属人化は悪なのか?:さくらインターネット
さくらインターネット 執行役員 技術本部副本部長の江草陽太氏は、2016年の自身の執行役員就任を機に、技術本部の組織を大きく変えた。同社の技術本部には約300人のエンジニアが所属する。江草氏は、従来、事業・サービスごとに配置されていた開発エンジニアを、技術本部の配下で専門性によってアプリケーショングループ、ミドルウェアグループ、ネットワークグループの3チームにざっくりと振り分け、プロジェクト単位で各チームからエンジニアが参加する体制に変更した。
この組織体制は、1人のエンジニアが複数の事業・サービス開発に参加できることが特徴だ。「エンジニアは人によってスキルの差が激しく、得意分野もさまざま。同じスキルをもった人が集まっては作れないサービスもあるし、エンジニアの人数が多ければよいサービスが作れるというわけでもない。作るものに対してマッチする人がいれば少人数でも開発できる」と江草氏は言う。
一方で、この組織体制では1人のスキルの高いエンジニアに複数の開発プロジェクトが依存するケースが起こり得る。極端には、1人の“職人技”でサービスの設計から実装までできてしまうのがソフトウェア開発の世界だ。こうした「属人化」は、社内にノウハウやドキュメントが残らない、秘伝のタレ的なソースコードが負の遺産として残るなど、一般的には悪いこととされている。エンジニア組織の変革を進める中で、江草氏はずっと、この属人化の課題について考えてきたという。はたして、属人化は悪いことなのか――。
江草氏がたどり着いた答えは、「属人化を排除するのはよくない」だ。少人数のエンジニアが開発したものが大規模に普及している現実がある。エンジニア不足と言われるが、画一的なスキルをもったエンジニアを大量育成するのはハードウェアを製造する工場のやり方の踏襲だ。「複製できないハードウェアと違い、少人数でも大量生産してばらまけるのがソフトウェア。組織の中で、エンジニアのスキルの分散を減らして同じことができる人材を増やすのではなく、逆に、スキルの分散を許容していくべき」と江草氏は説明した。
職人技をもったエンジニアを束ねる組織においては、多様性、柔軟性、流動性が重要だと江草氏は考える。企業規模が大きくなるにつれて、エンジニアが職人として所属し続けることに課題が出てくる。「今後は、さくらインターネットが大企業になっても職人たちが生き残れるように、方策を考えていく」(江草氏)。