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「みんビズ」にかけるGoogleの思惑

2011年10月26日 16時00分更新

文●小橋川誠己/Web Professional編集部

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 レンタルサーバー付きCMSが1年間無料。独自ドメインも無料です――。そんな魅力的な文言が並ぶサービスが、Web業界でちょっとした話題になっている。グーグルが9月に始めたみんなのビジネスオンライン(みんビズ)だ。

Googleが始めたキャンペーン「みんなのビジネスオンライン」

使い勝手のいい「Jimdo」をベースに提供

 みんビズは、グーグルが提供する中小企業向けのWebサイト作成サービス。パートナーとして参加するKDDIグループ(KDDIおよびKDDIウェブコミュニケーションズ)の「Jimdo/」に、業種別のテンプレートや独自ドメインを組み合わせたものだ。

 Jimdoは独ジンドゥが開発した”ホームページ作成サービス”で、2009年からKDDIウェブコミュニケーションズが国内で展開している。Jimdoにも広告表示やストレージ容量500MBなどの制限付き無料プランはあったが、みんビズでは広告非表示/容量5GBの上位プラン(年間1万1340円)を初年度に限り無料で提供する。

 Jimdoについてはサービス開始時の記事でも詳しく紹介しているが(関連記事)、ドラッグ&ドロップ操作でページを生成し、WYSIWIGでコンテンツを直感的に編集できるなど、使い勝手はよく、専門的な知識はほとんど必要ない。実際にJimdoでいくつかサイトを作ってみると、いわゆる「ホームページ作成ソフト」と比べてもそん色ない印象だ。

Jimdoの編集画面。簡単な操作で要素の位置や順番をドロップ&ドロップで入れ替えたり、ナビゲーションを変更したりでき、初心者にも分かりやすい

 加えて、みんビズでは業種別のテンプレートも提供されるから、誰でも15分でWebサイトが作れるという触れ込みはあながち嘘ではない。

グーグルのねらいはリスティング広告

 ここまでの話を聞くと、「なぜグーグルが?」という率直な疑問がわく。表向きは「日本の中小企業を元気にしたい」(グーグルの有馬 誠社長)と説明するが、グーグルの稼ぎ頭である「リスティング広告の売上を伸ばすためのプロモーションキャンペーン」と理解する方が自然だ。

 わずか数年で急成長を遂げてきたリスティング広告市場はここ最近、頭打ちになりつつあり、「いかにして新規の広告主を獲得するか」という課題は業界の共通認識になっている。グーグルはビジネス誌などの非IT系媒体に頻繁に(紙の)広告を出稿しているし、競合のヤフーも中小企業向けのセミナーを全国各地で開催したり、Google AdWordsに「リスティング広告」などのキーワードで出稿したりしているほどだ。

 だが、従来の取り組みでリーチできるのは、あくまでもWebサイトを開設している企業のみ。そこで、いまだWebサイトを持っていない中小企業を何としてもオンラインへ移行させ、広告を出稿してもらいたい、というのがグーグルのねらいだろう。

グローバルメニューに不自然に並ぶ「広告しよう」の文字。5000円分のお試しクーポンやフリーダイヤルの問い合わせ窓口も用意しており、グーグルは本気だ

みんビズはWeb制作会社の脅威になるか

 グーグルはみんビズの展開にあたって、独立行政法人中小企業基盤整備機構やITコーディネータ協会と組んでプロモーションしていくという。すでに商工会議所などでのセミナーも始まっており、中小企業をクライアントに抱えるWeb制作会社は思わぬライバルの出現に内心穏やかではないかもしれない。

 だが、みんビズで提供されるのは、とりあえずのサイトを作るところまで。結局のところ、グーグルはどのようなコンテンツを作り、どのようにWebサイトを運営したらよいかまでは教えてくれない。「簡単」「無料」といってもコンテンツを考える時間や手間は必要なわけで、まったくの予備知識無しに成果が上がるサイトを作って運営していくのは難しい。

 実はみんビズと似たようなサービスを、数年前、マイクロソフトも提供していた。「Office Live Small Business」というサービスで、Webサイト作成機能とオンラインストレージ、ドメインを無料で提供していたが、現在では新規募集を停止している。このときは、「ここに住所が入ります」のような作りかけのWebサイトが大量に作成され、そのまま放置されてしまった。

 地方にはもともと、普段からWebの使い方やサイトの運営方法についてきめ細かく指導したり、相談に乗ったりしているWeb制作会社も少なくない。みんビズの登場によって、Web制作会社にはますます「制作会社以上」の役割が求められそうだ。

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