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ヘッドフォン端子や音量調整機能も装備

TADから384kHz対応のUSB DACなど2製品が登場

2013年08月31日 02時47分更新

文● ASCII.jp編集部

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 テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TADL)は29日、新製品のSACDプレーヤー「TAD-D1000」とD/Aコンバーター「TAD-DA1000」を発表した。ともにUSB DACの機能を持つ。対応するサンプリング周波数はPCMの場合で最大384kHz。DSDの場合で最大5.6MHz。ハイレゾ音源として、現在配信されている様々なフォーマットに幅広く対応できる点が特徴となる。

TAD-D1000

TAD-DA1000

 本体サイズは幅440×406×高さ150mmで、重量はD1000が18.5kg、DA1000が16.5kg。価格/発売時期はD1000が9月下旬で157万5000円。DA1000が10月上旬で126万円。

プリアンプ機能も搭載し、少ない機器でシステムが組める

TADL取締役社長の平野氏

 TADL取締役社長の平野 至洋氏は、29日に開催した説明会の冒頭で、「基本に忠実な技術こそ本物の技術であり、技術志向にならず最良の再生を目指すのが本物の技術だという思想に基づいて今も開発を続けている」とコメント。同社は法人化し、この10月に6年目を迎える。1975年に最高級のスピーカーを作るプロジェクトとして発足し、38年の歴史を積み重ねる中で、販売地域が35ヵ国に広がり、世界的にも高い評価を受けるようになったとした。

 TADブランドのプレーヤーとしては、、2010年にSACDプレーヤーのフラッグシップ機「TAD-D600」(価格262万5000円)以来の製品。新製品に関しては昨年はスピーカーの導入のみにとどまったが、エンジニアは粛々とエレクトロニクス製品の開発を進めてきたとする。

 TAD-D1000/DA1000は、ハイエンドオーディオ市場のコアとなる、製品単価100万円台前半のゾーンをターゲットにした。企画の背景には、TAD-D600に手が届かないユーザーへの現実的な回答を示すという点があったという。TAD-D600で培った技術を継承しつつ、全世界で市場が拡大しているPCオーディオや、DSDなど新しいフォーマットに対応していくことが開発のスタート地点になった。

TADが誇る最高級のシステムと組み合わせた試聴の機会も

 2製品は、物量投入を惜しまず最良を追求していくReferenceシリーズに対して、新しい技術や考え方を投入していくEvolutionシリーズというラインに属する。外観デザインも一新し、TAD商品としての統一性を維持しながら、TADの音を具現化するような革新的かつ先進的なデザインを目指したという。置いてあるだけで持つ喜びが感じられるような存在感があり、家計を握る奥様にも許容してもらえるようなデザインだと平野氏は言う。

 DA1000は上部にMacBookなどのPCも置けるデザイン。電子ボリュームを内蔵し、可変(バリアブル)のLINE出力を装備するので、プリアンプを介さず、パワーアンプ(やアンプ内蔵スピーカー)と直結したシンプルな構成でシステムを組める。また若年層を中心に高級ヘッドフォンの利用が活発になっている点を踏まえ、ヘッドフォンアンプも内蔵した。

TAD-D600の技術を応用

 TAD-D600では、C/N(搬送波対雑音比)マスタークロックUPCG(Ultra High Precision Crystal Generator)を独自開発し、デジタル音源をきわめて正確に再生できる点をうたっていた。水晶発振の部材変更に伴い、マスタークロックUPCGの回路は新規に起こす形となったが、基本的な部分は変わらないという。

SACDプレーヤーのD1000を背後から眺めた

メカの部分はハイエンドのTAD-D600を踏襲している

 また、TAD-D1000のディスクメカなどは、フロント部分などデザイン上の違いを除けば、最上位機種のTAD D600と同等。無垢板の8mm圧アルミシャーシを採用した低重心構造など、D600譲りの機構を多く備える。

