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スズキ・ヤマハが本気を出した浜松市「財政健全化」の実態

2018年02月11日 06時00分更新

文● 加藤年紀(ダイヤモンド・オンライン

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 平成27年度の財政支出は168兆3415億円。その内訳は、国が70兆6583億円、地方が97兆6833億円で、地方での財政支出が国より大きい。一方で、各自治体での支出に対する注目や理解はなかなか深まらない。

 そこで今回は浜松市の取り組みをもとに、財政健全化は民間企業や民間人との協働によって実現できるという事例を示し、成功要因を他の自治体がいかに取り込むことができるかを検討してみたい。

 浜松市は2005年に周辺12市町村(3市8町1村)の合併により静岡県下最大の都市となり、2007年から全国で16番目の政令指定都市となった。人口は約80万人で、静岡市の約70万人を上回る。

 オートバイ、自動車、楽器などの領域で、いくつもの世界企業を輩出する一方、静岡市とのライバル関係、餃子の消費量に至るまで話題に事欠くことがない。実は1871年から1876年の間は浜松“市”ではなく、浜松“県”として存在していたということも興味深い。

 現在、浜松市は財政的に健全な状態にある。2014年度から全国20の政令指定都市の中で唯一、将来負担比率(※)がマイナスとなった。また、鈴木康友市長(現職)が就任した2007年度は「124.3%」であった将来負担比率が、2016年度は「-26.0%」となり、日本の構造研究所が発表した「全国知事・政令市長財政再建ランキング」の政令市長の部において、鈴木康友市長は堂々の1位となった。

(※)将来負担比率 地方自治体の借入金(地方債)など現在抱えている負債の大きさを、その自治体の財政規模に対する割合で表したもの。将来、財政を圧迫する可能性の度合いを示す指標。数値が低いほど財政の健全性が高い。

財政健全化ロードマップをベースに突き進む

 浜松市はなぜ財政健全化を進めることができたのだろうか。まず、鈴木市長が誕生した背景にあったのが、スズキ株式会社(以下、スズキ)代表取締役会長の鈴木修氏ら、地元経済界の有力者の不満だ。「行財政改革が足りない」と、前市長の市政運営に意見を示していた。

 鈴木市長は1980年に松下幸之助の設立した松下政経塾に一期生として入塾し、直接、松下幸之助の講義を受けたこともあった。「国・地方の財政が将来危機的状況になる」、と警鐘を鳴らした松下幸之助の教えと意志を受け継ぐ鈴木市長に、地元経済界から白羽の矢が立った。

 鈴木市長は2007年4月の浜松市長選挙で、「スピードある行財政改革で 必要な政策のための財源をつくる」と掲げ、20万3923票を獲得し勝利する。一方、対抗馬であった前市長は19万2293票と、1万1630票の僅差であった。

 鈴木市長の就任後、浜松市は第2次『浜松市行財政改革推進審議会(以下、行革審))を組成し、会長にはスズキの鈴木修会長、そして、会長代行にはヤマハの伊藤修二特別顧問(当時)が名を連ねた。

 行政、財政の改革を進める行革審は、第1次~第4次まで存在。メンバーには地域の有力企業トップのほか、学術界、NPOなど、様々な組織から委員が集まった。鈴木修会長と伊藤修二会長代行は前市長時代の第1次行革審(※1)及び、鈴木市長時代の第2次行革審(※2)に携わった。

 第2次行革審は、浜松市に対して「市政全般」「執行体制」「人件費」「附属機関等」「資産経営等」「教育環境の整備」「補助金」「外郭団体」と多岐にわたる提言を行い、今後、市が実行すべきプログラムはほとんど出そろった。そして、その後の3次行革審(※3)、4次行革審(※4)では、進捗管理の徹底に重きが置かれ、市は粛々と財政健全化への道を突き進むこととなる。

(※1)第1次 浜松市行財政改革推進審議会(2005年8月5日~2007年3月31日)
(※2)第2次 浜松市行財政改革推進審議会(2007年8月17日~2009年8月16日)
(※3)第3次 浜松市行財政改革推進審議会(2009年10月26日~2011年10月25日)
(※4)第4次 浜松市行財政改革推進審議会(2012年1月16日~2014年1月15日)

スズキ鈴木修会長「誠に遺憾」

 鈴木市長以前の第1次行革審は機能していたとは言い難い。行革審の提言書である『最終答申』の総論の冒頭で、鈴木修会長は下記のように不満を表明している。

「当行革審は、委員による勉強会とともに、審議会を市民に広く公開し、改革すべき事項を数多くの傍聴者が見守る中で、延べ17回実施した審議会のうち、市長が1度しか議論に参加しなかったことは誠に遺憾である」(原文ママ)

 行革審は馴れ合いではなく本気の改革を実現する意思があった。それと同時に、気概を持った行革審の存在だけでは改革が進まなかったという事実を、鈴木修氏の言葉から読み取ることができる。

