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IDF 2012レポート

インテルが無線技術で狙う「Moore's Law Radio」とは?

2012年09月28日 12時00分更新

文● 塩田紳二

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Atomと無線LAN機能を統合したSoC
Rosepointを披露

 アナログ回路をどうすればデジタル化できるのか? インテルの研究陣は無線通信を、数学モデルとして捉えた。数式で表現できれば、これをデジタル化することは不可能ではないからだ。これを糸口としてインテルは、必要なデジタル回路を次々と開発していく。

 今までも半導体関連イベントで地道な発表が続けられていたが、IDF 2012ではほぼデジタル回路だけで作られた無線LANモジュールの試作品が披露された。アンテナの直後のみがアナログ回路で、それ以外は完全にデジタル化されている。インテルによればデジタル化することで、無線通信の回路も製造プロセス縮小のメリットを享受できるようになるという。最終的に送出する電力を作るところでは、必要なエネルギーを削減することはできないが、その直前までをデジタル化すると、プロセッサーなどのデジタルデバイスと同じく、半導体プロセスの微細化で消費電力を小さくできる。

 インテルはこうした実績を元に、Atomプロセッサーとデジタル無線LAN回路を集積した「Rosepoint」と呼ばれるチップを試作した。無線LAN回路はAtomプロセッサーよりも大きいが、ひとつのダイの上に両者が搭載されている。

無線LAN通信のデモに使われた試作チップ(写真中央)。大半をデジタル化した無線LAN回路が集積されている

Atomとデジタル無線回路を持つ無線LANを統合したRosepointと呼ばれる32nmプロセスSoCを試作。ダイ写真をみると、Atomコアよりも無線LAN部のほうが大きい

 ブロックダイアグラムなどを見るに、インテルは処理対象とするアナログ信号を、パルスの幅や頻度で表現する「PWM」「PDM」というデジタル信号を処理する技術で、ラジオを構成したようだ。通常、アナログ信号をデジタル回路で扱うとき、各瞬間のアナログ値を数値化した「PCM」信号を使うことが多い。しかしPDM/PWMも、表現方法が違うだけでアナログ信号をデジタル化した点では同じだ。

元々のアナログ回路(左)とインテルが試作したデジタル化無線回路(右)。緑色の部分がデジタル回路で、かなり部分がデジタル化されている。方式などを見ると、アナログ信号をパルスの幅やデューティー比(1または0である時間)で表現する「PDM」もしくは「PWM」で信号を表現し、これをフィルタ処理したり、変調するなどの技術が使われているようだ

インテルが開発したデジタル周波数シンセサイザは、製造プロセスを微細化することで消費電力を低減した。アナログ回路では電圧を処理することになるため、一定以上の電圧が必要となり、回路の消費電力を削減することは難しい

 PDM/PWMで信号を表現して、演算処理や特定の周波数成分だけを対象とするようなフィルタリング処理を行なう。例えば、パルス幅で信号を表現する場合、アナログ信号が急峻に立ち上がるところではパルスが「1」である期間が長くなり、ゆっくりと変化するところでは「1」の期間が短くなる。この信号をアナログ信号で増幅すると、「1」である期間の長いパルスの始まりが前にずれることになる。実際にどれだけずれるのかは計算で求めることができるが、インテルのデジタルラジオの基本は、こうしたパルスのエッジ部分を、計算によりずらす処理をする。インテルでは、これを「エッジプロセッシング」と呼んでいる。

インテルSoCの弱みを一気に覆す
無線部分のデジタル化

 IDF 2012で披露されたRosepointはあくまでもデモ機であり、実験用に作ったデバイスである。しかし忘れてはならないのは、インテルは2010年に独インフィニオン社から携帯電話用デバイス部門を買収しており、携帯電話の無線用デバイス(ベースバンドチップという)では、すでに大手企業になっていることだ。買収前のインフィニオンは出荷ベースのシェアで業界4位だった。ちなみに、この頃シェア上位だったテキサス・インスツルメンツ(TI)は、すでにベースバンドチップビジネスからの撤退を決めており、クアルコムやブロードコム、MediaTechといったファブレスメーカーのシェア拡大が最近のトレンドだ。

 Rosepointはプロトタイプであるが、無線LAN部分をほぼデジタル化した。回路的な規模はさらに大きくなるが、携帯電話の通信機能をデジタル化することも、原理的には不可能ではない。もちろん、インテル以外の携帯電話向け半導体メーカーも、こうした研究をしていないわけではない。だがインテルは、世界最大の半導体「製造」メーカーであり、マイクロプロセッサーのメーカーでもある。つまり、CPUやチップセットに、無線LANや携帯電話の機能までそのまま搭載したものを作れるメーカーである。それゆえ、無線などのアナログ回路を積極的にデジタル化する必要があるわけだ。

 AndroidやiOSのスマートフォン/タブレットがそうであるように、3G/4Gに無線LAN、BluetoothにNFCといったデジタル通信技術は、モバイルデバイスの必須要素だ。これまでARM系のデバイスでは、携帯電話向けプロセッサーなどでCPUと無線通信機能を統合した製品はあった。しかし大半はデジタル化可能なベースバンド部分のみの統合で、アナログ回路になる無線部はトランシーバーチップやパワーアンプなどが別部品となっていることが多い。

 これに対してx86系では、ベースバンド部分でさえ外付けであることが普通だっだ。しかし今回発表された技術が実用化されれば、インテルはデジタル回路としてプロセッサーに通信機能を組み込んで出荷できるようになる。しかもその製造には、インテルの得意なデジタル用のプロセス技術が使えるのである。

インテルはデジタル化した無線通信技術を「Moore's Law Radio」と称している

 IDF 2012で披露されたのは、単に「無線LANをデジタル化しました」というデモであったが、インテルという会社を考えると、これは「無線もデジタル化してCPUに統合できるようにしますよ」というメッセージであろう。IDF 2012の展示会場では、この技術のデモに「Moore's Law Radio」(ムーアの法則無線)という名前を付けていた。これからは、無線通信もムーアの法則に従って性能を拡大できる、あるいは「しますよ」というインテルの意思表示なのである。

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