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MWC 2016でエリクソンのクラウド技術担当に聞いた

AWSとともに通信業界の破壊を進めるエリクソン

2016年03月02日 10時00分更新

文● 末岡洋子

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 2月末、スペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大のイベント「Mobile World Congress 2016」で、古参で最大手の通信インフラ企業のエリクソンが、Amazon Web Services(AWS)との提携を発表した。同社はまた、Facebookが主導するオープンなデータセンタープロジェクト「Open Compute Project」にプラチナメンバーとして参加することも発表。これに基づいたハードウェアの製造で台湾のQuantaと握手を交わしている。AWS提携の立役者でクラウド技術担当ディレクターを務めるジェイソン・ホフマン(Jason Hoffman)氏に話を聞いた。

ジェイソン・ホフマン氏。Joyentの共同設立者でもあるクラウドの一人者だ

顧客基盤の多さがAWS提携の出発点

 今回のAWSの提携は、共通顧客が多いというところが出発点だったという。AWSの利用にあたって、通信事業者は調達プロセスなどで課題を抱えていた。もう一つ、通信事業者に限った問題ではないが、「AWSを正しい方法で利用しているのか?」という疑問があった。パブリッククラウドのメリットを最大に引き出しているのか、適したところに使っているのか。ITチームを持つエリクソンが支援できることは多そうだと考えた。「われわれの顧客がAWSを使っていたり、関心を持っている。であれば、AWSと提携して、AWS利用を助けることができると考えた」とホフマン氏。AWSにしてみれば、世界最大のエリクソンと組むことで通信事業者の顧客にリーチしやすくなるというメリットがある。

 提携の下、エリクソンはAWSの認定を受けたソリューションアーキテクトを養成し、専門家チームをグローバルに設ける。エリクソンにはすでに1万7000人のコンサルおよびシステムインテグレーターを含む6万6000人のサービススペシャリストがいる。これにより、顧客である通信事業者の事業目標にあったクラウド導入の枠組みを構築できるという。

 今回の提携はエリクソン、AWSの双方にとって独占的なものではない。Microsoft AzureなどAWS以外のパブリッククラウドについては要望があればチームを組んで支援するという。だがホフマン氏は、「Azureを提案すれば、AWSは?と比較をリクエストされる。だがAWSを提案すれば、Azureと比較しようとするところは少ない」と、AWSがデファクトに近い存在になっている現実も明かした。「多くの顧客が望んでいるのがAWSで、われわれはそこと組むことで顧客に最大のメリットをもたらす」と続けた。

 ホフマン氏の話からは、通信事業者はパブリッククラウドのセキュリティに不安を抱いていないことも分かった。「過去2年のセキュリティ事件で、AWSは一つもなかった。AWSのセキュリティはあらゆるエンタープライズのITインフラよりも安全といってよいだろう」とホフマン氏。セキュリティのトレンドも変わっている。「2014年頃を機に、セキュリティは変わった。それまでは人によるミスがもっとも多い原因だったが、2014年を境に犯罪組織が大企業を狙うようになった」とホフマン氏は述べ、AWSはインターネットを熟知していると信頼を寄せた。

インテルのRSA搭載のクラウドシステムが発端に

 そもそものエリクソンのクラウド戦略はどうなっているのか。土台にあるのは、2015年のMWCで発表したハイパースケールのクラウドシステム「Hyperscale Datacenter System(HDS)8000」だ。当時、インテルの「RackScale Architecture」を搭載した初の製品として話題になった。その上にネットワークの仮想化、IT、そして自動車などIoTで進める業界別のクラウドなどが載る。ホフマン氏はこれを「クラウドプラットフォーム戦略」とする。

