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東芝メモリ決着、買い手が二転三転した本当の理由

2017年10月02日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:Bloomberg/gettyimages

本命の買い手候補が二転三転した東芝の半導体子会社、東芝メモリの売却交渉が9月20日、ようやく決着した。売却先の選定が混迷した本当の理由を探ると、日本経済に共通する大きな課題が見えてきた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文/委嘱記者・村井令二)

 二度、俵に足が掛かった後、うっちゃりを決めての逆転劇──。東芝メモリ争奪戦は韓国の半導体メーカー、SKハイニックスを含む日米韓連合の勝利に終わった。

 当初は、東芝メモリの事業パートナーで半導体工場を共同運営する、米ウエスタンデジタル(WD)が本命視されていたが、強硬な交渉姿勢が裏目に出て、敗北につながった格好だ。

嫁取り合戦は混迷

 紆余曲折の期間は7カ月以上。売却先の決定に至る過程は、情報リークによる競合つぶしや前言撤回が当たり前の、ルールを度外視した戦いだった。

 何しろ東芝メモリは優良企業だ。同社の半導体フラッシュメモリーは、米アップルのiPhoneをはじめスマートフォンの主要部品。来るビッグデータ時代のキラー製品でもあり、メーカーにとっては、これを競合他社に奪われれば死活問題になる。

 それ故、この優良企業の売却交渉は、花嫁を男たちが奪い合う“嫁取り合戦”の様相を呈した。だが、東芝メモリの“嫁ぎ先”選びは幸福感に満ちたものではない。なぜならその目的が、親である東芝の借金返済だからだ。

 東芝は借金取りの銀行から、売却益で融資を返済するよう急かされていたが、東芝にとっても、売却を急ぎたい事情がある。来年3月までに売却できなければ2期連続の債務超過となり、上場廃止が避けられなくなるのだ。

 この嫁取り合戦をさらに複雑にしたのが、産業革新機構や日本政策投資銀行という“手下”を連れて介入した経済産業省だ。

 経産省は、まさにニッポン半導体ムラの村長で、ムラに住まう没落名家・東芝家の婚活に口を出し続けることになる。

 村長の意向は「美しい花嫁をムラ(日本)から出さないこと」だ。だが、これは、花嫁の親である東芝自身の望みでもあった。まさに「持ちつ持たれつの関係」で、東芝メモリを日本に残すことが、売却交渉の至上命題になっていく。

2陣営で綱引き繰り返す

 そして、この構造を見抜き、最後まで争奪戦に残ったのが、二つの海外勢力。両勢力とも、東芝メモリを他人に奪われたくない半導体メーカーと、その思惑に乗った投資ファンドのコンビネーションによって革新機構と政投銀を担ぎ出し、それぞれの陣営を形成した。

 まず一つ目の陣営が、東芝メモリと主力工場を共同運営する“同棲相手”で結婚を当たり前だと考えているWDを中心に、米投資ファンドのKKRと結び付いた日米連合だ。WDは、同社の同意なく東芝メモリを売るのは「契約違反」として売却の差し止めを求める訴訟を起こし、強気のアプローチで攻め続けた。

 もう一方の陣営は、表向きソフトな交渉姿勢を保った日米韓連合だ。米投資ファンドのベインキャピタルを幹事役として、ハイニックスなどが参加する。ハイニックスは東芝メモリの競合相手であるため警戒されているが、当初は「融資のみの参加」を建前にアプローチした。この2陣営は、片方が優勢に立つともう片方が「ちょっと待った」と叫び、譲歩案を提示するパターンを繰り返した。

 そして、この綱引きの裏では「どこでもいいから早く決めてほしい」と早期決着を求める主力行と、「より良い条件を求めて結論を焦るべきではない」と熟考を促す経産省らの思惑が入り乱れた。東芝社内でも意見が割れ、綱川智社長のリーダーシップの欠如もあらわとなる。

「相手は強盗と詐欺師」──。これは、交渉の最終局面で、ある政府系の関係者から飛び出した過激な発言だ。「片方は強欲な人で、片方は怪しげな人。東芝はどちらがいいのか決め切れない」との乱暴な例えは、交渉が極限状態にあることをうかがわせた。

 この争奪戦に幕を引いたのは主力行の最後通告だ。銀行は「9月20日までに東芝が売り先を決められなければ、地方銀行との協調融資が崩れかねない」(主力行首脳)とデッドラインを引いたのだ。

