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博多陥没事故に福岡市交通局が「責任なし」を主張する理由

2017年04月26日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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写真:日刊スポーツ/アフロ

昨年11月、福岡市民の度肝を抜いた大規模な道路陥没事故。原因の地下鉄トンネル工事を巡っては、事故の発注者である市交通局が、第三者委員会とは異なるデータを採用して真っ向から反論するという、異例の構図となっている。

 福岡市・JR博多駅前の市営地下鉄七隈線工事現場で2016年11月8日の早朝に起きた、道路の陥没事故。都心の目抜き通りのアスファルトが、ズドン、ズドンと地中に落ちていく映像は、国内外に大きな衝撃を与えた。

 陥没の原因を探るべく、市の要請で、土木工事の専門家や現役の国土交通省幹部などによって組織された第三者委員会「福岡市地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する委員会」は3月30日、事故原因に関する報告書を公表した。

 だがその前日の29日、福岡市交通局は地質調査について、第三者委の見解と大きく異なり、自らに有利となる見解を公表。国土交通省やゼネコン関係者の間で反感を買っている。

 30日の第三者委の報告書は、主な原因として、トンネル上部の「難透水性風化岩層」といわれる地層が、実際には事故前の想定より薄いうえに、変形しやすい箇所があり、亀裂が多かったため地下水を通しやすく、脆弱だったとの見方を示した。報告書自体は、発注者の市交通局と、施工者である大成建設などゼネコンの共同企業体(JV)のどちらに多くの責任があるかは言及していない。

 とはいえ、事故前のトンネル上部の地質の把握が結果的に不十分だったと述べてはいるわけだ。

 一方で、市交通局が29日に公表した文書は、事故の前後で地質の把握状況に「相違はない」と断定した。

 トンネル工事では一般的に、発注者が地質調査をして工事の仕様を決めた後、入札などで施工者のゼネコンを決める。そして実際に掘削工事を進めてから、地質の状況や変化に応じて、ゼネコンが追加でボーリング調査を行うことがある。

 今回は、市交通局が発注前に独自に2本のボーリング調査を実施。さらに市の他の部局が今回の工事以外の目的で行った4本を加えた計6本の調査結果を基に仕様を決定した。発注後のゼネコンJVによる調査は1本だ。この事実はすなわち、市交通局が、事故前の地質調査に大きく関わっていたことを示している。

 これら一連の地質調査について、市交通局は第三者委の報告に反して「問題なし」と主張したわけで、事故原因はもっぱら、ゼネコンJV側にあるといわんばかりなのだ。

市側に都合の良い結果を選択

 なぜ、見解がここまで分かれるのか。それは、根拠とするデータの選び方が異なるからだ。

*取材や土木研究所、福岡市交通局の資料を基に週刊ダイヤモンド編集部作成 拡大画像表示

 事故現場やその周辺では、事故前後で計23本のボーリング調査が行われた。その内訳は表に記したとおり、前述の7本を含む事故前の11本と、事故後に埋め戻した地盤の強度を調べるための8本、そして事故の原因究明のための4本だ。

 第三者委はこれら23本すべてを評価の対象としたが、市交通局は、事故前の11カ所のうち前述の7本と、原因究明のための4本の計11本しか対象にしなかった。

 第三者委の事務局である、国立研究開発法人土木研究所の崎谷和貴研究企画課長は、23本すべてを対象にした理由について「恣意的に一部のデータを抜き取らず、すべてのデータを見るべきだと考えた」と語る。

 もっとも、事故後の埋め戻し作業により、事故前と地盤の状況が変わっている可能性はある。市交通局が、埋め戻した地盤の強度を調べるための8本を対象外としたのはそのためだ。事故前の4本についても、事故現場から遠いなどの理由で対象としなかった。

 そのため市交通局の成尾直之建設課長は「第三者委よりも交通局の認識の方が正確だ」と言い切るが、土木研究所の崎谷課長は「埋め戻しによる地盤の変化は報告に加味している。結果には大差ないと判断した」と述べている。

 技術的な見方とは別に、そもそも第三者委は、福岡市の高島宗一郎市長自ら「事故を起こした側が検証や評価をするのでは納得してもらえない」と述べて、国交省に原因究明を求め、設置されたものだ。

当事者自らの都合で事故を検証、評価?

 にもかかわらず、市交通局という“事故を起こした側”自ら地質調査について“検証や評価”をし、第三者委の報告の前日に反論となる主張をしたのだから、ご都合主義のそしりを免れまい。実際、23本のうち11本のボーリング調査の結果から、事故の前後で地質の把握に「相違はなかった」という結論自体、市交通局にとってはいかにも都合のいいものだ。

 であるからこそだろう、市交通局は、第三者委の報告書が公表された翌日の31日にも、「委員会の結果について」と題する文書を発表。陥没の被害を受けた現場周辺の地権者らへの損害賠償費用について、市交通局は「責任を負うべき過失はなかった」とし、「原則どおり施工業者において負担すべきもの」と主張した。事故原因と賠償の両面で、責任なしとの姿勢を貫いている。

 事故が起きた地下鉄七隈線は、乗降客数が当初見通しの半分程度の赤字路線で、従来、市交通局への批判は根強い。さらに事故の責任や賠償まで発生すれば、市民や市議会からの突き上げは必至だ。市交通局の強気の姿勢は、そんな焦りの裏返しなのかもしれない。

 今回の事故は、現場の迅速な判断がなければ、多くの人命が奪われた可能性がある重大なものだ。原因究明への取り組みに、行政のメンツや責任回避の思惑が入り込んでいるとすれば、同様の事故が二度、三度と繰り返される恐れがある。

(週刊ダイヤモンド編集部 岡田 悟)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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