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バレンタイン商戦という「仕掛け」に乗らない企業が出始めた

2018年02月14日 06時00分更新

文● 井出留美(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです

今年もバレンタインデーを迎えた。今年も職場でたくさんの「義理チョコ」が配られる。女性は「渡すべきかどうか」と悩み、もらった男性側もホワイトデーで「倍返し」する経済的負担が大きい。節分の恵方巻と同様、業界側が仕掛ける「イベント」に乗せられ、消費者が振り回される時代はいつまで続くのか。そんな中、企業側も少しずつ変化が生じている。(食品ロス問題専門家、消費生活アドバイザー 井出留美)

バレンタインでも我が道をゆく
潔さのある企業

 バレンタインデーを前に、ゴディバ ジャパンが日本経済新聞に掲載した「義理チョコはやめよう」の広告が話題となっている。

 恵方巻の大量販売に異をとなえる広告を打ち、顧客から称賛された兵庫県のスーパー、ヤマダストアーのように、「他の大勢には与(くみ)しない」企業の姿勢が評価されつつあるのを感じる。

 まさに、“バレンタイン 我が道をゆく 潔さ”という感じだが、そのような企業は少しずつ増え始めている。

 たとえば「ヨックモック」だ。筆者は自宅から歩いてすぐの百貨店に行ってみた。ヨックモックは、地下一階の食料品売り場にある菓子コーナーの一角を占めている。商品群にバレンタインデー特有の彩りや華やかさはない。バレンタイン向けにラッピングされている商品が棚の上に並ぶ以外は、普段通りの品揃えだ。だからこそ、どちらを向いてもバレンタイン専用商品が溢れる中で、そのシンプルさと定番がひときわ目立っている。

 公式サイトはどうだろうか。確認してみると、売り場同様、通常の商品を前面に出しているイメージだ。

 春夏と秋冬で商品群を入れ替えているようで、リーフレットは「WINTER COLLECTION 2017-2018」となっている。一方、多くのチョコレートメーカーでは「2018年バレンタイン」という冊子を制作している。

 おそらくバレンタインデーが終われば廃棄処分だろう。ヨックモックのように季節別リーフレットであれば、バレンタインデーが終わっても、しばらくは継続して活用できる。

バレンタイン用には
専用商品ではなく「帯」で対応

 また先日は、1年半ぶりに沖縄県の石垣島へ行った。農林水産省事業の一環で、食品ロスとフードバンクの講演に来て以来だ。

 沖縄県には「御菓子御殿」という、紅いもタルトをはじめとした土産物の菓子を扱うチェーン店がある。読谷村の本店を始め、那覇市内の国際通りなど、沖縄県内に10店舗以上を構えている。

 石垣市の離島ターミナルから歩いて数分、730(ななさんまる)交差点の近くに石垣730(ななさんまる)店がある。ここに行ってみて、まず驚いたのは、ペットの犬向けの商品が売られていたことだ。小袋入りで、見た目は普通のお土産品と変わらない。店内の目立つ場所に複数展示されていた。

 人間用(!?)としては、“Happy Valentine’s Day”というPOP(販売促進のための掲示)があった。沖縄県の黒糖の粒が入ったチョコレートクッキー「黒糖ショコラとろ~る」だ。さっくりしたクッキーの中にとろけるショコラが入っている。

 バレンタイン仕様専用商品、というわけではなく、POPの下には「バレンタイン用の帯あります お気軽にお声かけください」と書いてあった。この方法であれば、「バレンタインに」と頼まれたお客さんだけに包装紙をかければよいので、バレンタインデーを過ぎた翌日以降も、普段通りに商品を販売することができる。

包装紙だけを変えれば
十分に食べられる商品が多い

 実際、筆者が食品メーカーを退職してからの3年間、広報として務めていたフードバンクにも、バレンタインやハロウィンの後、たくさんのチョコレートや菓子が寄付されてきた。それを見て思ったのは「包装紙だけ変えればまだ十分に食べられるのに」ということだ。パッケージがバレンタインというだけで捨てられるのは忍びない。

 ある業界の方に聞いたところ、クリスマス時期に販売されるブーツ型の菓子は、中身の賞味期限が6ヵ月で切れるため、売れ残ったものは中身を出して廃棄し、ブーツだけはまた翌年使うとのことだった。包装は再利用し、中身は廃棄する。もちろん、すべての企業がそのようにしているとは限らず、包装も全て一括して廃棄する場合もあるだろう。

 食品メーカー勤務時には全く気づかなかったことだが、フードバンクには毎年「季節が遅れてやってきた」。

 お正月が明けると、数万円するおせち料理が寄付されてきた。売れ残りだ。昔と違い、常温ではなく冷凍で流通しているおせちがあり、三が日が過ぎても充分食べることができる。鏡餅や切り餅もたくさん寄贈されてきた。バレンタインやハロウィンが終わればチョコレートや菓子が送られてくる。クリスマスも同様だ。

※フードバンク:充分に食べられるにもかかわらず、賞味期限接近などの理由で商品として流通できないものを引き取り、食品を必要とする人に届ける活動もしくはそのような活動を行う組織を指す

ゴディバとヤマダストアーの共通点
コンビニも「冷静」になってきた!?

