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CA TechnologiesのグレゴアCEO、登山家を招き「CA World 2017」基調講演でトーク

「登山」とソフトウェア事業、デジタル変革の共通点とは?

2017年12月01日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 登山はよく人生にたとえられる。「長く苦しい登り坂を耐えたあとには、山頂からの眺めというすばらしい出来事も待っている」――おおむねそんなたとえ話だ。

 だが、CA Technologies CEOのマイク・グレゴア氏は、登山という行為にはデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)、あるいはソフトウェア企業の経営と多くの共通点があると考えているようだ。

 11月中旬、CAが米ラスベガスで開催した年次イベント「CA World 2017」の基調講演で、グレゴア氏は登山家/写真家のジミー・チン氏を招き、デジタルトランスフォーメーションに取り組む顧客企業にインスピレーションを吹き込んだ。

「CA World 2017」基調講演に登壇したCA Technologies CEOのマイク・グレゴア(Mike Gregoire)氏(左)、登山家で写真家のジミー・チン(Jimmy Chin)氏

「リスクを取ろう」ではなく「挑戦とリスク管理のバランスをとろう」

 ビジネスの世界にデジタル変革の波が押し寄せ、あらゆる企業には抜本的な変化が求められている。そうした顧客企業を支援すべく、CAでは“モダン・ソフトウェア・ファクトリ”実現のためのDevOps、セキュリティといった新ジャンルの製品も強化してきた。しかし、実際のCA顧客の多くは、同社の管理製品を利用する大企業のメインフレームユーザーたちだ。

 CA Worldに集まったそんな顧客の背中を押す文脈で、グレゴア氏は「登山」の話を持ち出した。

 実のところ、変化を嫌がるのは人間の本能であり、我々の祖先ホモ・サピエンスはリスクを取らないことで生き残ったとも言われる。だから“根は安定志向”の人が集まったチーム、組織がリスクを取りたがらないのも無理はない。グレゴア氏も、単純に“今こそ大きなリスクを取るべきだ”などとは言わない。

 その代わり、グレゴア氏は「人は変化を嫌がるものだ。ただし、そんな人の中にも恐怖心が少なく、リスクのある選択肢を選ぶ人がいることも調査でわかっている」と切り出した。そして「技術者こそが、そうした存在になりうるのだ」と続ける。そのうえで、変化の激しいビジネス環境においては「安全圏にいようとすることが、最もリスキーな意思決定になりうる」ことを強調し、まずは一歩踏み出してみることを勧める。

 「わたしは『リスクを求めよう』と呼びかけているのではない。『リスク管理を上手にしよう』と伝えたいのだ」(グレゴア氏)

グレゴア氏

 「挑戦とリスク管理のバランスをとること」――これがデジタルトランスフォーメーションに取り組む企業、そしてIT部門に対するグレゴア氏のアドバイスだ。まさにこれが登山との共通点だという。それに気づいたきっかけは、映画「MERU/メルー」だった。

 MERU/メルーは、登山家であり山岳カメラマン、映像作家でもあるチン氏が自らのチームで挑んだ、ヒマラヤ山脈メルー中央峰にある岩壁“シャークスフィン(サメのヒレの意味)”へのアタックの模様を収めたドキュメンタリー映画だ。メルー峰の標高はおよそ6250メートル、そしてシャークスフィンは高さ1200メートルの、ほとんど垂直にそそり立つような大岩壁だ。

映画「MERU/メルー」のトレーラー映像(公式YouTubeチャンネルより)

 険しい岩壁と猛烈な吹雪に行く手を阻まれ、一度は挑戦を断念したチン氏らのチームだが、その夢をあきらめきれず、やがて再挑戦を図る――。この映画を観て深い感銘を受けたグレゴア氏は、さっそくワイオミング州ジャクソンホールにあるチン氏の拠点まで会いにいった。

 このときグレゴア氏は「軽くロッククライミングでもして写真を撮り、朝食を食べて帰るか」と考えていたというが、そこで待っていたのはチン氏との登山体験だった。ロープやギアが必要な難度の高い登山を、チン氏の指導を受けながらやることになったという。

