Antecというメーカー名がアキバに一気に定着した理由は、なんと言っても2005年に登場した「Performance one P180」が爆発的に売れたからだ。以後このシリーズは小刻みにリビジョンを上げ、2009年には「Performance one P183」というマイナーチェンジモデルが登場。また2007年には「P180」の構造を継承しつつ、ハイエンド志向にベクトルを振った「Performance one P190」が登場するなど、ラインナップを徐々に拡充している。
今回取り上げる「Performance one P280」(以下、P280)は、P18xシリーズの後継とAntecは説明しているが、正直なところまったく別モノととらえて間違いはない。最近のPCケースのトレンドをキャッチアップしつつ、P18xシリーズのよい部分を融合させた製品だ。
デュアルチャンバー設計を排した構造はアリ、それともナシ?
従来モデルであるP18x/P19xシリーズの特徴はなんといっても、PCケース下部に搭載する電源とマザーボード搭載部を間仕切りで区切るデュアルチャンバー設計だった。今回登場した後継機のP280は、この代名詞とも言えるデュアルチャンバーを排するという大きな賭けに出た。
デュアルチャンバーのアドバンテージは、発熱量の高い電源とマザーボードを別々の冷却ゾーンに分離することによりPCケースからの排熱を効率よくできるほかに、動作音の外部への漏れを抑制できるという点にある。とは言え、電源とマザーボードの間に間仕切りがあるのは最初に組む際には問題がないのだが、組んだあとはケーブルの取り回しがしにくく、いざ拡張しようとすると大変作業がし辛いというデメリットもあった。
メーカーによれば、P18x/P19xシリーズでは「底面に吸気するためのダクトが存在しなかったため、マザーボードエリアから発生した熱い空気を電源が吸わないように物理的にデュアルチャンバーにすることで防止」していたとしている。一方P280では「電源搭載エリアにダクトを備えているため、電源のファンを下向きにした状態で吸気と排気を行なえる構造になっており、電源を下向きにすることによりマザーボードから発生した熱い空気を吸気することがない」と判断したことを、デュアルチャンバーを止めた理由として述べている。
今年のComputex TaipeiでP280のプロトタイプを見たときには、正直なところP18x/19xシリーズの特徴がなくなったように感じたのだが、よくよく考えてみれば2005年の登場時から比べると、電源の動作効率が向上したほか、CPUも一部のハイエンドを除けばPrescottのような爆熱仕様のものはない。そのため拡張時の作業効率を落とすデュアルチャンバーをしてまでエアフローを厳密に考えなくともよくなっただけかも知れない。そう考えれば、今回の構造の大きな変更は時代に沿ったものなのだろう。過去にユーザーから支持されたからと拘泥するのではなく、スパッと変更したAntecの姿勢を評価したい。