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パーソナライズを捨てたスマートニュースの「秘策」

2014年01月27日 07時05分更新

伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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 現在、急激にユーザー数を増やしているスマートフォン(スマホ)アプリがある。ニュース収集・閲覧アプリの「スマートニュース」だ。専用コンテンツチャンネルの購読者総数は昨年末時点で300万人。大ヒットの陰には、ウェブサービスでよく見られるユーザー一人一人へのサービス最適化(パーソナライズ)をやめる、という方針転換があった。パーソナライズに取って代わる「秘策」とは何か――。スマートニュースの執行役員 事業開発担当 藤村厚夫氏に話を聞いた。

スマートニュース株式会社 執行役員 事業開発担当 藤村厚夫氏。

――ニュースサービスを始めた理由は?

 今は、いいコンテンツが見つけにくくなっている時代です。網羅したほうがいいコンテンツ自体は日に日に増えているのですが、人間が消費できるコンテンツには限りがある。限られた時間の中で、できるだけいいコンテンツを見たいニーズが高まると同時に、見つけにくさから生じるフラストレーションも高まっている。利用者にコンテンツの橋渡しをする役割が重要で、われわれはその役割をニュースという市場に当てはめました。ニュース以外の分野も同様だと思います。

――利用者のコンテンツの見方は変わってきているのでしょうか。

 変わってきていますね。ウェブサイトがアクティブな利用者に占められていた時代もあったと思います。そのようなアクティブな人にとっては、答えを利用者自ら探せる検索エンジンはとても便利。でも、テレビやラジオのように流しっ放しにして、ときどき身を乗り出して見たり聴いたりするコンテンツの消費の仕方もありですし、スマートフォン(スマホ)のような小さなデバイスになると検索キーワードを打ち込んで探す作業そのものが面倒になってくる。なるべく何もせずに、いろいろな情報を好みや気分で選ぶ時代に入ってきていると感じています。

 また、スマホが普及したことで、すきま時間の有効活用が容易になりました。限られた時間の中でも情報を消費できる最適なものが求められている。例えば、スマートニュースであれば、地下鉄の長いエスカレーターに乗っている間の時間でニュースをいくつかチェックできます。見出しだけなら全部見れるかもしれない。パソコンしかなかった時代にはなかった、新しい市場が生まれていることには間違いないです。

――スマートニュースはどのようないきさつから生まれたのでしょうか。

 実は、スマートニュースの前身に当たるウェブサービスがありました。ツイッターのリアルタイム解析にソーシャルグラフを重ね合わせて、フォローしたユーザーのリンクをもとに、興味に合わせたコンテンツを届けるニュースリーダー「クロウズネスト」です。パーソナライズで利用者に最適なコンテンツが届くことに価値があるのではないかという仮説を立てて2011年から提供していましたが、ユーザー規模がある所からまったく増えない。失敗だったと見ています。

 多くの人は別のものを望んでいる——そう視点を変えて、スマートニュースは、パーソナライズを非常に薄めたアルゴリズムで作りました。ソーシャルグラフの読み込みをやめて、ツイッター上で話題になっている面白いコンテンツのリンクを集めて、ツイートの数や、一定時間の中でどれだけ増えたかなど、コンテンツへの関心度合いを評価し、たくさんの人たちが面白いと言っているコンテンツを整理して見せる、というところにプロジェクトの軸を置きました。2012年12月にiPhone版を、2013年3月にAndroid版をリリースしました。

――パーソナライズの要素を薄めて何が見えたか?

 利用者は仲間内で広まっている話題にだけ関心を引っ張られるのではなく、それ以上に、広い世界で「面白い」「興味深い」「感動する」と言われているコンテンツに率直に関心を持っているという事実です。スマートニュースはサービス立ち上げ数日で前サービスの利用者数を超え、現在のチャンネルプラス(ユーザーが追加できるコンテンツのチャンネル)の購読者総数も300万人を越えました。

スマートニュースのアプリ画面。タブごとにカテゴリー別の記事見出しが並ぶ

 実際にスマートニュースを使っている人の様子を見たり、ログデータを分析すると、ニュースの中身を読むよりも、ページをめくって各カテゴリーを行ったり来たりして見出し一覧を眺めている時間が多い。ニュースを探すプロセスを楽しんでいるように思いました。

 コンテンツは中身だけではなく、見出しや割り付けから得られる印象を含めた商品。新聞も、一面から最後の面まで全部順番に読むのではなく、バラバラとめくって気になった見出しの記事を読む、という読み方ではないでしょうか。スマートニュースも、各カテゴリーを行ったり来たりして、気になった記事は読むことができるし、逆に「読まない」選択肢も含めることで、利用者に思いがけないニュースとの出合い=セレンディピティーを生み出している。人気の一つの理由だと思います。

 ニュースの見出しをめくる中から、利用者にとって興味のあるニュースを発見するという環境は開発当初から考えていました。利用者は偶然見つけたと思っているかも知れないが、本当は我々が並べている、という自負もあります。

 ですが、RSSリーダーのように機械的に時系列でたくさんニュースが並ぶと、セレンディピティーよりも幻滅の方が大きくなってしまいます。大量のニュースが並ぶのは最初は楽しいけれど、だんだん読むのが負担になってきて最後には飽きてしまう。RSSリーダーが使われなくなった経緯を非常に意識していて、大量にコンテンツを提供することに恐れを持っています。スマートニュースで各カテゴリーに表示するニュースの数を絞ったり、無限スクロールのように過去のニュースをさかのぼれないようにしているのはそうした理由からです。

――今後の展開は。

 ニュースは飽きられにくい分野。スマホのユーザーが各世代で増えてくるので、将来の可能性も大きい。問題は、規模を大きくできるポテンシャルがどこまであるか。我々の場合、海外進出を考えています。メディアやコンテンツは国境を越えるのが難しいとも言われますが、「ツイッター上で話題のコンテンツを見つけ出して届ける」プロセス自体は言語依存しないのでグローバルな対応が可能です。いつからどこでとはまだ話せる段階にありませんが、なるべく早く始めたいと考えています。




 クラウドコンピューティングが普及しつつある現在、サーバー側の処理性能を活かして「一度使い始めたらはまって使い続けてしまう粘着性(スティッキネス)」をいかに生み出すかはウェブサービスにしろ、アプリにしろ思案のしどころだ。

 フェイスブックであれば、友だちの投稿が自分のタイムラインに表示されていき、自分の投稿に対して友だちのコメントがつくなど、使えば使うほどソーシャルなつながりが深まって離れられなくなるパーソナライズ的な手法でスティッキネスを高めた。一方で、スマートニュースは、ページめくりから生じる思いがけない面白い話題との出合い=セレンディピティーの提供によりスティッキネスを高め、急成長を遂げた。

 今後主流になるのはパーソナライズか?セレンディピティーか? スマートニュースをはじめ、弁当宅配の「ごちクル」、印刷通販の「ラクスル」といった急成長サービスのビジネスモデルの共通項とは何か? クラウド時代のビジネスの成功法則はアスキークラウド2014年3月号(1月24日発売)に掲載されている。


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