デジタルは、音を“ある枠”に閉じ込めてしまう
じゃあ何でそうなるのか。その理由を考えてみた結果、CDは音を“ある枠”の中に閉じ込めている点がいけないんじゃないかという結論が出ました。
この枠というのが、サンプリング周波数や量子化ビットといった数字です。デジタルで録音をする場合には、必ずこの枠を規定しないといけません。アナログの時代はこうした枠を意識することはなく、ただ録ればいいという世界だったんですが、そうはいかない。
1970年代の音響技術の研究で、人間の耳というのは高域で言えば20kHz(2万ヘルツ)程度までしか聞こえないという成果が出た。だからその範囲の音だけを拾ってデジタル化してしまおうというのがCDです。CDの高域は20kHz、正確に言うと1割のマージンをとって22kHzまでなんですけど、いずれにせよそこでスパッと切れています。強弱に関しては16bit、つまり96dBのダイナミックレンジの枠に収めています。
でも実際にやってみると「なんかこの枠がいけないんじゃないかな」と思えてくるんですよ。であればこの枠を取り去って、自然界と同じように(耳で聴こえないような)高域もあるし、低域もある。ダイナミックレンジもより広く収録した音を作る必要があるんじゃないかという考え方が生まれ、1988年ごろから各社が研究を初めたんです。
僕もその頃、ソニーや東芝で「先生、今度の音スゴくいいですよ、CDより遙かにいい」とサンプルを聴かされたことがあります。それが何だったかというと、CD(44.1kHz)の2倍、88.2kHzで録音した音だったんです。1989~90年ごろの話です。
ちょうどソニーからも20bit Super Bit Mappingという、録音環境を16bitから20bitに上げたCDが出た時期でした。要するに、最初からCDのフォーマットに合わせて録音するんじゃなくて、まずはより広い枠で音を収録しておき、最後の最後でCDの枠に収めるようにすると、結構いい音がするってことなんですね。こうした実験を重ねてみた結果、20kHzでスパッと切れちゃうのは問題だし、ダイナミックレンジももっとあげないといけないという結論になった。
そして、横方向にサンプリングレート、縦方向にダイナミックレンジを置いた四角を考えて、この四角をいかに広げるかを考えれば、より生の音に近付けるはずだという研究目標が1990年代に出てきたんですね。
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