未来を描くスタートアップとマイクロソフトのストーリー 第3回
しくみデザイン、REAL SAMURAI、UNCOVER TRUTHで特別座談会
マイクロソフトと3社で語り合ったスタートアップの生き様
2015年06月22日 07時00分更新
スタートアップのピンチはやはり「お客様」
砂金:スタートアップとしての、皆さんの苦労話をお聞かせください。
京保:うちの場合は、パイロットユーザーに入れてもらうまでが大変でした。マイクロソフトの技術系イベントに出てパイロットユーザーができたことで、その実績から採用も増えてきました。
砂金:次に中村さん、オフィスは福岡ですが、どうやって営業してるんですか?
中村:営業はしてないです(笑)。これまでは運良く、それなりに回っていました。会社が福岡にあり、人数も少ないのであまり東京に営業には行けない。今の人数でやりきれる程度の仕事を引き受けて、余力で新しい製品を作るというのが理想でした。
砂金:“受け身” で待つ代わりに、ご自身の露出をバンバン増やしていくという戦略ですね。
中村:はい。一昨年くらいに、そうしなければいけないと気づきました。それまでは、インタラクティブなデジタルサイネージと言えばしくみデザインしかなかったんですけど、その頃から競合が一気に増えました。あと、わたしに子供ができたこともあって、東京に行かなくなったら仕事がぱたっと来なくなりました。今でも社員が「あのときはどうしようかと思った」と言うくらい、やばい時期だったんです。そこで、本当は苦手なんですが、やっぱり表に出なきゃダメなんだと気づいて、イベントにも出るようにしたんです。
小畑:うちも昨年末あたりは課題山積だったんです。僕が入る前までは、とにかくたくさんのサイトに使ってもらおうと今より安値でばらまいていました。しかし、導入企業が増えても世の中のサイトを便利に塗り替えることはできなかった。コンサルティングレポートも出してましたが、改善されないサイトもありました。
増淵:出したレポートが机の上に積まれてるだけ、みたいな感じですね。
小畑:そこで現在は、分析業務とグロースハック部分を丸ごとアウトソーシングで受ける取り組みを始めています。半年間ほど顧客のWebチームに僕らが入り込み、プロジェクトマネージャーとコンサルを付け、制作予算も預けてもらって、改善のためのPDCAサイクルを回すことまでやっています。
あと、昨年に僕が入ってからは、ターゲットと価格を大きく変えました。当時の売上分析をした結果、トップクライアントが売上の8割を占めていたんです。だから、売上の小さいお客さんではなく、業界トップの企業にだけターゲットを絞ることにしました。トップ企業がわれわれのサービスを使いこなして、改善の仕組みを手に入れれば、同業種の企業も追随するでしょう。
砂金:しかし、価格を上げるのは、スタートアップにとって難しい決断ですよね。
小畑:お客さんよりも、売る側の問題なんですよ。価格を変えても、売る営業マンのマインドセットが変わらなければダメです。営業マンは「競合商品がどれも3~5万円なのに、50万円とか、何言ってるの?」となりがちです。だから「価格ではなく、どんな価値を提供するかだけをひたすら話してこい」「仲間の作っているエンジンに誇りを持て」といった、マインドセットの話をしたんです。細かい売上データも出して2カ月間、ひたすら社内で営業マンを説得していたら、いきなり売れるようになりました。それでもまあ、人のマインドセットはなかなか変わらないですね。
砂金:小畑さんのように、COOのポジションで、実務をわかって会社を動かせるってすごいですよ。CEOはビジョンを語ってトップ営業すればいいけど、COOは会社として儲かり続ける体制を作らなければならない。顧客に対して継続的に価値を与え続ける体力を維持するのは、とても大事です。「目先の金じゃなく、ビジョンを売るんだ!」というタイプのスタートアップの経営者は、そういう部分が抜けがちですよね。
小畑:ベンチャーって、薄利多売でもたくさん売れば、自社の製品が世の中の津々浦々に広がるんじゃないかという幻想があるんですよ。しかし、実はB2Bの営業工数は商材が高いものも安いものもそれほど変わらない。前職でそれに気づいたので、今の会社でも5万円の製品しか見てくれないお客さんではなく、当面はコンバージョン率を0.1%上げたら500万円を払ってくれるような会社だけを狙うことにしました。
(次ページ、スタートアップのもう1つの課題「人材確保」は?)
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