 設計思想の面で同社が重視するのは。正確なD/A変換にはマスタークロックの精度ではなく純度(ジッターの少なさ)がもっとも大切だというの考え方だ。ハイエンドオーディオでは、ルビジウムなど精度の高いクロックを外付けし、高音質化を目指すユーザーもいる。クロックの精度が高まれば、より正確な周波数=音程が得られるという側面があるが、一方で高価で複雑な回路となり、音の純度が犠牲になる側面があると同社は主張する。

音の精度(=音程)と音の純度(=ジッター)の考え方

正確な周波数(周期)が得られても時間軸方向の揺らぎは出る

ジッターが発生し、時間軸方向のマス目が一定間隔にならないと、歪んだ波形になる

20万円クラスのプレーヤーに搭載されているクロックとの比較

UPCGで用いられている人工水晶は非常に巨大だ

D/Aコンバータ部分にもさまざまな物量投入が見られる

 音の純度とはジッターの少なさを意味する。ルビジウムなどを利用した高精度クロックは確かに高い精度を実現できるが、人間が実際に感じられる音程は高々±0.1%程度の周波数の差までで、一流の調律師でも0.2~0.3%程度の誤差を感じるのが限界だという。ルビジウムやセシウムを使ったクロックはこれをはるかに上回る精度を持つが、付加回路が必要となるため、ジッターとそれによって生じる位相ノイズが出力波形に及ぼす影響は質の高い水晶板を利用したシンプルな発振回路のほうが有利になる面があるという。

 今回のモデルでは、音程に関してはそれほど追究せず(といっても人間の限界の1000倍程度の水準を保ちつつ)、2×2mm程度で極々薄いサイズが一般的な水晶振動子よりも圧倒的に大きな直径約15mmで厚さ2mmの大型円形水晶をUPCGに使うなどして、ジッターの少ないクロックをつくり、音質の改善につなげている。

スペックではなく、実質をとった設計

 D/Aコンバーターは、バーブラウンのPCM1794Aを左右独立で使用している。PCM1794Aはスペック上24bit/最大192kHzまでの対応だが、これでDSDやハイサンプリングのPCM音源に対応するため、内部では入力した信号を敢えて24bit/88.2kHzのPCMにダウンコンバートした上で、D/A変換する仕組みをとっている。設計者によると、特にDSD再生では高域のノイズの悪影響をどう排除するかが問題で、これにはデジタルフィルターを使用するのが効果的だと考えたそうだ。結果として88.2kHzの信号に落とし、11.2896MHz(256fs)で再生するのが一番いいという結論になった。

 24bitあれば理論上は約144dBのダイナミックレンジが取れるが、実際の機器でこのレベルを出せるものは中々存在しないため、現実な音質に貢献という意味で選択している。サンプリング周波数も量子化ビット数も意味のあるスペックを追い求めたいとする。

 ハイレゾ音源の中には、44.1kHz(CD)の倍数となる88.2kHzや176.4kHzのサンプリング周波数だけではなく、48kHzの倍数となる96kHzや192kHzなどを使っているものも多いが、現状ではサンプリングレートコンバーターを使って、44.1kHz系の周波数に変換している。他社では両方の周波数に対応するため2種類のクロックを搭載する製品なども存在するが、UPCGは現状11.2896MHzのものしかないため、コストを考慮して現在の仕様を選んだという。

Mac用の再生ソフトとしては、Audirvanaなどがあるという

 なお、DSDの伝送にはDoP(DSD over PCM)方式を採用する。Macであれば最新OSの標準ドライバーで128fs DSD(5.6MHz)や384kHzのPCMに対応できるが、Windowsの場合は現状でドライバーが用意されておらず、それぞれ64fs DSD(2.8MHz)と192kHzまでの対応となる。Windows用のドライバーを別途提供するかどうかは現状で未定だという。

 試聴に関してはCDを中心としたデモが実施された。平野社長“技術志向にならず最良の再生を目指す”という言葉のとおり、実質のないスペック競争ではなく実を取った設計を目指しているという点が現れているのかもしれない。もちろんEVA CASSIDYのLive at Blues Alley、CHRIS JONESのROADHOUSES & AUTOMOBILESといった試聴会などでは定番とも言えるアルバムから選んだ音がすばらしかったのは言うまでもない。

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