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『ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言』特別企画

戦争とテクノロジー ドローンが人類にもたらすもの

2015年12月31日 11時00分更新

文● 遠藤 諭(角川アスキー総合研究所取締役主席研究員)
編集● 盛田 諒(Ryo Morita)

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ABOUT THE ARTICLE

ドローンはすでに対テロ戦争の主役の1人だ──アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットT・マーク・マッカーリー中佐の証言が1冊に。ドローン、そして人工知能はわたしたちにどんな選択を迫っているのか。新刊『ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言』に寄せた解説文を紹介。

 プレデターが運用開始された1995年、私はコンピューター雑誌の編集長をやっていて、毎週、ニュースを追いかける生活をしていた。

 まだ社会科の教科書では触れられていないかもしれないが、この時代に産業や社会全体を動かすテクノロジーの“質”は大きく変化したのではないかと思う。プレデターの本体が薄っぺらな複合材料でできており、エンジンはスノーモービルのものを改造したものであるといったことは、まさにそうした時代を感じさせる。

 戦場がすっかり様変わりしてきているという事実を人間の側から伝えているのが本書だが、テクノロジー的にみた時代背景や“ドローン”と呼ばれる技術のこれからについて触れてみたい。

兵器の世界に“ダウンサイジング”の波が訪れた

 戦争とテクノロジーというのは、切っても切れない関係にある。

 歴史をふりかえれば人間がやることは昔からそれほど変わっていないように見えるが、鉄器の発明から最新のバイオや人工知能までテクノロジーだけは後戻りせずに進化を続けてきた。そのテクノロジーが最も社会に影響をおよぼしまた求められるのは、戦争の時代をおいてほかにないからだ。

 コンピューターも例外ではなく、第二次世界大戦中にドイツの“ローレンツ”暗号(エニグマを進化させたより複雑とされる暗号)の解読には英国の専用コンピューター“コロッサス”が使われたし、最初の実用的な汎用コンピューターともいわれるドイツのツーゼによる“Z3”はジェット機の翼面設計に使われた。『ノイマンとコンピュータの起源』(ウィリアム・アスプレイ著、杉山滋郎・吉田晴代訳、産業図書)を読めば、1940年代に米国でコンピューター開発が急がれた理由の一つは“核開発”のために方程式を解くことだったことがわかる。コンピューターによって都市の景観やわれわれの生活様式は変化したが、戦争にかかわるさまざまな事物もコンピューターによって巨大化、高速化、破壊力の強大化などがもたらされてきた。

訓練任務のために米ネバダ州のクリーチ空軍基地から離陸するMQ-1プレデター

 ところが、プレデターというのは、そうしたいままでの兵器の進化とは少しばかり趣が異なっている。その情報が目耳に入ってきたとき、「兵器の世界にもダウンサイジングの波が訪れたのか」と感じたのを覚えている。

 “ダウンサイジング”というのは1990年代のコンピューター業界の潮流の1つで、企業の基幹業務で使うコンピューターをそれまで使われていた大規模なハードウェアから安価なPCを使ったサーバーやワークステーションに置き換えることをいった。プレデターの価格は、地上誘導ステーションが高価なのでそれを含めた4機セットでは(航空機1機では2桁)の差ではあるが、“F-22ラプター”に比べるとはるかに安価だと本書では書かれている。

 ちなみに、ダウンサイジングをもたらしたのはコンピューター業界で有名な“ムーアの法則”(Moore's Law=半導体の集積密度は18ヵ月ごとに倍になる)だが、ジェット戦闘機については"オーガスティンの法則"(Augustine's laws/Law 16)があるそうだ。これは、2054年には戦闘機1機のコストが米国の防衛予算と同額になるというもので、1997年に、皮肉の意味をこめて示されたものだがDARPAの近年の資料でも引用されているので興味のある方はご覧になるとよいだろう。

Augustine's laws/Law 16。さながらジェット戦闘機版「ムーアの法則」だ

 1990年代といえば、クリントン政権の副大統領アル・ゴアの提唱をもとに、“情報スーパーハイウェイ構想”がブチあげられていた時代でもある。コンピューター同士がネットワークで繋がることで、いままでの常識が次々と覆されるといった議論は記憶に新しい。

 ネットは、地球上の距離というものを無意味にしてしまうので企業の一部分はインドなどへオフショアできるという考えもこのとき注目された。電子商取引が、ネットを経由していままで出会えなかった売り手と買い手の組み合わせを生み出し効率的に決済・取引される。商品が小売店の棚で1個売れたらただちに工場のラインで1個生産すればよいので、景気変動のない世の中が訪れるといったことを言う人すらいた。

 テクノロジーの“質”が変わったというのは、主としてダウンサイジングとそれがもたらしたオープンな共通開発基盤、ネット利用のパラダイムをさす。ネット利用によって、ユーザーの手元にあるハードウェアに性能は求めず、サーバー側がソフトウェア技術でそれに応えるという図式だ。

 この間には、画像認識や自律制御、衛星やモバイルなどの通信技術にも進歩が見られ、さらには、1995年7月の米軍による“GPS”(Global Positioning System=全地球測位システム)が完全に運用開始されることになる。誰もがインターネットを使えるようになった“Windows 95”の発売、モトローラの文字どおりポケットに入る携帯電話“スタータック”の大ヒット、ネット時代の主要プログラミング言語“Java”の誕生、“PlayStation”やカシオのデジカメ“QV-10”の発売、ホンダのヒューマノイドロボット“P2”の発表もすべてこの前後1年ほどのできごとだ。

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