 最後までWDは大本命であり続けたが、結果的にWDの強硬姿勢があだとなった。

 米国企業にとって交渉に訴訟を活用するのは一般的だが、東芝がこのやり方に強く反発した。

 さらに、WDが東芝メモリの経営権の取得に意欲を見せたことも東芝の不信を呼び、WDの「将来的な議決権」の在り方は、最後まで交渉のネックになった。

 WDは最終局面で、議決権を放棄する大幅な譲歩案を示したが、それは東芝が日米韓連合への売却を決める前日。「時間切れ。しかもペーパー3枚足らずの生煮えの案だった」(交渉関係者)。

急ごしらえの「寄せ木細工」

 こうして見事、嫁取り合戦に勝利した日米韓連合だが、実はこちらもWDの最終譲歩案に負けず劣らず急ごしらえの産物だ。

 日米韓連合に参加することが決まった革新機構と政投銀は「東芝がWDと訴訟で争っていれば出資はできない」(機構幹部)との立場を一貫して主張し、訴訟リスクが解消するまで出資を見送る。

 これにより、当初の資金は連合に参加する企業が肩代わりする一方で、カネを出さない革新機構と政投銀は議決権を確保するという複雑怪奇なスキームができた。

 結果、革新機構と政投銀に配慮して急ぎ肩代わり出資を集めたため、参加企業は8社という大所帯に膨れ上がった。

 フラッシュメモリー世界トップの韓国サムスン電子は2兆円規模の追加投資で独走態勢に入っている。世界2位の東芝メモリも、それに対抗するため、経営判断を迅速に行う必要があるが、その株主は、主要顧客のアップルや米デルなど利害関係者が入り乱れた「寄せ木細工」の連合で、今後の事業運営に懸念を残している。

 そもそも、この案では「将来の議決権問題」は解決されていない。当初は、融資で参加としていたハイニックスは、投資ファンドのベインから保有株を買い取れば、東芝メモリの議決権が高まる。東芝メモリの競合であるハイニックスが影響力を強めれば、「船頭多し」の混乱に、さらに拍車が掛かるだろう。

SKハイニックスは日米韓連合に参加。将来、議決権ベースで15%の東芝メモリ株式を取得する権利を得た Photo:AFLO

 もっとも目先の問題はさらに深刻だ。WDは5月に国際仲裁裁判所に東芝メモリの売却中止を提訴して以降、矢継ぎ早に訴えを起こし続けてきたが、その怒りの火に油が注がれている。

 東芝が日米韓連合を選んだのを受けて、WDは9月26日に東芝メモリ売却の暫定差し止めを求めたと発表し、訴えをまた追加した。仮処分は、12月から来年1月ごろに出される見通しだが、視界の霧は濃くなるばかりだ。

 日比谷中田法律事務所の副田達也弁護士は「仲裁の暫定差し止めの判断が執行力を持てば、東芝は(数年先になる)仲裁の判断が確定するまで東芝メモリを売却できない可能性が高い」とみる。

 これでは、東芝メモリを年度内に売却して東芝株の上場廃止を回避するという当初のシナリオは瓦解する。もともと売却決定が遅れに遅れており、各国の独占禁止法の認可が3月末に間に合うかという課題を心配する以前の問題だ。

日本企業の課題が浮き彫り

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 東芝メモリ売却の顛末を見てみると、幾つかの教訓が浮かび上がる(表参照)。

 最大の課題は、国が民間企業の売却交渉に介入することの限界だ。

 2016年のシャープ争奪戦に敗れた経産省は「日本にフラッシュメモリーの技術を残す」ことを大義名分に、東芝メモリの売却交渉にも積極的に関与し、自ら当事者として交渉に参加した。

 そもそも「国が乗り出さざるを得なかった」(経産省幹部)のは、重要産業であるフラッシュメモリーの買収に乗り出す日本企業がいなかったためだという。

 確かに、東芝メモリの買収に手を挙げた日本企業は皆無。名乗りを上げたのは海外企業ばかりで、半導体産業にリスクを取れない日本企業の姿も露呈した。

 国の介入がなければ売却先は入札で高い買収額を提示した台湾の鴻海精密工業となったかもしれないが、ふたを開けてみれば、東芝メモリを買収する日米韓連合に韓国の競合メーカーが参加したのは、皮肉なオチになった。

 産業史に残るであろう東芝による子会社の売却劇は、政府とメーンバンク、民間企業との関わり方をこれからも問い続ける。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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