社名をAureal Semiconductorに改称
再びCreativeと競合
Creative Technologyはここで価格面の競争を急ぐべく、Sound Blaster 16の主要な機能を1チップ化することで低価格化を実現できるViBRA16コントローラーの開発を急ぎ、1993年あたりからOEM向けを皮切りにこのViBRA16コントローラーの出荷が開始されているが、勝負は意外な形で決着する。
1994年、Media Visionは全米27州で訴訟を起こされることになり、同年5月14日にJain氏は辞任している。なにがあったかといえば、不正経理である。
1998年に結審した判決文書を読むと1993年2月~12月の間に、架空の出荷記録や返品の隠匿を行なっており、本来は1993年度に1億5000万ドルの売上と9900万ドルの損失が出ていたのを、2億4100万ドルの売上と2000万ドルの利益に改竄していたことと、これに関連してインサイダー取引を含むいろいろな余罪も発覚した。最終的にJain氏とCFOを務めていたSteven Allenは投獄されるに至る。他にも重役が4人ほど、有罪判決を受けている。
経営陣がこんな調子で会社が存続できるわけもない。これでCreative Technologyは安泰か……と思いきや、単に第二幕のスタートであった。Media Visionは社名をAureal Semiconductorに改称する。
この際に旧Media Visionのすべての製品や保有技術、商標はサンノゼのSVT Shiva, Inc.(SVTI)に売却、SVTIは製品の販売部門としてMedia Vision Innovations, Incを設立し、PASやProGraphicsなどの製品を継続販売していた。
こんなリリースが出ており、まだビデオカードやオーディオカード、IDEカードなどの販売を継続しており、少なくとも1996年あたりまで存続したことはわかっているが、その後は不明である。
ただこちらは大した問題ではない。問題だったのはAureal Semiconductorの方だ。名前の通りこちらはチップを作る会社で、1997年に初のサウンドチップであるVortex AU8820を発表する。
画像の出典は、“Wikipedia”
もちろん同社がチップだけを販売していれば問題にはならなかったのだろうが、すぐに同社はチップ単体のみならず、これを搭載したカードも売り始めることになり、ここで再びCreative Labsと激しく競合することになった。
Vortexのコア技術は、同社がA3D(Aureal 3D)と呼ぶ3次元音響技術である。基本はHRTF(Head-related transfer function)と呼ばれる、音源と頭の位置関係によって音声伝達特性が変わることを利用して3次元的に音響を再生する技術である。例えば救急車が左から右に走っていくのが、単に左から右だけでなく、距離感や位置を正確に音で判断できる。
Aureal 3Dに使われたものは、NASAがVIEW(Virtual Environment Workstation Project)向けにHRTFを実装したものが元になっている。この実装を請け負ったのがCrystal River Engineeringで、AurealはCrystal River Engineeringを1996年に買収し、その技術をVortexに詰め込んだ。
この3次元音響という特徴は、特にFPSゲームやレースゲームなどには非常に好ましいもので、1998年に登場したAU8830 Vortex 2に搭載されたA3D 2.0はLucas FilmやiD Softwareといった大手ゲーム会社がサポートするに至る。
さてCreative Technologyは同時期Sound Blaster Live!を投入する。もともとCreative LabsはISAやEISAには大きなシェアがあったのだが、PCIへの移行が遅れていた。
そこで1998年にEnsoniq Corporationを買収し、Ensoniqが保有していたAudioPCIという低価格なPCIサウンドカードをベースに、Creative TechnologyのEAX(Environment Audio Extention)と呼ばれる3次元音響技術を搭載したEMU10K1チップを作り上げた。Sound Blaster Live!はこのチップで構成されている。ただA3D 2.0はこのEAXを完全に喰ってしまった。
Sound Blaster Live!の方がいろいろな機能もついており、同時発声数も多い(もちろんその分高価)のだが、その市場を安価なVortex 2カードに奪われかねない状況になった。
これに対するCreative Technologyの対抗策は法廷闘争である。Creative Technologyは1993年にシンセサイザーメーカーのE-MU Systemsを買収しており、このE-MU Systemsが保有しているMIDI Caching Technologyの特許をVortexチップが侵害していると1998年5月に訴えを起こす。
さらにVortex2チップ自身の特許侵害も追加するなど、とにかく大量の訴えを起こした。もちろんAurealもすぐさま反訴するが、こうなってくると問題は企業体力である。開発メンバーは継承されたとはいえ、まだスタートアップ企業の域を出ないAurealと、すでに年間数億ドルの売上げがあるCreative Technologyでは勝負にならない。
実際1999年に入るといくつかの訴訟でAurealの勝訴が確定したが、もうその頃にはAurealの企業体力が尽きていた。結局Aurealは2000年9月に倒産。Aurealの保有する技術や資産(その中にはA3Dも含まれる)は、すべてCreative Technologyが合計3200万ドルで買収した。
ただでは転ばないJain氏のその後
最後に、その後のJain氏の話を少しだけ。Media Visionを離職後、彼はどういう経緯でか、Turtle BeachのCEOを務めている。当時Turtle BeachはICS(Integrated Circuit Systems)の子会社の状態で、その後Voyetra Technologyに売却されるのだが、その前後にCEOだったらしい。
とはいえまだMedia Visionの訴訟は続いている状況であり、最終的には30ヵ月の禁固刑が下されたタイミングあたりでCEOを辞任、刑務所(正確にはFPC:Federal Prison Camps、比較的罪状の軽い囚人を収容する施設)入りする。ただ彼は請願を出してそれが通ったようで、最終的に禁固刑は18ヵ月短縮されている。といっても13ヵ月は刑務所にいたらしいが。
その後、MPEG-1/2デコードカードを製造するDazzle Multimedia、音声圧縮/伸張技術を提供するEmuzedなどを興して、現在はMonsoon MultimediaのCEOを務めつつ、SliQBitsという会社を興している(CEOは務めていない)。
Jain氏のLinkedInのページを見ると、Media Visionの項目だけがぽっかり抜けているあたり、さすがに記載する勇気はなかったようだ。
こう、なんというかCreative Technologyがその他の会社を次々潰したり買収したりする様子は記録を読んでいてもエグい感は否めないのだが、それよりエグいのがJain氏ではないか、というのが筆者の率直な感想である。
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