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マルチクラウドの知見を共有する勉強会「Multi Cloud Night!」レポート

ソラコム、オルターブース、ハートビーツがマルチクラウドに躊躇しない理由

2017年11月17日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●中井勘介

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10月16日、コワーキングスペース「Co-Edo」において、マルチクラウドの利用知見を共有する「Multi Cloud Night!」が開催された。登壇したオルターブース、ソラコム、ハートビーツの3社は、マルチクラウドの利用状況や使い分けに関するセッションを披露した。

最後はオオタニも参加してのパネルディスカッション

エンジニアの関心も高いマルチクラウドの勉強会

 「Multi Cloud Night!」はマルチクラウドの知見を共有したいというサーバーワークス佐々木きはるさんの企画で生まれたイベント。60人の定員に対して、ほぼ倍近い参加登録があり、エンジニアの関心の高さがうかがえた。

 イベントでは複数のクラウドサービスを使いこなしているオルターブース、ソラコム、ハートビーツの3社が登壇。サービス事業者、ユーザー企業、MSP事業者とそれぞれ異なる立場でマルチクラウドに対する姿勢や向き合い方を語った。その後、企画者の佐々木きはるさん、会場スポンサーを務めたアスキーの大谷イビサを交えて、パネルディスカッションが行なわれ、セッション内容がさらに深掘りされた。

 飛び交う内容が本音過ぎることもあり、大人の事情でオープンにできない部分も多いが、特に印象に残った部分をレポートしていきたい。

そこにお客様がいるからマルチクラウド対応(ソラコム松下さん)

 オルターブースの小島さんの予期せぬスライドの不備で結果的にトップバッターになったソラコム テクノロジ・エバンジェリストの松下亨平さん。松下さんは、マルチクラウドに対応したサービスを提供する事業者の立場で登壇を行なった。

ソラコム テクノロジ・エバンジェリストの松下亨平さん

 ご存じの通り、ソラコムは代表取締役社長の玉川憲さんやCTOの安川健太さんをはじめとして、元AWSの社員が多い。こうした事情もあり、SORACOMサービスはAWS上に構築されており、パケット転送を管理する「Polaris」、課金やセッション管理、認証などを司る「Dipper」、サービスを監視する「Habble」など各コンポーネントもAWSのマネージドサービスをフル活用することで実現されている。いわば「バリバリのAWSっ子」というわけだ。

 一方で、SORACOMサービス自体は多くのクラウドサービスとの連携を考慮して構築されている。各社のサービスに直接データを送り込むクラウドアダプターのSORACOM Funnelに関してはマルチクラウドに対応しており、Amazon Kinesis Streams/FirehoseやAWS IoTなどAWSサービスのほか、Microsoft Azure EventHubs、Google Cloud Pub/Subにも対応している。「さまざまなクラウドサービスに対応するのは、やはり『そこにお客様がいるから』(松下さん)。「つながりの数=顧客の数」ということで、プラットフォームとしては、やはり多くのクラウドに対応する必要があったわけだ。

 加えて、外部サービスとの連携を促進するため、ソラコムではSORACOM Partner Space(SPS)パートナーが自前でアダプタを開発できるPartner Hosted Adaptorというプログラムも用意している。スタートアップの開発リソースが限られていることもあり、サードパーティとも容易にサービス連携できる仕組みが重要というわけだ。

パートナー自身がクラウドアダプターを開発できる「Partner Hosted Adaptor」

クラウドの重力に縛られてはいけない(オルターブース小島さん)

 続いての登壇はスライドの不備が解消された福岡オルターブースの小島淳さん。クラウドインテグレーションや自社サービスである「マイソースファクトリー」を展開するユーザーおよびサービス事業者の立場でマルチクラウドを語った。

オルターブースの小島 淳さん

 サービス自体がAWSで開発されているソラコムと異なり、オルターブースはMicrosoft Azureを中心に開発を進めることが多く、実際マイクロソフトのイベントで賞を獲得したことも多い。しかし、実際はAWSも必要に応じて活用しており、サービスもAzureとのハイブリッド構成になっている。たとえば、AWSのCloudFrontでAmazon S3とAzure BLOBにデータを振り分けたり、LambdaからAzure Container Serviceをキックするといった使いこなしだ。

