アニソン含め、ボーカル曲との相性は特に秀逸
ソースをPCに変え、今度はボーカル曲を中心に聴いてみることにする。「NA-11S1 / SA-14S1 / SA8005 / NA8005/ PM7005 共通 USB-DACドライバー」を導入し、Foobar 2000で再生する。
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Say It Isn't So |
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残響のテロル オリジナル・サウンドトラック |
ソースはClaire Martinの「Say It isn't So」から表題曲のトラック10(192kHz/24bitのFLAC)。菅野よう子の「残響のテロル オリジナル・サウンドトラック」からトラック6「hanna (feat. Hanna Berglind)」とトラック18「bless (feat. Arnor Dan)(High Resolution Version)」(ともに96kHz/24biのFLAC)を選んだ。
表現はひとことで言うと生々しい。音に妙な説得力がある。Say Isn't Soでは多少しわがれた男性ボーカルのニュアンスが克明に描かれている。曲はピアノ伴奏と声というシンプルな構成だが、弱音と強音の対比だったり、ため息を含んだような渋みのある声の表情といった要素が恐ろしいほどリアルに迫ってくる感覚だ。
blessでは冒頭に川のせせらぎや鳥の声のような環境音が流れ、その上でファラセットで歌ったような幻想的な歌声が響くが、そのすべてが調和して、再生機ではなくその環境に放り込まれたような感覚で音の世界に浸れる。hannaは少したどたどしく幼さを感じさせる子供の滑舌、そしてリバーブ感が印象的。
全体を通じて感じるのはさまざまな楽器、あるいは人の声がバラバラになるのではなく一体となって聴こえること。現実世界の音はリジッドであると同時にやわらかい。滑らかでも聴き入れば豊かなディティールに満ちている。HD-DAC1の音はオーディオ機器というよりは、そんな現実の音に近い自然さを持っている。そして特に人の声では、リアルさや真実味ということでその点を強く意識できる。
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夏色えがおで1、2、Jump!(DVD付) |
もうひとつはどのようなソースでも個々の音を分離させながら、破綻を一切感じさせずにまとめるという点だ。アニソンやJ-POPなどの楽曲では歌い手が複数いたり、バックも元気よく演奏しており、機器によってはガシャガシャとまとまりのないサウンドになってしまいがちだが、そういうこととも無縁。たとえばμ'sの「Snow halation」や「夏色えがおで1、2、Jump!」といった曲も聴いたが、まず9人のボーカル一人ひとりの声が区別できる、しかもバックも含めバラバラではなく一体となって聴こえる。
アニソンをここまで魅力的に聴かせるHi-Fi機器というのはあまり思いつかない。
使用機器:ヘッドフォン「SHURE SRH1540」「SENNHEISER HD700」、プレーヤー「Marantz SA-7S1」「Marantz CD23」ほか
スペックではなく、音を実感して判断してほしい製品
冒頭で触れたように、据え置き型でUSB DACを内蔵したヘッドフォンアンプは、AV機器の中でもいまホットなカテゴリーだ。単純なスペックの比較ではHD-DAC1は競合に対してそれほど際立った特徴を持っていない。同価格帯には、パイオニアの「U-05」(関連記事)があり、これが一番の競合となりそうだ。ヘッドフォンのバランス駆動や豊富な音質調整機能など多機能な製品だ。近いサイズ感で、DSD再生に対応したヘッドフォンアンプ内蔵USB DACが欲しいというのなら、ソニーの「UDA-1」(関連記事)といった機種も存在する。UDA-1は単体でスピーカードライブもでき、価格も半額程度だ。
ではHD-DAC1のどこに価値を見出すのかというと、そこはやはり「音のよさ」ということになる。マランツとして初めて本格的に取り組んだヘッドフォンアンプであり、発表時点からその音には期待していたが、実際に聴いた結果として「HD-DAC1にしかない音の世界が実現できた」と断言できる。
この音のよさを感じられるのなら、ほかの製品では得られない幸せな音楽体験が得られるのは言うまでもない。そしてその魅力は、スピーカーあるいはヘッドフォンの音を聴いているというよりは、音がそこにある(実在する)という感覚を味わえる自然さ、リアルさにある。レビュー用に分析的に聴くつもりで臨んだ筆者が、知らず知らずのうちに音楽に聴きほれ、その空間に浸ってしまう。そして気付くと笑みがこぼれる。そんな魅力をHD-DAC1は提供するのだ。