日本企業は中国市場を理解していない
2004年に欧州のモバイルコンテンツプロバイダ「123 Multimedia(現Index Multimedia)」を買収、2005年には前述の中国の「WAM CHINA」を買収と、急速な成長を続けるインデックス。陳氏も着々と成果を上げて、あるとき社長にこう尋ねたという。
陳:中国で10億ほど儲けたので、当時の社長に冗談っぽく聞いたんですよ。ご褒美として100万円くらいくださいと(笑)。そうしたら社長はこう答えたわけです。「失敗してもお前を解雇しないかわりに、成功しても何もないよ」って。もう、100万円ちょうだいよっ!(笑) これではせっかく頑張っても頑張らなくても結果は変わらないじゃないかと思いましたね。凄く印象に残っています。
2005年、インデックスは日本の広告代理店大手である博報堂とアサツーディ・ケイが設立したデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の業務委託を受ける。北京にDACの現地法人を設立するのが目的だった。ここで中国で多くの支社を立ち上げている陳氏に白羽の矢が立った。
陳:2005年7月に、DACがインデックスに北京に会社を立ち上げる業務の委託をしたわけです。だからその当時は仕事が2つありました。午前中はインデックスの仕事を、午後はDACの仕事をやっていました。だからインデックスとDACの2つの名刺がありました。電話は1台でしたから、最後にはどちらの業務の電話なのか分からなくなりましたよ。
このころから陳氏の中国市場の見識や手腕を見込んで、日本の企業も相談をしに来るようになる。ある大手電機メーカーの話も印象深い思い出の1つだ。
陳:その当時は、もう1つ重要仕事がありました。大手電機メーカーの中国でのコンサルです。中国での携帯事業戦略と中国についてのセミナーをやっていたのですが、時給として計算したら200万円でした。
日本の企業は中国でみな失敗しているんですよね。一番最初に感じるのは、日本企業のやり方は中国のマーケットと合っていない。例えば製品でいうのなら、中国では文字入力は手書き入力が必須です。でも日本の製品は全然対応していない。日本は中国にデザインハウスを持っていないからわからないのでしょうね。
日本企業が失敗した理由は単純で、2つあります。日本で作っているものをそのままで中国に流しているだけだから。国民性が異なるのに、そんな簡単に成功できるわけじゃないですか。2つ目は、日本は完璧過ぎるんです。物凄くデバッグをやるんです。1年間で3、4機種しか携帯電話が出ないとかは、中国のメーカーでは考えられません。数が全然違う。日本は安定性では首位ですよ。ただ、中国のユーザーは外観がきれいとかそういうのが重要であって、そこまで機能を求めていないんですよね。
本当に、ここまで細かいのは世界中で日本人だけです。中国では使い物にならなかったらすぐに捨てて、ズバッと新しい物を買います。コールセンターに電話で文句を言う人はいない。それに日本の製品はいらない機能がいっぱいついているんですよ。全ての機能を使っている人は1割もいないですよ。普通、一番使うのはメールとか、音声ぐらいです。
インデックス入社後の陳氏の活躍は凄まじい。とくに中国での営業手腕は特筆すべきものだ。いったいどのような秘密があるのか、そのあたりも聞いてみよう。
陳:たとえば、いつも企業のキャリア組とご飯を食べていたからというのも大きいでしょうね。そこでわかったのは、とくにキャリア組の若い連中は、情報を欲しているんです。だからいつも日本も雑誌を持っていってあげた。ある時は経済の雑誌、あるときはコンピュータの雑誌とね。また日本で発売されている最新機種を持っていくんです。彼らはこれから経済はどうなるのか、中国はどうなるのか、次はどういう物が流行るのかということをいつも考えています。賄賂より自分が昇進したいわけです。だから良い情報を手に入れて、自分の業務に反映させれば給料が上がるから、中国では賄賂は終わったようなものです。ちゃんとした情報を教えてあげるほうが重要なんですよ。すると感謝されて、覚えてくれて、中枢と繋がりができるわけです。
インデックスに所属しながらDACの業務を請け負い、そしてコンサル業務もこなしていたある日、DAC社長の矢嶋弘毅氏から勧誘を受けることになる。
陳:矢嶋さんから「中国で業務を拡大したいのでやりませんか?」と誘われたんですよ。業種は違ったけれど期待されていたのは中国のことですからね。中国については自信はあります。ただ広告については分からないから勉強しながらやろうと思いました。
2005年の12月30日、5年間勤めたインデックスを辞め、DACに入社する。翌2006年1月、陳氏は北京現地法人COOに就き、中国での新たな一歩を踏み出すこととなる。
次回はなぜ百度を選んだのか、そしてそこで学んだことは何なのか、そのあたりの話を聞いていこう。
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