 正直、サービスの品揃えという観点で言えば、AzureもAWSと大きく変わることはない。マイクロソフトからAzureとAWSとサービス対応表が出てくるのもそんな事情がある。それでもAzureだけで実現できないケースもある。たとえば、マイソースファクトリの場合、サービスのフェイルオーバー時にサブドメインの付かないZone Apexが使えないという事情でAzure DNSではなく、AWSのRoute53を使っている。機能要件的にあわないために別のクラウドを使わざるを得ないわけだが、逆に言えば別のクラウドを組み合わせれば目的通りのシステムを作れるということだ。

Azure DNSではZone Apexが使えなかったため、Route53を採用

 こうしたマルチクラウドの背景には、「いいとこ取りしたいならアーキテクチャを抑えろ」という小島さんの考え方がある。インフラという軸であればAWS、Azureを組み合わせる形になるが、PaaSやSaaSというレイヤーで考えれば、多くの企業が当たり前のように複数のクラウドをAPIで連携させて使っているのが現在のクラウド利用の姿。オルターブースも実にさまざまなサービスを適材適所で組み合わせて使っている。

 こうした中、オルターブースが重視している立脚点は「アーキテクチャ」だ。小島さんは書籍でも取り上げられている「クラウドデザインパターン」というアーキテクチャが今でも有効である点や、クラウドを使えば「ユーザー側に非機能要件を持たせないで済む」ことなどをアピール。小島さんは、「ぼくたちユーザーはクラウドという重力に縛られてはいけない。ベンダーロックインなんて気にせず、OSSやAPIを立脚点にしてアーキテクチャ上必要なサービスはどんどんいいとこ取りで使うべき」という持論を展開した。

ベンダーロックなんて気にするな

エンジニア育成にはマルチクラウドも糧になる(ハートビーツ藤崎さん)

 3番手としてマルチクラウド対応のMSP(Managed Service Provider)という立場でセッションを展開したのは、ハートビーツ 代表取締役の藤崎正範さんだ。

ハートビーツ 代表取締役の藤崎正範さん

 電通大の在学時からサーバー保守のアルバイトを始め、2005年にハートビーツを創業した藤崎さん。「今より新しい価値を作る」というポイントで、2008年頃からAWSのMSPをはじめ、以降はIDCFクラウド、ニフティクラウド、さくらのVPS、フリービットクラウド、GMOアプリクラウド、cloud(n)などのMSPを展開。今ではAzureやGCP(Google Compute Platform)、さくらのクラウドなども手がけており、運用するサーバーの台数は2000台以上に及ぶ。過去にはKVMで自社ローカルクラウドを手がけたこともあり、とにかくMSPとして幅広いノウハウを溜めている。

MSP事業者として実に幅広いサービスに対応するハートビーツ

 同社がマルチクラウドに突っ込むのは、藤崎さんがいなくなっても会社が永続することを目指しているからだという。MSP企業が顧客のニーズを満たすため、特定案件をマルチクラウド化するのあくまで手段に過ぎず、企業としては理念をきちんと実践できる後継者を育て、バトンを渡すことの方がむしろ重要だと説明した。

 その上で、MSP事業者がマルチクラウドに対応するかはあくまで戦略の問題であり、藤崎さんとしては人材を育てるためにはマルチクラウド対応がよいと考えているという。「長く価値を出していけるエンジニアを育てるには、学習コストやノウハウが必要になるマルチクラウド対応も課題としてよいのでは」と藤崎さんは指摘する。

 後半のパネルでは、「マルチクラウドの定義」「学習や通信にかかるコスト」などが議論になった。これに対して、学習や通信のコストがかかるのは事実だが、「技術はあくまで手段である」「ベンダーロックインは経営課題に入れるほど大きくない」「プラットフォームを気にせずに使えるツールや環境はすでに整っている」などの意見が出た。自らの目標達成のためであれば、躊躇することなくマルチクラウドを使うべきというのがイベント全体のおおむねの結論になったと言える。

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