 では、第2次以降の市政を担った鈴木市長は何を変えたのか。それは、行革審の提言に真摯に向き合うのはもちろんのこと、より緊密な連携をとることだった。その具体的な施策として、『行財政改革推進審議会“事務局”』という、市の職員とスズキなどから派遣された若手による官民混成チームを作ったことがあげられる。

 行政の中身を行革審に深く理解してもらうため、事務局は土日も含めて何度も非公式の勉強会を開催した。こうした中で深く掘り下げた討議が行われ、それをもとに行革審を通じて実現可能な提言がなされた。その結果、抵抗勢力も安易に反対することはできなかった。

 また、行革審はチェック機能の役割も果たした。たとえば、第4次行革審の中間答申書では、市が「答申どおり実施」したものが306事案ある、と報告したものに対して厳しく査定をしている。

 行革審は306事案を分類し、「答申どおり実施」を108、「答申の一部を実施」を167、「実施時期が未定」を6、「実施していない」を25とし、市へ早期対応を求めた。こういった実行を促す地道な施策の積み重ねが、改善の徹底とスピード感を生み、ひいては浜松市の財政健全化に大きく寄与したのである。

 浜松市行革審の特筆すべき点は、このような徹底した実行力だ。行政の主宰する有識者会議は各委員の意見主張に終始し、実行や意思決定を伴わないことも多いといわれる。しかし、自治体は本来、政策以上に執行を担うべき存在である(現実には自治体が政策立案をしている面が強いが)。

 行政の有識者会議をより建設的なものにするためには、浜松市行革審のような実行を意識できる委員を登用するか、もしくは、先に述べた事務局のような、実行をサポートする存在が必要になるだろう。

スズキ、ヤマハなど民間企業のコスト意識を自治体に移管

 自治体の財政健全化に、民間企業や民間人が貢献できる余地は大きい。

 民間企業はバブル崩壊以降、コスト削減を迫られ、長年その文化の中に生きてきた。特にスズキ、ヤマハのような製造業では、常に厳しい競争環境に晒されているため、業務改善は常に求められる。そうした歴史の中で培った意識やノウハウを役所に取り込むことで、浜松市は大きな成果をあげた。

 この浜松市の事例を、「スズキとヤマハがいたからできた」で終わらせるのはもったいない。自治体によっては浜松市のように有力な企業が存在しないというケースも多い。だが、その地域で健全な経営をしている企業があれば、財政健全化を支援できる人材が存在するということ。コストカットを行う上で特殊なアイデアは不要だ。そこで最も必要とされるものは実行力と徹底力、そして、それらを支える強い意志である。

 地域内に協力してくれる企業が存在しない、という自治体にも朗報がある。筆者は先日、関東のとある町の町長から、「まちづくりにスピード感や新たな視点を持ち込むために、ブレーンとなりうる民間の経営人材を紹介してほしい」という依頼を受けた。

 それを受けて、上場企業の社長などを含めた複数人に打診をしたところ、8割の人が「ぜひ参加したい」と応じた。経営者たちは地縁があるわけでもなく、当の町までそれなりの物理的距離もある。さらに言うと、普段の彼らの業務に比して報酬額は決して大きいものとは言えない。それにもかかわらず、参加を希望したのである。

 町長自身も報酬額に心苦しさを感じていた分、その結果に驚いていたが、筆者としては自治体に活躍の場を見出したいと感じる民間人は、まだまだ多く存在すると考えている。

民間人と自治体の思惑は“財政健全化”で一致する

 いま、働く人々のなかでは、金銭的な対価だけではなく、世の中に貢献したいという意識が強まっている。この状況下で、「地方創生」「地方消滅」といったワードも飛び交い、地域や自治体が抱える課題が注目を集めるようになってきた。しかし哀しいかな、多くの民間人は具体的な貢献手段や機会をイメージできていない。

 一方で、自治体は税金の効果的な使い方を厳しく求められるようになり、実際に人員削減や補助金のカット、外郭団体の廃止などが進んでいる。しかし、高齢過疎化により、自治体の財政状況は今後も厳しくなっていくと予想され、状況に見合った健全運営は半永続的に求められる。そう考えると「力を発揮したい民間企業・民間人」と「財政健全化を進めたい自治体」、両者の思惑は一致する。

 そこで、地域に貢献したい経営者や民間人の方は、首長や自治体職員に声をかけ、財政健全化についてあなたや企業が貢献できるかどうかを尋ねてみてはどうだろうか。

 首長や自治体職員も「この人こそ!」と思う民間人が地域内外に存在していれば、一度声をかけてみる。もちろん、お互いが最大限相手の立場を理解・尊重していく必要はあるが、もしかしたら、いま両者の間にそびえ立つ壁は、さほど高くないかもしれない。

 官民連携が強く叫ばれている昨今ではあるが、その文脈において手堅く大きな成果が出せる領域は、自治体運営の“一丁目一番地”とも言える、財政健全化ではなかろうか。もちろん、財政健全化が最終目的ではなく、その先に存在すべきビジョンにおいても、官民が軌を一にすることが強く求められている。

(株式会社ホルグ代表取締役社長 加藤年紀)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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