 これを通して進めるのが、顧客である通信事業者のトランスフォーメーションだ。AWSとの提携もその一環となる。「われわれの顧客は、Facebookのように効率よくなりたいと思っている。AWSとの提携により、これを支援できる」とホフマン氏。次のようにも語った。「ほかの業界ではすでに破壊がはじまっている。エリクソンはAWSと一緒に通信業界の破壊を進める。プライベートクラウドに移行することで、古いものからいったん離れて、インフラを構築しなおす。そして必要なものを古いものから戻してくる。その後はスケール(拡張)だ。このモデルならトランスフォーメーションが可能だ」。

 既存のものを移すだけのプライベートクラウドがうまくいかない理由も、ここにあるという。AWSとの提携は、IBM、Hewlett-Packard Enterpriseなど既存のITベンダーに影響を与えそうだが、ホフマン氏は否定しなかった。「業界が変化している」とホフマン氏は語る。

 通信事業者の課題は、収益と新しいビジネスモデルだ。ネットワークの”パイプ”が広くなると、OTT(Over the Top)とよばれるインターネットサービスがその上でメッセージサービスや音声サービスを無料で提供するようになり、顧客がこちらに流れる。これまでの音声とデータに対する課金だけでは投資の回収が難しくなっている。必要なものは、プラットフォームだという。

 「プラットフォームビジネスでは、なにかを無料で提供し、どこかから収益を得る必要がある。だれが支払うのかを見出さなければならない。その後、そのモデルを拡張していく。Apple、Googleなどすべて何かをフリーで提供している」とホフマン氏。モバイル業界はこれまで、携帯電話を安く提供し、それと引き換えに契約で音声とデータに支払うというモデルで、プラットフォームとなるのは国際ローミングぐらいしかなかった。「OTTが成功した理由はなぜか。われわれ通信業界がモバイルネットワークを最初に構築した方法が、プラットフォームを目指したものではなかったからだ。その上で人々がイノベーションできるようなオープンなものではなかった」と説明する。

 だからこそ、2020年に商用化が見込まれる次世代の通信規格「5G」は、大きなチャンスとみる。ホフマン氏は、「5Gのロールアウトに向けてコアネットワークを変換し、プラットフォームにできる」と述べる。事業者に対してこのような提案ができるのは「エリクソンだけ」とホフマン氏。エリクソンのCTOのビジョンであり、会社全体で取り組んでいるからだという。

 「コアネットワークのトランスフォーメーション、5G、IoTなどを進めていかなければ(通信事業者は)成功しない。携帯電話は60億人だが、ネットに接続するデバイスは600億台。これまでにない大きなチャンスが迫っているのに、接続だけを提供するのでは投資を正当化できない。エリクソンなら、プラットフォームビジネスの提供に向けたトランスフォーメーションが可能だ」。

クラウドを転機にエリクソンもトランスフォームへ

 エリクソン自身もクラウドを機に転身を図っている。ホフマン氏は「ソフトウェアカンパニーのような企業」と目指す先を表現する。それを実証するのが、MWCで発表したOpen Computeへの参加とQuantaとの提携だ。これにより、Open Computeの仕様に基づくサーバーなどの機器を、Quantaがパーツを集めて作る。RDS 8000ですら、「確かにハードウェアだが、われわれはサブスクリプション型のソフトウェアサービス事業と見ている」とホフマン氏は言う。

 転身は、2015年末に発表したライバルであるシスコとの提携でもみてとれる。「エリクソンは基地局に向けのバックホールルーターやEPCパケットコア向けを作ってきた。一部競合するものもあるが、シスコのIPポートフォリオを見ると、データセンターゲートウェイなどエリクソンにはない製品がたくさんある。提携によりシスコのIP事業にアクセスできる」という。Cisco UCSとエリクソンのHDSを例にとっても、UCSはエンタープライズ向けのサーバーと通常のストレージを統合しているのに対し、HDSはハイパースケールでサービス事業者を狙ったもの、と位置づけが異なることを説明する。

 エリクソンの攻めの戦略に対し、顧客の反応も良好という。「AWSとの提携については、”望んでいたことをやってくれた”と評価された。シスコもおなじだ」とホフマン氏は満足顔で述べた。

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