性能とコストパフォーマンスの高いK7で
巻き返しに成功
当時のAMDの悲願は、単にPC向けマーケットでシェアを握るだけではなく、より利益率の高いサーバー向けの高価格製品で一定のシェアを掴むことだった。こうしたニーズに応えるため、「K7」はK6と比較して、より重厚なアーキテクチャーとなった(関連記事)。完全3命令同時実行可能なスーパースケーラー/アウトオブオーダーの処理ユニットや、完全パイプライン化されたFPUにそうした意思が明確に見られる。
とはいえ、一足飛びにサーバーマーケットに参入するのは無茶で、まずはコンシューマー向けで一定のシェアを獲得することが必要だった。1999年6月には、まず0.25μmプロセスで製造された最初のK7「Athlon」を投入する。
K7や次の「K75」は、インテルのKatmai(Pentium III)と同様に、2次キャッシュはオフチップのSRAMという形で実装され、パッケージはSlot 1と同じだった。もっとも、コネクターをひっくり返した形で使い、バスプロトコルも旧DEC社がAlpha用に開発していた「EV6」を使ったため、Slot 1との互換性はない。2次キャッシュを省いたにも関わらず、トランジスター数はK6-IIIとほぼ同等の2200万個になっているあたり、いかに回路規模が膨らんだかわかろうというものだ。
同年11月には、0.18μmプロセスを使ったK75コアに移行する。K75で動作周波数が上がったことにより、当初は2次キャッシュのSRAMをコアの1/2倍速で動かしていたのが、2/5倍速から1/3倍速へと、相対的に速度が遅くなっていく。そのためトップエンドの1GHz製品の性能でも、500MHz製品の倍にはならなかった。そうした困難はあったものの、Pentium IIIとの「初の1GHz CPU」競争にぎりぎり競り勝つなど、K75は重要な製品となった。
ちなみに、K75そのものはアルミニウム(Al)配線で製造されたが、高動作周波数製品の中には内部を銅(Cu)配線としたものがあり、(図には入れていないが)これを「K76」コアと称する。
これに続き、2000年6月に登場したのが、2次キャッシュをオンダイで搭載した「Thunderbird」コアである。パッケージ上にヒートスプレッダーを搭載しないためにコア欠けしやすく、またオンダイでサーマルプロテクター機能を搭載していなかったので、自作ユーザーには「焼鳥」などという不名誉な称号を貰ったこの製品。それでも同一周波数のPentium IIIに負けない性能と良好なコストパフォーマンスにより、同社のシェア確立に貢献した。
また、バリュー向けには2次キャッシュを64KBまで減らした「Spitfire」コアが作られ、これが「Duron」として販売される。
このThunderbird/Spitfireが登場する少し前に、AMDは「Athlon Ultra」「Athlon Professional」「Athlon Select」なる3ブランド展開を考えていた。ハイエンドのAthlon Ultraは、3次キャッシュを搭載したサーバー向けという位置づけ。Athlon Professionalはメインストリームで、Athlon Selectがバリュー向けである。ただ、やはり当時のAMDの生産能力では、Athlon Ultraを別チップで作る余力もなく、またシェアがゼロの状態でいきなりこうした製品を投入するのはリスクが高いと思ったのか、この計画は少し形を変えて展開される。
まずAhtlon Ultraの計画は完全に撤回され、それとは別にThunderbirdのコアに拡張命令「3DNow! Professional」の搭載やキャッシュプリフェッチ機構の搭載、パイプライン構造のチューニングなどを施した「Palomino」コアを作る。このParominoは同一コアのまま、まずサーバー向けに「Athlon MP」、ついでモバイル向けに「Mobile Athlon 4」、最後にデスクトップ向けの「Athlon XP」としてそれぞれ展開される。
Athlon MPは2プロセッサー対応、Mobile Athlon 4は省電力機能「PowerNow!」の搭載など、一応差別化はされている。だが、これは元々Palominoには全機能が盛り込まれいて、あとはセグメント別にそれぞれの機能を有効/無効にして出荷しているだけだ。この方法はその後のK7製品にも引き継がれた。唯一別ダイとなったのは、Duron向けの「Morgan」。こちらは相変わらず2次キャッシュが64KBのまま留め置かれたため、専用のダイとなっている。
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