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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第17回

成功の鍵は「ガイナックスの利益」を考えることだった

車のCMではなく、本気のアニメを――スバルの挑戦【後編】

2011年06月04日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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リターンは、長期的な視点で考える


―― 「プレアデス」では、商品の車は出さず、スバルらしさは暗示に留めた、それは作品自体をお客さまに楽しんで欲しいから、ということでしたからね。アニメを通じて、お客さまに届けたかったことは何でしょうか。

鈴木 ネットのお客さまには、もともとスバルが好きな方も、これまでスバルに触れてなかった方々もいらっしゃると思うんです。ですから弊社の製品がどうこう言うより、アニメを見て作品そのものに共感していただけた方に、スバルという会社のことを知っていただければというところを目指しました。

 車もアニメも、「お客さまのためにどれだけいいものを提供できるか」というのを考えて世の中に送り出しているという点で同じかなと思うんですね。すべてはお客さま視点だということだと思います。われわれが車を買ってくださいと言ったって売れないし、お客さまが買いたくなるということが大事なので。


―― 「お客さま視点」ということを考えるようになったきっかけはありますか。

鈴木 僕はウェブ広告の担当になったのが2007年頭だったんですけど、その前はセールスをやっていました。ショールームでお客さまに車を販売させていただいていたんです。その頃によく考えていたのは、「今、買ってもらう」というセールスが必ずしもお客さまにとって良いのか、信用を得られるのかということでした。


―― 「今買ってもらえる」のではいけない?

鈴木 いけないということはないんです。でも、お客さまとお話させていただくと、「購入にベストな時期」というのが人それぞれにあるなと思ったんです。この方は、もう少しお子さんが大きくなってからの方がライフスタイルに合わせた車をアドバイスできるな、とか。だから今すぐの購入は勧めずに、「今の車にもう少し乗った方がいいですよ」とお答えすることもありました。


―― 今、目の前で車を買ってもらえないと、ご自身の成果にはならないですよね。企業としても短期的な収益に繋がらない。

鈴木 そうなんですね。だから店長から怒られたりもしましたけど。企業としては短期的にも見ないといけないから、月の売り上げ台数も大事なのかもしれない。でも、お客さまから見れば関係なくて、「それはあなたの会社の中のことでしょう」、という話で。

 だから逆に言うと、ショールームに来て下さるお客さまの中で、「この方は買わないだろう」と思うことはなく、皆さん車が欲しいというマインドはどこかにはあると思い、どなたにも区別なく接していました。お客さまが車に何を求めているのか、言外に隠れたニーズも探って、その上で買うのにちょうど良い時期を見定めてあげるのが良いと思ったんです。


―― なるほど。「今」を追いかけるよりも、将来の最適な「時期」を探すと。

鈴木 今は車も性能が良く、乗り換え期間も長くなっています。お客さまとの付き合いも長くなっている。売って終わりじゃないんです。現在のウェブ広告の仕事とも共通していますね。広告でもセールスでも、お客さまの行動に「時間」という物差しを加えてみること。お客さまにとってちょうどいい期間やタイミングを把握し、それに応じてサービスを提供することが大事なのかなと思います。


―― 時間が大事、ということですか。

鈴木 マーケティング的には、「間」を考えることが大事になっていくのかなと個人的には思っています。長い目で見た関係づくりをしていくと、つながっていくことがあるんです。「買うのはもう少し後のほうがいいですよ」とお話したお客さまから、「次はあなたのところで買いたい」と来てくださることもあります。今すぐ売るだけではなくて長期で見ることが、固定客のような深いお付き合いに繋がっていくのかなと思いますね。

 ありがたいことに、セールス最後の年は、新規のお客さまを担当しなくても、お客さまから新しいお客さまを紹介していただくだけで車を販売することができました。やっぱりお客さまからの紹介が一番うれしいです。人間として信頼されているということだと思うので、励みになりました。


―― ある意味「商売っ気がない」ところにお客さまが来てくれたということでしょうか。根底にあるのは「信頼」だと。

鈴木 お客さまが何を求めているのかを考える、一番大事なのは、お客さまにどれだけ尽くせるかということだと思います。お客さまに尽くしたことが、結局は自分に返ってくる。自分の会社の都合をお客さまに押し付けることによってリターンをもらえない、今は、そうしたケースも多い気がします。

(次ページに続く)

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