドライブと「SQ400」カートリッジを発表する。
画像の出典は、“Wikimedia Commons”
今も昔も「大容量リムーバブルディスク」というとバックアップ用がまず頭に浮かぶのは同じらしいが、この頃PC向けにもテープドライブが出現し、アクセス速度では勝るものの容量/価格比ではテープが優れているということで、当初の「HDDのバックアップ用」としての普及は、SyQuestが思ったほどには進まなかった。
ところが意外なところから需要が発生した。それはDTPである。1984年にApple ComputerがMacintoshをリリースしたことで、Macintoshを利用した印刷向けのDTPの機運が高まった。1985年には定番とも言えるAldus Pagemaker(その後Adobeに買収され、Version 7.0をもって開発打ち切りになった)の1.0が発表され、さまざまなシーンで使われ始めていた。
さすがに初代のMac 128Kで動かすのはメモリー的にも画面サイズ的にも無理があるが、1986年のMacintosh Plusとか1987年のMacintosh IIクラスを使えば現実的にDTPが可能になった。
ただDTPで作った画面をLocaltalkで接続したLaserWriterで出力して終わりなら問題はないのだが、デザイナーが依頼を受けて作成したものを取引先に電子納品になった瞬間に、「どうやって受け渡すか?」という問題が発生した。
当時のHDDはせいぜい100MBあるかないか程度で、その一方生成した印刷物のデータも数十MBにおよぶことがあったため、FDDでは論外だった。こうした問題の解決にSyQuestのドライブは非常に有効な解決策となった。SQ400のカートリッジを納品すればいいからだ。
このDTP市場はSyQuestが急激にシェアを伸ばす切っかけとなった。1988年の売上は2000万ドルに達し、翌1989年は5000万ドルを超え、1990年には8000万ドルまで売上を伸ばした。ちなみにこの1990年に同社はドライブを15万台、カートリッジを70万個売り上げている。
SyQuestによれば1990年のリムーバブルメディアのシェアの9割を同社が占めているとしており、売上の75%はMacintosh向けだったそうだ。翌1991年には売上が1億1500万ドルまで伸ばしており、営業利益も600万ドルになっていた。
この頃Iftikar氏はBusiness Journalのインタビューの中で、1995年には売上げが10億ドルに達する見込みであると語っている。とはいえ、そろそろMacintosh向けの売れ行きも一段落してきたため、今度はIBM互換のプラットフォーム向けに商品の転換を始める。
マイクロソフトもこの頃Windowsを投入して、MacintoshほどではないにせよGUIベースのアプリケーションを導入し、前述のPageMakerはWindowsプラットフォーム向けにも投入されていたため、Windows上でDTPに近いことができた。
Iomegaと真っ向勝負
互換カートリッジで売上減
ところがここで立ちはだかったのがIomegaである。同社はSyQuestと同じ市場に競合製品である「Bernoulli」ドライブを低価格で投入、激しい価格競争に陥った結果、SyQuestの1991年の営業利益は17%ほど下落している。
ただ1991年に新規株式公開を行なって営業原資を手に入れたこともあり、売上そのものは1992年には1億7400万ドル、1993年は2億600万ドルと順調に伸びていった。さらに1991年は不調だった営業利益も1992年には1350万ドル、1993年は1520万ドルまで回復しており、一見順調に見えた。
だが、1992年にフランスのNomai Inc.がSyQuestと互換カートリッジの販売を始め、1993年にIomegaがこのNomaiカートリッジの米国での取り扱いを始めたことで、様相は一変する。
リムーバブルドライブの場合、カートリッジの売上が営業的に非常に重要である。今で言えば、プリンターのビジネスがプリンター本体ではなくインクやトナーなどの消耗品で成立しているようなもので、1992年のSyQuestの場合は売上げの55%がカートリッジからのものであった。
当然ながらSyQuestはNomaiとIomegaを相手取っての訴訟を行なうが、即座の販売停止は認められず、数年を要する法廷闘争にもつれ込んだ結果として、当面の売上減には効果がなかった。
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