このページの本文へ

大谷イビサのIT業界物見遊山第25回

ホールセールビジネスがもたらす新しいIoTサービスの可能性

KDDI採用は序章?MVNO事業者にIoTの道を拓くソラコム第2幕

2016年10月24日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

先週のITPro Expoで発表された「KDDI IoTコネクト Air」は、KDDIがソラコムのIoTプラットフォーム「SORACOM vConnec CORE」を採用することで実現したサービス。生まれて1年のスタートアップのサービスを大手通信事業者が採用するという快挙もさることながら、個人的にはWebサービス事業者にIoTサービス参入の道を拓いた方が大きなインパクトを感じている。

タイムツーマーケットを優先したSORACOM採用の英断

 「KDDI IoTコネクト Air」を一言で説明すれば「KDDI版のSORACOM Air」だ。使っているネットワークインフラが従来のNTTドコモ網ではなく、KDDI網になっている以外、サービスはSORACOM Airとほぼ変わらない。ユーザーから見れば、SORACOM Airを利用するためのキャリアの選択肢が1つ増えたということになる。

 PoCに資するIoTサービスの自社開発をあきらめ、タイムツーマーケットを優先したKDDIの英断にはエールを贈りたい。

 システムの内製化志向の強い国内の通信事業者やサービスプロバイダーは、グローバルプレイヤーの1/100のリソースで、グローバルプレイヤーと同じサービスを作りたがる。苦労して完成したときには、すでに市場のニーズからかけ離れたものとなり、グローバルプレイヤーからさらに遅れをとってしまう。一方で、先端的なサービスを開発しても、市場のニーズとタイミングが合わず、撤退してしまうサービスもあった。正直、この20年、日本の通信業界はこんなことの繰り返しだ。

 その点、スタートアップでありながら、圧倒的な開発・運用力を持つソラコムとのタッグは、KDDIにとって合理的だ。おそらく社内ではさまざまな確執や議論があったと推測されるが、この1年のIoTの需要の高まり、特にPoCを試したいという顧客の声が、大手通信事業者を動かしたということだろう。

 それにしても、時代の変革を痛感する。1999年にASDLサービスを展開した東京めたりっく通信は、大手通信事業者の市場参入によって経営危機を迎え、ソフトバンクに買収される。日本をブロードバンドに導いたその功績は限りなく大きいが、時代の荒波にもまれ、サービスは約4年で終了してしまうのである。それから10年以上の時を経て、登場したソラコムは圧倒的なスピードとサービス開発力をもって、大手通信事業者の追従を許さないプラットフォームとエコシステムを構築した。これを偉業と言わず、何と言うのだろう。

SORACOM採用は通信事業者にとって諸刃の剣か?

 とはいえ、KDDIにとって自社開発ではないSORACOMの採用は、実は諸刃の剣でもある。KDDI自体はすでに「KDDI M2Mクラウドサービス」を始めとして、いくつかのIoT向けサービスを展開している。これに対して、KDDI IoTコネクト AirはあくまでPoCのニーズに応えるためのサービスという位置付けになる。事前の発表会でも、「PoCのニーズが高まっているにもかかわらず、SIMを1枚から買えるSORACOM Airのようなサービスがなかった」というコメントが出ており、まずはSORACOMからスタートし、本格運用でKDDIのサービスに移行させるという意図も見え隠れした。

 しかし、ご存じの通り、AWSのスケーラブルな基盤上に構築されたSORACOMのサービスはPoCのみにとどまらず、本格運用でも十分に耐えうる拡張性や信頼性を誇る。現時点でも障害は1回のみだ。もちろん、圧倒的なスピードで機能も強化し、グローバル展開も進めているため、実はかなりの用途はSORACOMで十分事足りてしまうはず。今回はSORACOM Airのみだが、ユーザーニーズを汲んでいけば、次々とSORAOCM BeamやCanal、Directなどソラコムが手塩にかけて作ったサービスを自社に取り込むことになるはず。こうした中、SORACOMをベースにKDDIならではのメリットを活かせるサービスを開発できるのか、KDDI自体のIoTサービスの戦略が大いに気になるのだ。

SORACOM vConnec COREのホールセールがWeb事業者のIoT参入を促す?

 とはいえ、個人的には今回のサービスの主語がソラコムからKDDIに変わったことで、なぜか多少もやもやしたものも感じている。仮にソラコムが主語になり、vConnec COREを多くの事業者に提供するというプラットフォーム戦略が先にあり、その第一弾としてのKDDIの採用という見え方であれば、もう少し胸躍ったであろう。つまり、SORACOM AirでNTTドコモ網とKDDI網を選べる、もしくは両方使えるといった形態だ。しかし、今回の主語はサービス提供側のKDDI。KDDIのIoTサービスの1つとして、SORACOMの技術をかついだという形だ。

 「実質変わらないんだから、それほど気にする必要もないのでは?」という声もあるが、現状ではSORACOM AirはNTTドコモ網、KDDI IoTコネクト AirはKDDI網に固定される。しかし、SORACOM Airで2つのキャリアをサポートすれば、異なる通信事業者をまたいだ新しいサービスも作れるはず。また、現在SORACOMのサービスの運用で大きな固定費を占めているであろう通信事業者の設備やネットワークの利用料を引き下げるレバレッジも効きそうだ。通信事業者に対しては、あくまでソラコム側がサービスのイニシアティブを持つという選択肢もあったのではないかと思っている。

 ともあれ、KDDIの採用以降、今後ソラコムの虎の子であるSORACOM vConnec COREを他の事業者に提供するというホールセールモデルが確立すれば、MVNO事業者にIoTビジネスのチャンスが生まれる。なにしろ、ネットワークのみならず、IoTプラットフォームさえも自社で抱えることなく、IoTサービスが提供できるのだ。今後は、LINEやDMM.com、Yahoo!、楽天、GMOなどMVNOを展開するWebサービス事業者が、ソラコムの技術を用いて、自社サービスと親和性の高いIoTサービスを展開することは想像される。もちろん、グローバルの事業者にとっても、そのメリットは同じだ。

 いろいろな妄想の末、個人的には大手通信事業者の採用よりも、IoTへの足がかりを模索するMVNO事業者との連携の道を拓いたというインパクトの方が大きいのではと感じている。今回の発表が「第2次ソラコムショック」であることは間違いないが、単にKDDIが採用したという点より大きなインパクトが裏には見え隠れしていると思うのだ。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