自らの持つ“帯域幅”を使い切らないことも重要

 会場でのグレゴア氏とチン氏の対談は、そんな登山を通じて危険を共有した仲だからなのか、ほどよい距離感で説得力のあるものだった。

 グレゴア氏は、登山とソフトウェア企業の経営で最も類似性を感じるのは「想像力と実行力」が必要な点だと語る。登山では自分の実力や体調、天候、現地の状況などあらゆる要素を考慮し、安全性に十分配慮しながら、どのルートをたどるのかをリアルタイムで意思決定しなければならない。それと同様に、ソフトウェアのビジネスでも「実行レベルをふまえた創造性が常に必要なのだ」とグレゴア氏は説明する。

 「われわれの業界では、想像力がなければ新しいシステムやアプリケーションを開発できない。ただし、いくら想像力に優れていても、運用環境が整っていなければ顧客体験は悪くなるし、セキュリティに問題があればハッキングされてしまう」(グレゴア氏)

 一方でチン氏も、IT分野の聴講者にわかりやすいように、自身の能力を“帯域幅”にたとえて説明した。自身が持つ“帯域幅”には一定の限界があり、「登山中にはその帯域幅の多くを、安全や潜在リスク、客観的危険性につながるものに注ぐ必要がある」。だが同時に、チン氏は山岳カメラマンでもあるため「いつ、どう撮影するかを考えることができる“(想像力の)帯域幅”も残しておかなければならない」。

 「登るチャンスは一度しかないし、同時にシャッターチャンスも一度しか訪れない。つまり、すべてが完璧に実行されたときでなければ無理なのだ。その完璧な瞬間を実現するのは、ある種の『マジック』であり『モメンタム』だ」(チン氏)

チン氏

 標高数千メートル地点、危険と隣り合わせの状況下で“帯域幅”に余地を残しておくために重要なのは「先を読みながらチーム内の協力関係を築くこと」だとチン氏。加えて、考えることなく自然と身体が動くように「習慣化」することも大切だと述べた。「登山が第二の天性になれば、想像力にフォーカスするための“帯域幅”をより多く残せる」。

 グレゴア氏は、「チームで動く」点にも共通点を感じるという。チン氏は、パートナーとの信頼関係は登山を成功させるための大きな要素だと述べた。

 「パートナーがいるというだけでなく、ときにはパートナーのリスク評価を信じなければ、効果的に、かつ安全に行動することはできない。チーム全員がそれぞれの仕事をきちんとやっているという高いレベルの信頼感があれば、そこにある種のシナジーが生まれる」(チン氏)

「多様な考えの人がいることで、チームは前進する」

 プロジェクトにつきものの「失敗」はどうか。グレゴア氏は、近年のCAでは“新しいことに挑戦するなら早い段階で失敗しておけ”という「Fail Fast」の社内カルチャーが根付きつつあるものの、「やはりプロジェクトが失敗すればネガティブになってしまうものだ」と話を振る。

 これに対しチン氏は、2008年、シャークスフィンの登頂成功まであと100メートルの地点で引き返す決断を下したときのことを振り返りながら、次のように語った。

 「遠くには頂上が見えていた。だが、すでに登頂開始から17、18日が経っており、テントではろくに眠ることもできずにいた。このまま突き進めば指先を失う、あるいは足を失うかもしれない状況だ。そこまでする価値はあるだろうか?――ないことは明らかだった」(チン氏)

 グレゴア氏が「それは『失敗』だったのか、それとも『正しい意思決定』だったのか」と尋ねると、チン氏は静かに「今こうして生きているし、みんなと一緒にいることができる。正しい意思決定だった」と答えた。

 この話には続きがある。苦渋の決断を下し、絶望的な気持ちで下山していたチン氏だったが、3時間もするとパートナーは「次はもっと荷物を軽くしよう」などと冗談交じりに話し始めたという。「こんなときにそんな話をするのか!と思ったが、これがチームの良いところだろう。多様な考えの人がいることで、チームは前進する」(チン氏)。

 今回のCA World来場者には、“ぜひ映画MERUを観てほしい”というメッセージとともにiTunesの10ドルギフト券が配られた。グレゴア氏は本気で、顧客企業のビジネスマンたちに、登山家の冒険から多くのことを学んでほしいと思っている。

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