さくらから見たmstdn.jp移行の舞台裏とMastodonの可能性
自宅サーバーからさくらのクラウドへ!mstdn.jpとの2週間をさくらの2人に聞く
2017年05月02日 07時00分更新
この2週間で一気に盛り上がった分散型SNS「Mastodon」。世界最大級のMastodonインスタンスを運営しているmstdn.jpは、管理人であるぬるかる(Nullkal)さんの自宅サーバーを離れ、今やさくらインターネットのクラウドサービスで運用されている。Mastodonとmstdn.jpに関わったさくらの2人に激動の2週間を振り返ってもらった。ちなみに取材日は4月26日の水曜日で、マストドン会議目前だ。(以下、敬称略)
学生さんが自宅サーバーでがんばっていて「それは痛快だな」と思っていた
大谷:今回はお忙しいところ、ありがとうございます。
鷲北:週末に御社のマストドン会議で登壇するので、資料を作っているところです。
大谷:そうですよね。遠藤からのお誘いで登壇なさるんですよね。
鷲北:昔、アスキーの256倍シリーズ※に関わっていたことがあるので、カレーの師匠である遠藤さんには頭が上がらない。相手が遠藤さんということであれば、行くしかないです(笑)。
※プログラミング、ハード、ソフトなどを面白おかしくディープに解説するアスキーのPC書籍シリーズ。AWK、MS-DOS、Linux、Ruby、C言語、モバイルPCなどさまざまなラインナップがそろっていた。
大谷:ITmediaの記事(世界最大の「mstdn.jp」を立ち上げた大学院生“ぬるかるさん”は一体何者か その素顔とドワンゴ入社が決まるまでの10日間に迫る)でも、ぬるかるさんが遠藤の記事を読んでmstdn.jp立ち上げたと書いてあって、アスキーの人間として「ちょっと気分いいぞ」とか思ってました(笑)。さて、まずは2人がMastodonを認知したのはいつくらいか、お話しいただけますか?
横田:私はぬるかるさんと同じく、アスキーの遠藤さんの記事。確か4月10日ですね。鷲北さんも読んでました?
鷲北:僕は流行り物に食いつくのが遅いんですよ。その記事を読んだのはずいぶん後じゃないかな。うちで流行り物はやはり横田担当。横田から「こんなのが流行っている」という話を聞かされると、僕が「へえ~」って答えるというのが通例パターンです(笑)。
とはいえ、Mastodonが流行っているというのはちょっと前から知っていました。なんだか学生さんが運営しているmstdn.jpが世界最大の規模という話を聞いて、個人的には「うん、それは痛快だな」という気分でした。ただ、当時はうちに接点ができるとは思ってませんでした。
横田:社内でぬるかるさんとお知り合いだった人は、そのときはいなかったですからね。
大谷:最初、Mastodonの話を聞いたときはどんな感想でしたか?
鷲北:過去にもいろいろなサービスを見てきたので、また新しいSNSが現れたかくらいの感想です。周りが作り始めるまでは、自分でアカウントを作るつもりもなかったです。
横田:分散型のSNSって昔からあったじゃないですか。だから、記事読んだ頃はここまで流行るとは思わなかったですね。
われわれは基本的に「YES」しか返さない
大谷:さくらさんの名前が出だしたのは、4月13日、14日くらいですかね。
横田:そうですね。ぬるかるさんの自宅にあるmstdn.jpサーバーの負荷がいよいよ大きくなってきたというタイムラインはわれわれも見ていました。それに応じて、確か13日くらいから国内クラウドの事業者が声をかけ始め、Azureの方も支援を申し出たんですよね。ただ、この時点で、すでに多くの事業者が声をかけていた状態だったので、むしろうちらは遅かったくらい。本音を言うと、遅きに失したなという感じでした(笑)。
鷲北:ところが14日の朝にゲヒルンの石森さん※が、「さくらのクラウドを一時的にでもお貸しするから使ってみませんか?」とTwitterでぬるかるさんに声をかけてくれたんです。
※ゲヒルン代表取締役社長 石森大貴氏。ゲヒルンは平成生まれのスーパーハッカー集団として知られるセキュリティのプロフェッション集団。2016年4月にさくらインターネットの子会社となっている
石森さんとぬるかるさんって、実はTwitterで相互フォローしあっている知り合い同士。それでぬるかるさんが乗り気になってくれ、移行の話が進みました。あとは石森さんがマニュアルとかをぬるかるさんに渡してくれて、粛々と移行が進んだようです。
大谷:なるほど。きっかけは石森さんだったんですね。
鷲北:14日の昼くらいにはマニュアルを読んだぬるかるさんからサーバーだけではなく、アクセラレーターなどいろいろ使ってみたいという声が上がってきたみたいです。でも、そうなると石森さんのアカウントの又貸しだとなにかと都合が悪いので、ぬるかるさんのアカウントを無償化する手続きに移って、とりあえず1年間の無償提供が決まったという感じです。
大谷:さすがにスピーディですね。
鷲北:社内のSlackを見るとわかるのですが、金曜日(14日)の朝の時点ではすでに「貸しました」という事後承諾状態。石森さんからは、あとから「預かっていいでしょうか」って確認が来ました(笑)。
ただ、これは弊社としては当然の話で、われわれは基本的に「YES」しか返さない。うちに移っていただいて、「快適に使ってます」という一言をいただければ、あとは無料で使っていただいてかまわないというスタンスです。
大谷:PRしちゃいますが、さくらさんは昔からスタートアップや学生さんにやさしいですよね。
鷲北:ありがとうございます。社内的には稟議も出たのですが、もともとスタートアップや学生向けの無料支援枠があるので、僕の決裁範囲で障壁なく進みました。打診から1時間くらいで会社としてもオーソライズされた状態になりました。
横田:負荷の重たいサーバーを助けるというのは、社内のカルチャーですね。鷲北も昔はミクシィさんやグリーさんの立ち上げを手伝ってましたし。
鷲北:こういう条件があればみたいな堅苦しいことはなくて、わりと面白いねというきっかけでやってます。たとえサービスが当たらなくても、次がんばってねと言えるようなチャレンジしやすい環境を作って行きたい。「さくらだったらなんとかしてくれる」というアピールは、今後も続けていきたいですね。