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大震災以降のITの災害対策を考える 第2回

バックアップやデータ復元の方法を理解しよう

事業継続の要「業務データ」を地震や津波から守るには

2011年07月21日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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バックアップシステムの構成

 データ保護のためにバックアップを行なうには、コンピュータシステムに、

  1. バックアップソフト
  2. バックアップ装置
  3. バックアップメディア(媒体)

 が必要である。このうち、バックアップ装置はバックアップ媒体により決まるので、重要な要素はバックアップソフトとバックアップ媒体となる。

バックアップソフト

 バックアップソフトは、コンピュータのHDDからバックアップ媒体へデータを退避(バックアップ)し、必要な時に復旧(リストア)する機能を提供するソフトウェアである。また、それに付随する機能として、バックアップ対象となるデータの管理、バックアップ先のメディアの管理、バックアップ処理のスケジューリングや処理結果の通知などの運用管理に必要な機能も提供する。

Windows 7に付属するバックアップツール。個人用とならOS付属のツールで構わないが、企業の災害対策として使うのであれば、きちんとした製品が必要となる。

 バックアップソフトは、複数のベンダーから多種多様な製品が提供されている。企業の規模や業態に応じて、適切なバックアップソフトを選択することが、事業継続のために重要である。企業のデータは日々増加しており、大企業ではデータセンターのみならず、部門・支店・営業所などにも重要なデータが分散して存在する。それらをすべて適切にバックアップ/リストアできる体制を整備しなければ、事業継続性が低下する。

 災害対策の観点から、バックアップソフトに必要な機能をいくつか述べておこう。

 まず、「元のサーバーへリカバリするだけでなく、別のサーバーにもデータを戻せること」である。今回の地震の例でいえば、津波により甚大な被害をこうむった沿海部の営業所のサーバーのデータを内陸部の営業所や支店のサーバーに移行し、業務を代替するということが行なわれた。一般に、データの復旧はバックアップしたサーバーに対して行なう。しかし、異なる拠点のサーバーにリカバリする場合は、サーバーの機種やハードウェア構成が異なることが多い。そういった場合でもスムーズにデータのリカバリが可能なソフトが望ましい。

 次に、前述した通り、「遠隔地にあるバックアップ装置へ複写する」機能が必要である。従来は磁気テープなどの可搬型のバックアップ媒体を、遠隔地の保管倉庫に定期輸送することが行なわれてきた。しかし、災害時には被災地周辺には交通規制が課され、媒体を倉庫から取り寄せるのに時間がかかることがある。そこで、バックアップ媒体を輸送するのではなく、ネットワークを経由して遠隔地にある媒体へバックアップする機能が有用である。詳しくは後述するが、遠隔地にある媒体として別のサーバー(バックアップサーバー)を利用すれば、被災したサーバーの機能を瞬時に代替することが可能になる。

 また、福島第一原発事故の周辺で緊急避難命令が出された地域では、空き巣の被害が多発した。個人情報などの機密情報を含むバックアップデータを狙う犯罪も、皆無ではない。磁気テープなど容易に持ち出せる媒体へバックアップする際には、暗号化が必須である。

バックアップメディア

 バックアップ用の記憶媒体(バックアップメディア)には、DATやLTOなどの磁気テープ類、DVD-Rなどの光学ディスク類などがある。バックアップするデータが大量になるほど、コストパフォーマンスや読み書き速度の点で磁気テープが優位にある。最近では、HDDの低価格化が進んだため、HDDやストレージ装置をバックアップ媒体にする事例が増えている。これらの媒体の優劣をまとめたのが表1である。

表1 バックアップメディアの比較

 どのメディアにも、バックアップ媒体としては一長一短がある。まず、バックアップ装置をバックアップ対象となるコンピュータシステムと同一の拠点内に設置してバックアップする場合(ローカルバックアップ)を考えてみよう。リカバリ時の作業効率や早期復旧を重視すると、ランダムアクセスが可能で、連続データの読み出しも高速なHDDやストレージ装置が優位にとなる。

 しかし、災害対策の観点では、容量あたりの単価が安く、可搬性があり保管場所も比較的小さくて済む磁気テープが優勢である。地震や火事が発生してコンピュータシステムが損傷するような事態が生じると、HDDやストレージ装置も同様に損傷する可能性がある。一方、磁気テープなどの可搬型媒体であれば、別の建屋や遠隔地の保管倉庫に送っておけば、無事で済む可能性が高い。

 一方、事業継続性の観点では、「業務再開までの時間短縮」がもっとも重要な目標となる。上に述べた、RTOとRTOを可能な限り短くする、ということ考え方でもある。このため、特に激甚災害に際しては、「復旧よりも代替」という対策が採られる。被災地で稼動していたサーバーを元に戻すよりも、被災地の外部の安全な拠点にあるサーバーで、被災地の業務を引き継ぐという考え方である。

 このため、バックアップ装置をバックアップ対象となるコンピュータシステムから遠く離れた拠点に設置してバックアップする「リモートバックアップ」が注目されるようになった。リモートバックアップのバックアップ媒体には、ストレージ装置、またはサーバーシステムそのもの(バックアップサーバー)を使用する。サーバーを媒体にした場合は、クライアント側の設定を変更してバックアップサーバーに接続するだけで、瞬時にサーバーの機能を代替することが可能である。これらの手法については、次に詳しく説明しよう。

データ復旧サービス・保管サービス

 基幹業務システムやデータベースなど、更新間隔が短くデータ量も多いシステムのバックアップには、これまで述べたように大がかりなバックアップシステムが必要だ。しかし、電子ファイリングシステムやグループウェアなどに蓄積された非定型文書であれば、もっと手軽なデータ保護の方法がある。それが「データ復旧サービス」と呼ばれるサービスだ。

 データ復旧サービスは、「セキュリティを高めたオンラインストレージ・サービス」と考えればよい。事業者によっては、世界規模のクラウド基盤を活用して、東日本大震災クラスの激甚災害が生じても機能が維持されるオンラインストレージを構築している。ユーザーは、事業者が提供するソフトウェアを使って、定期的にPCやファイルサーバーの特定フォルダの中身を、インターネットを経由してオンラインストレージへ複写する。万が一、災害などでユーザーのPCやサーバーが破壊され手元のデータを失った時には、オンラインストレージからデータを取り出して復旧できる。

 データ復旧サービスとはちょっと違うが、富士ゼロックスの「バイタル・レコード・マネジメント」というデータ保管サービスも注目を集めている。業務継続のため絶対に失ってはならない契約書や許認可証などの紙の書類の原本を堅牢な書庫に預かるとともに、それをスキャンして電子データ化したものをユーザーの所有する文書管理システムへ落とし込むというサービスだ。最近ではクラウドを活用して、より柔軟に電子データを提供するように進化している。

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