光と銅の境界
現在のところ、クライアントPCの周囲で光ファイバーケーブルを見かけることはあまりない。PC本体や外づけのハードディスク、スキャナー、プリンター、ディスプレイなどの接続(インターコネクト)には、多くの場合は銅ケーブルが使われている。しかし、いったんクライアントPCの世界を離れ、エンタープライズサーバーやデータセンター、さらには基幹通信装置、果ては大陸間横断海底ケーブルまで見渡すと、そこは光ファイバーケーブルが接続を支配する世界が拡がっている。
銅ケーブルの世界と光ファイバーケーブルの世界の境界線は、どこにあるのだろうか。境界線は明確な1本の線ではなく、ある程度の太さをもった領域になる。それは、データ信号の伝送速度(バンド幅)と、伝送距離の掛け算(積)で決まる。たとえば、有線LANのイーサーネットでは、1Gbit/sのギガビットイーサーネットと10Gbit/sの10ギガビットイーサーネットがともに、銅ケーブルと光ファイバーケーブルの両方の規格仕様を備える。イーサーネットの世界では、1Gbit/s〜10Gbit/sのバンド幅が銅ケーブルと光ファイバーケーブルの境界領域となっているといえるだろう。
銅ケーブルの規格仕様と光ファイバーケーブルの規格仕様で大きく違うのは、伝送距離である。最大伝送距離は銅ケーブルが短く、光ファイバーケーブルが長い。10ギガビットイーサーネットの規格仕様では、銅ケーブル規格(10GBASE-CX4)の最大伝送距離は15mだが、光ファイバーケーブル規格(10GBASE-SR/LR/ER)では最大伝送距離は300m〜40kmにおよぶ(表2)。
表2:光ファイバーケーブル伝送と銅ケーブル伝送の比較 | ||
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— | 光ファイバーケーブル伝送 | 銅ケーブル伝送 |
物理層 | 光信号 | 電気信号 |
伝送路内の信号間干渉 | なし | あり |
隣接伝送路間の干渉 | なし | あり |
信号波形歪み (伝送距離あたり) |
小さめ | 大きめ |
信号反射 | あり (アイソレーターで反射信号を分離) |
あり (反射信号の分離不可) |
10GbEでの伝送距離例 | 最大10km(10GBASE-LR) | 最大 15m(10GBASE-CX4) |
コスト | 高い | 低い |
光は大容量・長距離に向く
光ファイバー伝送が大容量長距離伝送に適しているのは、光信号が多重化しやすいことと、電磁干渉が起こらないという性質によるところが大きい。
銅ケーブル伝送では、コネクターといったインピーダンスの違いが発生する個所で信号反射が発生し、原信号と反射信号が干渉する。また、複数の銅ケーブルが物理的に隣接していると、隣接する銅ケーブル間で電磁結合による信号干渉が発生してしまう。そのため、伝送中に信号波形が歪む。そこで、銅ケーブルで超高速の信号伝送を実施するときは、伝送路の特性を考慮した波形整形機能を送受信回路に組み込むことが必須となっている。これは、コストの上昇を招く。
対して光ファイバーケーブル伝送は、ケーブルが物理的に隣接していても、隣接するケーブルのあいだで信号が干渉するおそれがない。光ファイバーと光コネクターといった、異種の部品を接続する個所では信号反射が発生するおそれはあるものの、光アイソレーターで反射信号を分離できる。さらに、光波長のわずかに違う複数の光信号を1本の光ファイバーにまとめることで、伝送容量を大幅に増やせる。
ただし、光ファイバーケーブル伝送は、銅ケーブル伝送に比べ基本コストが高い。電気信号を光信号に置き換えて伝送し、光信号を電気信号に戻すためのハードウェアを付加する必要があるからだ。
マルチプロトコル対応だけを先取り
Light Peakが10Gbit/s以上の伝送速度を想定したのは、イーサーネットが電気から光へと移行した領域が1Gbit/s〜10Gbit/sであることを考えると理解しやすい。ただし、銅ケーブルでの電気信号伝送技術が進化していることを考慮すると、10Gbit/sを電気信号で伝送可能な距離はさらに延びる可能性がある。
たとえば、USB 3.0は4.8Gbit/sの伝送速度で、最大3mの距離を銅ケーブルで伝送する。以前のバージョンであるUSB 2.0は、480Mbit/sの伝送速度で最大5mの伝送距離と規定されている。USB 3.0は伝送速度を2.0の10倍に増やし、伝送距離を60%に短縮したともいえる。
伝送速度×伝送距離(=伝送能力)で見ると、USB 3.0はUSB 2.0の6倍の伝送能力を備えていることになる。ここで非常に重要なのは、近い将来にUSB 3.0の性能を、USB 2.0と同じコスト(対価)でユーザーは享受できるようになるということだ。
4.8Gbit/sで3mを運べるUSB 3.0と、10Gbit/sで100mを運ぶLight Peakを比較してみよう。クライアントPCの周囲だけを考えるなら、当然のことながらUSB 3.0で十分だという意見がでてくる。わざわざ追加コストをかけて、Light Peakを導入する意義はあまりないというものだ。
そこで、見方を変えてみる。Light Peakのもう1つの特徴である、マルチプロトコル対応だけに着目するのだ。PCと周辺機器を接続するさまざまなインターフェイスを、1本のインターフェイスに統合する。統合インターフェイスを載せる物理層は、銅ケーブルでよい。すると、Light Peakから光送受信モジュールを省ける。追加コストは、コントローラー兼ブリッジLSIだけになる。また、コネクターにはUSBコネクターを流用すれば、専用コネクターを新たに開発しないで済む。
このような考え方は一般的なWindowsマシンでは無理があるものの、システムの構成要素が確定している組み込み機器やMacなど、コネクター数の削減を重視する場合にはうまくはまる可能性がある。
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