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なれ合いを危惧する国内MBA学生の他流試合

2014年07月26日 16時00分更新

文● 寺林 暖(Dan Terabayashi)/アスキークラウド編集部

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 今年7月20日、慶應義塾大学日吉キャンパスにて「JBCC(国内ビジネススクールケース・コンペティション)2014」の本戦が開催された。JBCCとは、国内MBA学生たちが、実在の企業再生案件をもとにしたケーススタディーについて解決策の戦略を提言し、その優劣を競うチーム対抗型の大会だ。

 2010年に初開催して以降、回を重ねて5年目にあたる今年は過去最多となる21校の国内ビジネススクールが参加し、151チーム、560名がエントリー。うち6校(グロービス経営大学院、一橋大学大学院、慶應義塾大学大学院、早稲田大学大学院、名古屋商科大学大学院、立教大学大学院)の9チームが資料審査による予選を通過し、本戦で熱いプレゼンを披露した。

JBCC2014

JBCC2014のひとコマ。優勝したグロービス経営大学院の假谷チームのプレゼン。

 JBCCの実行委員会は国内ビジネススクールの有志で構成。実行委員会がJBCC実施の背景として挙げるのは、一つのビジネススクールに通い続けることの限界だ。

「半年間や1年間同じビジネススクールで勉強していると、クラスメイトの癖が見えてきてしまう。クラスで何かプレゼンする際に、『彼はこのように突っ込んでくるだろうから、このあたりを押さえて発表すればいいだろう』と考えてしまって新しい発想がなくなる可能性があります。また、ビジネススクール内では知らず知らずのうちに皆同じような切り口で分析してしまっていて、これが普通と思っていたら他のビジネススクールは違っていた、なんてこともあります。マンネリ化を防いで、社会に出た際に通用するような実戦力を身に付けるために他大学と一緒に何かできないか、また、国内MBA課程における教室外での学びの機会をもっと増やしたいという考えが実行委員会としてありました」

 MBAと言うと新規事業を立ち上げるイメージもあるが、新規事業をテーマにしたコンペティションは他でも開催されていたことから、JBCCでは初開催当時から企業再生をテーマとして扱っている。

 今年のお題は、架空の中堅学習塾の再建。本拠地の九州から本州へと規模を拡大したものの、成熟市場の中で業界は飽和状態。大手学習塾との競争は激化する一方だが、知名度も合格実績も低いまま。業績は年々悪化し、5期連続最終赤字。巨額負債の償還期限も間近に迫る中、経営企画室長が創業社長に向けてリファイナンスに向けた今後の事業戦略と事業計画を提示する、というストーリーだ。

 JBCCの評価項目は論理的な一貫性や網羅性、そして実現可能性などだ。本戦のプレゼンではどの出場チームも市場環境や財務状況等から現状を的確に分析し、解決すべき課題を設定。財務面も人事面も考慮した事業再編策を提案するなど、「隙のない」プレゼンが印象的だった。

 優勝したのはグロービス経営大学院の假谷チーム。同チームでは、学習塾の規模拡大の裏で、講師のアルバイト比率増大による指導力低下、合格実績の低迷、各教室の稼働率低下、収益性低下という負のスパイラルが起きていると分析。不採算教室を閉鎖して指導力のある正社員講師を再配置し、対象を小中学生に絞りコースを新設して合格実績を上げ、さらに共働き世帯向けサービスの提供で信頼感を高める新戦略を提示。組織再編やカンパニーロゴの刷新、財務計画も交えた、よどみない、力あるプレゼンを展開した。

JBCC2014

JBCC2014表彰式の様子。優勝はグロービス経営大学院 假谷チーム、準優勝は一橋大学大学院の案浦チーム。協賛のハーバード・ビジネス・レビュー賞は早稲田大学大学院の尾上チーム、シーバスリーガル18年イノベーション賞はグロービス経営大学院 柿沼チームがそれぞれ受賞した。

 過去最多の参加となり本戦でも大きな盛り上がりを見せたJBCCだが、課題もあるようだ。今年で5年目になるものの、参加者全体の底上げができてないのでは、という関係者の指摘だ。

「参加者の提出資料を見ると、理論上、マーケティング戦略はこうなるといった、似かよった打ち手が多くなっている。成績が優秀な人の答案になっていて、『自分が社長になったら本当にできるのか?』といった、本気で考えていたら出てくる打ち手が少ない。(ビジネススクールが世間に広まって)コモディティー化しているなら逆に、レベルは上がってくると思うんですよ」(関係者談)

 今後のJBCCについて委員会側としては、将来の展望として外国人MBA学生の参加、国内MBA学生以外の立場の人の参加という2つの方向性もあり得るという。

「言葉の問題はありますが、海外の学生も参加すればグローバルな発想になりますし、公認会計士や弁護士もコンペに参加すると、特に企業再生というテーマでは全然違った切り口が出てくると思います。公認会計士や弁護士から見れば増資や契約関係の話も違った見方が出てきて、広がりが出るのではないかと」


※記事中に一部誤表記があり、当該箇所を訂正いたしました。(2014年7月26日)

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