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日銀は円安で物価目標を目指す「長期戦」に転じた

2017年08月09日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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 昨年の今頃の市場動向を覚えておられるだろうか。

 世界的に長期金利が歴史的に最低金利を更新し、為替市場では円は独歩高だった。

 当時、長期金利は、日本では10年物国債の金利が▲0.3%程度まで低下。ドイツでは▲0.1%と史上最低水準を更新した。米国でも、10年金利は1.5%を割れ、一時的に1.3%台まで下がった。

 世界の経済は「3L」、すなわち「3つの低い」で「低成長、低インフレ、低金利」が議論されていたが、その「3L」が極まった局面で、しかも、その中で最も厳しかったのは日本だった。

 だがその後、米国は利上げに転じるなど、欧米と金融緩和を続ける日本では金融政策の方向が逆になり、為替も円安へと流れが一転している。日銀の物価目標達成も、この流れがいつまで続くかにかかっている

1年前は円の独歩高、異次元緩和も
“為替引き下げ競争”で敗北

(資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
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 図表1は、主要5通貨の実効為替レートの推移だが、これからも、当時は「円の独歩高」だったことがわかる。

 2016年初から米国がドル安に舵を切り、6月には英国で国民投票によって「EU離脱」が決まってポンド安になり、その影響もあってユーロも連れ安に。円だけがまるでサッカーのオフサイドトラップにはまったかのように、円高で残った状況にあった。

 もとより、米国も欧州も景況感の不安を抱え、本音では、「通貨切り下げ」を意識しながら金融緩和を続けるという状況だった。そうした中で、日本は、「異次元緩和」を加速させ、円安に誘導すべく2016年初にマイナス金利までも導入したが、結果的には無力に近かった。

 日本だけが「通貨戦争の敗者」になった中、2016年9月、日本銀行はそれまでの大規模緩和の「総括的検証」をもとに、日銀当座預金(の一部を対象にした)マイナス金利と長期金利をゼロ%付近に抑える「イールドカーブコントロール」という新たな枠組みを導入する。

 日銀が国債を買い取り、市中に資金を大量に供給する「異次元緩和策」の限界がはっきりし、作戦変更を余儀なくされたのが、2016年9月の総括的検証の置かれた環境でもあった。

欧米は「出口」、日本は金融緩和維持
金利差が拡大し円安の流れに

 その当時から、1年が経過した今年の大きな転換は、昨年の世界的な“通貨安戦争”で金融緩和競争が転換し、米欧の中央銀行が超金融緩和からの「出口」の方向を明確にしてきたことだ。

 米国はすでに2015年12月から利上げを始めたが、2016年12月以降、四半期に1回のペースでの利上げに踏み切り、さらに連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートの縮小の方針を固めるに至っている。

 この結果、2016年に比べ、トランプ政権の財政拡大への期待も加わり米国の長期金利が上昇し、日米金利差の拡大で円安に向かうに至った。

(資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
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 図表2は、日米金利差拡大に沿って、2016年11月以降、円・ドルレートで、急速に円安に向かった状況が示されている。

 さらに、2017年半ば以降、ユーロ圏でECBの「出口」観測が高まると、ドイツを中心に欧州の長期金利も上昇し、対ユーロでも円安に転じるに至った。

 一方、日本だけは金融緩和を続ける方針を堅持する中、「出口」に向けて動き出した米欧と、依然として金融緩和継続を掲げる日本との「金融政策格差」が大きくなり、昨年の円独歩高を大きく転換させることになった。

 ただし、米国の長期金利上昇にも限度があり、先述の「3L」の状況の後遺症は残る状況が続くだけに、2015年までのような円安水準には戻りにくい状況にある。

金利カーブコントロールが為替に効果
円安で、株高、物価高目指す

(資料)みずほ総合研究所作成
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 実は、金融政策格差で円安に向かった要因の一つに、2016年9月の総括的検証におけるイールドカーブコントロールの導入がある。

 次の図表3はその効果を示す概念図だが、米欧の長期金利が「出口」観測で上昇する中で、日本はイールドカーブコントロールで10年金利を0%付近に据え置く対応を行っており、それは金利差拡大 ⇒ 円安をもたらす政策として機能した。

 しかも2016年9月に日銀が独自の視点からイールドカーブコントロールを導入したのは絶妙のタイミングだった。11月のトランプ氏の大統領当選の直前のタイミングであり、その後に導入したら、米国から為替誘導と批判されかねない政策でもあった。

 その後、米国の金利上昇に沿って日本の長期金利も断続的に上昇圧力がかかるタイミングがあったが、その時には日銀は指し値オペで長期金利の上昇を抑え、金利差拡大に向ける対応を行って、現在の円安環境の継続を実現している。

 国債買い取の際に、日銀が一方的に買値を提示して取引する指し値オペは、長期金利を低く抑え、為替相場を円安に向ける事実上の「円安介入」とも言える。

金融政策の“格差”状況を
長く保ちたい日銀の思惑

 日銀の今日のスタンスは、2%の物価(上昇)目標達成のためには、現在の金融政策の欧米との格差状況をできるだけ長く続けたいという点にある。

 その中で、米欧との金利差拡大 ⇒ 円安 ⇒ 物価上昇圧力・株高・企業業績改善、による好循環を演出したいというのが本音だ。

 このような環境で生じうる株高・物価高の高まり、すなわちインフレになりやすい「高圧経済」とも言える環境をできるだけ長く続けることで、なかなか変わりにくい粘着性のあるデフレ圧力を粘り強く払拭したいというものだ。

 昨年9月の総括的検証では、物価環境は「適合的期待」にあるとして、大規模緩和でインフレ期待を醸成する短期戦略では改善は困難との総括をし、長期戦で息長く対応しようという手段がイールドカーブコントロールだった。米国の景気改善・利上げが続く中、金利差拡大が追い風になった環境を少しでも長く続けることで、物価環境を改善させたいのが、黒田総裁の本音だろう。

 従って、日本では、「出口論」が市場などで言われ、「金融政策格差」の印象が薄れることは極力避けたいとの認識にあるのではないか。

 2017年7月の金融政策決定会合で日銀は2%の物価目標に達する時期を6回目の延期で、2018年から2019年までに延ばしたのも同様の趣旨によるものだろう。

(みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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