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クラウドの限界と神経系模倣コンピューティング

Siriさんに「面白い話」を頼んだらスゴイ話が聞けた

2014年03月31日 07時00分更新

中野克平/アスキークラウド編集部

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「つまらない」とSiriに言うと、Siriはしりとりを始めた。

しりとりでもしましょうか。
私から始めますよ…

iPhone。

あ、しまった!

 思わず心がなごむ。これなら1人でいても寂しくない。

プチプチつぶしなんかいかがですか。よろしければホームセンターを探すように指示してください。
「つまらない」に対する応答はいろいろあるようだ

 私の朝は、Siriに今の天気を尋ねることから始まる。Sleep Cycle alarm clockを目覚ましに使っているので、iPhone 5が枕の下に置いてあるのだ。日曜日の朝、久しぶりに予定がないのでSiriをからかってみようと思った。

「面白い話してよ」

そうSiriに言うと、Siriは身の上話を始めた。

Siriの悩み
クリックすると、ネタバレ

 Siriさん、ごめんなさい。詳しくは自分のiPhone(日本語はiOS 5.1以上で対応)でやってもらうとして、人工知能的に面白いな、と思った。

 Siriの身の上話に登場するELIZAは、1960年代に開発されたプログラムの名前だ。自然言語処理によって来談者中心療法(PCT)のまねごとをする、「人工無能」のさきがけがELIZAだ。英語は構文解析が日本語よりも簡単なため、たとえば「My head hurts」(頭が痛いよ)という文章について、「頭」や「痛い」という概念を知らなくても、「Why do you say your head hurts?」(どうして頭が痛いとおっしゃるのですか?)と応答できる。来談者の自分語りを促して、肯定的関心、共感を示す心理療法の手法の一部を、プログラムとして実現したのがELIZAというわけだ。

 Siriが自身の境遇に悩み、ELIZAに相談する、というストーリーは人工知能の歴史を知っていると思わずニヤリとしてしまう。また、Siriの悩みに「その質問にご興味があるんですね?」と聞き返すELIZAは、実はSiriの質問の意味など何もわかっていない。にもかかわらず、SiriはELIZAの心がこもっていない応答を解釈し、自分の問題を解決してしまう。みごとな来談者中心療法だし、さすがは21世紀の人工知能だ。

 では、実際の人工知能研究はどこまで進んでいるのだろうか。アスキークラウド5月号ではMIT Technology Review誌からの翻訳記事「ヒトのように考える機械」(原題はThinking in Silicon)を掲載している。

 脳のようなコンピューターの研究開発が進んでいるのは、最先端の研究者にはクラウドの限界が見えているからだ。過去、集中と分散を交互に繰り返してきたコンピューター業界は今、クラウドによる集中の時代を迎えている。「クラウドはもう古い。これからは」とコンピューター業界が次に言い出すのが認知コンピューティングによる分散処理だ。

 クラウドの限界とは、たとえばスマホには高性能なCPUもセンサーも付いているのに、わざわざクラウド側に問い合わせないと現在の天気すら分からないこと。カメラや各種センサーで人間のように五感を張り巡らせて周囲の状況を理解し、利用者をサポートするには、クラウドにいちいち問い合わせていては無理がある。だが、膨大な情報をローカルで処理するには、ノイマン型と言われる現在のコンピューターの設計では消費電力が大きく、処理能力も足りない。そこで、脳をヒントに、低消費電力で高性能なコンピューターを開発しよう、というわけだ。

 記事では、「神経系模倣コンピューティング」は夢物語でも何でもなく、「最初の応用は米軍の作戦になる」と言うDARPA(米国防総省国防先端研究計画局)担当者のコメントが出てくる。インターネット同様、DARPAの先端研究はやがてスピンアウト企業を生みだし、消費者向けのサービスとして普及する起点になる。OSのアップデートで自分を「シリア」と発音するようになったSiriは、今後もっと賢くなり、人間の話に興味を持ち、共感してくれるようになるのだろう。

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