SAP ERPをAWSに移行、2020年にはほぼすべての基幹システムがクラウドへ
旭硝子の“古い体質の情シス”が語る、AWS移行を決断した背景
2015年04月09日 06時00分更新
「われわれのような、ベンダーに頼りきりの“古いタイプの情報システム部門”には、クラウドは向いていないと思っていた」――。AGC旭硝子の情報システム担当者はそう語る。だが同社では、2015年以降に構築する「すべての」基幹システムの構築先として、Amazon Web Services(AWS)のクラウドを第一候補とする決断を下している。2020年までにはほぼすべての基幹システムの移行を果たす計画だ。
なぜオンプレミスではなくクラウドへ移行したのか、またどうしてAWSを選んだのか。4月7日にAWSで開催された説明会では、旭硝子がクラウド移行を決断した背景が赤裸々に語られた。
クラウドは「高い」「自社には向いていない」と思っていた
旭硝子は、建築用板ガラスや自動車ガラスなどを製造する世界最大級のガラスメーカーだ。ガラス以外にも、電子部材や化学素材の製造も手がける。日本を含むアジア、欧州、北米にグループ企業が展開するグローバルカンパニーであり、全世界の従業員は5万人を超える。
旭硝子の情報システムセンターでは、日本およびアジア地域の社内IT業務を担っている(欧州、北米は別組織)。同社ではガラス、化学、電子部材の各事業をカンパニー制で展開するが、情報システムセンターでは全カンパニーのビジネスITを支えている。
だが、同社 情報システムセンター グローバルIT企画グループの浅沼氏は、自らの組織を「古いタイプの情シス」だと語る。取り扱う業務システムのほとんどは、ERPやメールサーバーなど機能追加や変更の少ないシステムだ。さらに、アプリケーション開発は「外部発注のベンダーに頼りきり」が実情だという。
そのため浅沼氏は、本稿冒頭の発言のとおり、同社情シスにとっては「果たしてクラウド移行する価値があるのか、クラウドに向いていないのではないか」という印象を抱いていたと振り返る。
それでもクラウドに移行すべき理由はあった
転機となったのは、これまで利用してきたメインフレームがハードウェア更改の時期を迎えたことだ。このメインフレームでは、ある事業部門の販売系SAP ERPが稼働していた。クラウド移行も検討されたが、SIベンダーが口を揃えて「かえってコストが高くなる」と説明したこともあって、2014年3月、いったんはオンプレミスのオープン系システムに移行するというプランに落ち着いた。
しかし、オンプレミスへの移行では得られない、クラウド移行ならではのメリットがあるのも事実だった。浅沼氏は「BCP対策」「戦略的な更改計画」「海外グループ企業も含むITガバナンス」の3つを挙げ、「当社なりの『クラウドに行くべき理由』があった」と説明する。
東日本大震災の発生以後、旭硝子でも全社的にBCP対策を実施していく方針になっていた。「しかし、具体的に『(IT BCP対策を)いくらかけてやるの?』と聞くと、皆黙ってしまう」(浅沼氏)。自社でDRデータセンターまで持つのは、予算的に難しかった。さらに、代替手段としてのテープバックアップも、迅速な復旧はできず、事業継続対策として不十分さを感じていた。
5年ごとにやってくるハードウェア更改の作業も、それ自体が社内の業務改革につながるわけではなく、情報システムセンターの限られた人的リソースの中では重荷になっていた。
「コストが下がるのであれば、古いタイプの情シスでも、基幹システムをクラウド移行すべき理由はある」(浅沼氏)。「ここでクラウドに移行しなければ、次は5年後、2020年のハードウェア更新まで待たなければならない」(三堀氏)。そう判断し、同社情報システムセンターではコスト試算に取りかかった。
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