FREEを越えてデジタルメディア維新へ
岸氏の近著『ネット帝国主義と日本の敗北』も、その問題意識のスタートラインとしては共感できる部分も多い。少なくとも現状では、リアルを浸食し続けるネット市場において、プラットフォームを主導する日本企業は皆無といって良い状況だ。
岸氏が言う「FREE礼賛」というよりも、手放しに「IT礼賛」を叫ぶのは(つまり、Kindleは凄いとか、iPhoneは素晴らしいという評価だけでは)、あまりにも脳天気だという点では同感せざるを得ない。
しかし一方で、「文化とジャーナリズムを守ろう」という「社会的な使命感」からコンテンツを有料化していこうというのは楽観的だと感じる。
その理由は、消費者が求める限り、デジタルコンテンツが無料あるいは、流通コストの低下に伴う低価格化に向かうのが(少なくともこれまでのネットの世界では)事実であること。
その中で収益を目指すなら、必然的に回収は別のところで図るべきではないのか、というのがひとつ。
もうひとつは、これだけ嗜好が細分化され、しかもネットというパーソナルなメディアがファーストウィンドウとなる中で、既存のマスコンテンツの制作体制を、そのウィンドウの有料化で維持しようとするとするのは、どうにもバランスが悪い。
プラットフォームの主導権争いには敗れようとしている。これは厳然たる事実だ。電子書籍の世界にも黒船が到来しつつある。岸氏のいう帝国主義とは文化の浸食という側面も持つ。そんな中どのように戦えば良いのか。そのための戦略が求められている。
この連載では以下のような内容を予定している。
まつもとあつしの「メディア維新を行く」連載予定
- マスコミ・出版業界を解体する「iPadとEPUBとiBooks」
- ジャーナリズムは不滅なのか?
- 審査という必要悪「iPhoneアプリとAndroidの相違点」
- アプリレビューと売上げとの関係を考える
- アプリという中抜きモデル「アプリ型書籍」
- テレビドラマはどこに活路を見いだすのか?
- ソーシャル化するアニメーション~「けいおん!ヒットとCGM」
- ライブエンタテイメントへの期待~「空の境界」
- 著作権を考える「青空文庫とKindle/iBooks」
- 広告モデルか課金モデルか?
- ロングテール神話の崩壊とその先にあるもの
- リアルタイム志向は消費スタイルも変える
※順不同・内容は現時点の想定
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