 冒頭でも触れたが、最近では、ゴディバ ジャパンがバレンタインデーの2週間前、2月1日に日本経済新聞に掲載した「義理チョコはやめよう」の広告は話題を呼んだ。内心、そう思っていた人がたくさんいるということだろう。

 これを受け、「プレミアム義理チョコショップ」を都内に構える有楽製菓の公式Twitterアカウントは次のように反応した。

『とある広告が話題のようですね。よそはよそ、うちはうち。みんなちがって、みんないい。ということで有楽製菓は引き続き「日頃の感謝を伝えるきっかけ」として義理チョコ文化を応援いたします』

 ゴディバ ジャパンの社長は「義理チョコをあげるのが楽しいと考える人(中略)には今後ともぜひ続けていただきたいと思います(中略)でも、もし義理チョコが少しでも苦痛になっている人がいるのであれば、それはやめてしまった方がいいのではないか、と私たちは思います。」とwithnewsのインタビューで語っている(参考記事:『ゴディバ「義理チョコをやめよう」 日経新聞に広告載せた理由を聞く』)。

 ゴディバの広告の意図は、「嫌々やるような、心のこもらない贈り物ならやめよう」という提言だったと思う。たとえ義理でも、お世話になっているから差し上げたい、あの人に喜んでもらいたい、という気持ちがあるのであればよいということだろう。

 また、ゴディバの社長は「贈る人が主役」と語っている。一方で「贈りたいから贈る」というのもケースバイケースだと、藤井聡太四段の事例を見ていて思った。著名人やタレント宛に、毎年、おそらく山のようにファンから贈られてくるチョコレート。その後、チョコレートは果たしてどう処理されているのだろう。

 2018年2月3日に、兵庫県で8店舗を展開するスーパー、ヤマダストアーが出した広告が話題となった。恵方巻の大量販売に対し、「もうやめにしよう」と異論をとなえる内容である。

 そこには、食べ物に対する愛情や敬意が込められた文章が並んでいた。

「海産資源を大事にしたい」
「今年も1本1本心を込めて(恵方巻を)巻いた」
「最後の1本までお客様に愛されますように」

 ヤマダストアーとゴディバに共通するのは、心を込めて食べ物を買おう、贈ろう、という提案である。気持ちのこもらないものは無駄になりやすい。

 実際、コンビニエンスストアでは、バレンタインデー商戦が抑制されているという意見もある。

 女性客はコンビニ以外で買うことが多く、男性客がメインのコンビニでは、バレンタインデーに比べてホワイトデーの方が、売り上げが高いのだそうだ(参考記事:MAG2NEWS『バレンタイン商戦には冷ややかなコンビニ業界の「チョコ」戦略』)。

普段から我が道を
コツコツ進み続ける姿勢が評価される時代

 筆者の過去記事『大いなる無駄 「バレンタインデー」日本はいつまで続けるのか』でも触れた通り、林修氏は著書『いつやるか?今でしょ! 今すぐできる45の自分改造術』(宝島社)で次のように語っている。

「他人の作ったイベントに踊らされること以上にもっと大切なことがあるはず」

「『母の日』だから電話するのではなく、毎日親孝行しているから、『母の日』には大騒ぎしなくていいような日々を送ることこそ、真の『イベント』だと僕は考えています」

 家族や恋人、職場の人に感謝をしているのであれば、バレンタインデー以外にそれを伝える機会はいくらでもある。

 計算しなくてもわかることだが、1年365日のうち、バレンタインデーはたった1日だ。人生を365日(1年間)とすると、バレンタインデー以外の日数が99.7%を占める。

 日本はすでに人口減少のトレンドに入り、量を求める時代から質を求める時代に転換している。

 国連のSDGs(持続可能な開発目標)に定められた「つくる責任 つかう責任」の通り、経営と環境を両立させるのが企業の当たり前の責務となってきている。消費だけをことさらに煽る時代ではないのだ。

国連の定めたSDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより引用)

 毎年、バレンタインデーを大々的に宣伝し、多額のコストをかけ、バレンタインデー当日までしか売ることのできない商品や冊子を作り、「ここぞ!」とばかりに販売数を上げようとする。

 そんな“思考停止”の企業より、大衆に与(くみ)せず、自社が信じて売り続けてきた普段通りの商品を、普段と同じように、淡々と売り続ける企業が、その姿勢を評価される時代になってきているのではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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