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東芝メモリとJDIで迷走、主体性なき革新機構の戦略不在

2017年08月21日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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産業革新機構は、東芝メモリとJDIの巨大案件に翻弄されている Photo:Reiji Murai、REUTERS/アフロ

産業革新機構が二つの巨大案件に揺さぶられている。東芝メモリの売却交渉と、経営危機のジャパンディスプレイ(JDI)の再建だ。いずれも戦略不在のまま事態に翻弄される官民ファンドは、その役割を厳しく問われることになりそうだ。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)

「いつまでにけりをつけてくれますか」。産業革新機構の志賀俊之会長は、35%を出資するジャパンディスプレイ(JDI)にスポンサー探しの期限を示すことを迫っている。

 8月9日、JDIはみずほ、三井住友、三井住友信託の3銀行と1070億円のコミットメントライン(融資枠)の契約を締結し、足元の資金繰り危機を回避したが、メーンバンクを持たないJDIが3行の支援を得られたのは、革新機構が債務保証を与えたためだ。

 昨年12月末に資金繰り難に陥っていたJDIに750億円を支援した革新機構は、わずか8カ月で再支援に乗り出した。

 ただ、革新機構が今回の支援と引き換えに突き付けたのはエグジット(投資回収)の意向。JDIの資本を増強し、願わくば35%の持ち株を引き取ってくれるスポンサーを、JDIに自ら探すよう迫っている。

「基本的に2017年度中にめどを付けたい」。9日の記者会見でJDIの東入來信博会長は、外部提携先との交渉は、「18年3月末」を区切りに進める考えを表明した。

 だが、あるJDI幹部が「中途半端に身売りのようなまねはできない。実際は時間がかかる」と本音を漏らすように、簡単には解決できない。革新機構は「出口」探しをJDIに丸投げしている状況だが、その先行きは見えない。

「18年3月末」は、革新機構のもう一つの大型案件である東芝メモリの買収にとっても大きな意味を持つ。東芝は東証の上場廃止を回避するために、この期限までに売却を完了させなければならない。

「日本の第4次産業革命を進める上でもメモリ技術は重要」(志賀会長)と大見えを切った革新機構は、日本政策投資銀行、米ベインキャピタル、韓国SKハイニックスとの「日米韓連合」を形成して買収交渉に参入し、6月には優先交渉権を得た。しかし、この「出口」もいまだ見えない。

 革新機構としては、東芝の提携相手の米ウエスタンデジタル(WD)との訴訟を抱えたままでは買収に踏み切れない。また、東芝サイドは、融資で参加するはずだったハイニックスがベインキャピタルから議決権を買い取るとの疑念を払拭できずに、両社の合意は遠のく一方だ。

 この間隙を縫うように、WDと連合を組む米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と台湾の鴻海精密工業が巻き返しを図っているため、日米韓連合の優先交渉権は事実上消滅し、交渉は暗礁に乗り上げた。

 買収で合意しても、各国の独占禁止法の審査には9カ月程度かかるとされ、すでにリミットを過ぎている。ついに東芝幹部は「8月末までに決まらなければ難しい。別のケースを考えなくてはならない」と、東芝メモリ売却の代替案を模索し始めた。東芝本体の第三者割当増資による資本増強で来年3月の債務超過を避けながら、1~3年後の東芝メモリの新規株式公開(IPO)で資金回収を図る案がささやかれ、革新機構ははしごを外されかけている。

投資戦略欠いたまま取り逃がす巨大案件
現場人材の空洞化も

 もともと革新機構が東芝メモリの買収交渉に乗り出したのは、東芝自身が経済産業省に支援を要請したためだ。このため最初から革新機構に主体性は見られず、経産省の意向をなぞっただけの交渉は迷走を重ねた。

 当初の「奉加帳」による日本企業の連合案では資金が集まらず、次に模索したKKRとの連合では十分な資金が得られなかった上、WDが過半数出資の参加を要求したことでまとまらなかった。

 東芝が節目としていた6月28日の株主総会を前に、革新機構が急きょ目を付けたのが当時ハイニックスと連合を組んでいたベインキャピタルだった。だが、ハイニックスの経営参加の思惑を見過ごしたまま日米韓連合を形成したことは詰めの甘さとなり、その後の交渉の障害要因になった。

 結果、JDIのエグジット構想も、東芝メモリの買収交渉も、革新機構の思惑通りに進まない。

 この二つの案件に共通するのは、革新機構自身の戦略の不在だろう。投資先の経営に関与して企業価値を高めていくという、民間のプライベートエクイティファンドなら当たり前のように持っているリスクマネーの戦略を欠いたまま、その場しのぎの判断が目立っている。

 かつて革新機構には、JDIの創業に奔走した谷山浩一郎氏やルネサスエレクトロニクスの再建を果たした柴田英利氏など投資先の経営を主導できるプレーヤーがいたが、いずれも革新機構を去った。

 今の革新機構に欠けているのは、戦略眼と行動力を持った人材だ。現場人材の空洞化が進めば、官民ファンドは役割を果たせず、存在意義を失う事態になりかねない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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