機動戦士ガンダムが初めて放送されてから30年。当時、戦後生まれの子どもたちにとって「1年戦争」が初めて経験する「リアル」な戦争であり、戦う理由を求める少年たちを表現した作品のブームは、時代を象徴する社会現象として取り上げられた。本放送後に登場したガンプラは、全国の模型店で品薄が続き、テレビや新聞に取り上げられるほどの話題になった。1980年代初頭はネット通販など無く、ガンプラの入手は店頭のみ。早耳の友人にガンプラ入荷日を教えてもらい、学校帰りに模型店に急いだ記憶がある。TVではバンダイのCMが流れ、CMの「ジオン驚異のメカニズム」と言うフレーズに心を躍らせたものだ。
昭和のガンプラは接着と塗装で一苦労
1980年代のガンプラ製作には、工具や接着剤、塗料が必須だった。部品をニッパーで切り離し接着、接着剤が乾いたらヤスリがけをし、削り粉を洗い落として塗装する、という具合で、手間がかかった。例えば量産型ザクなら成型色が緑色なので、手を抜いて色を塗らなくてもそれっぽく見えないこともない。しかしガンダムは成型色が白一色なので、色を塗らないと札幌雪祭りの雪像状態で見られたものではなかった。
接着と塗装の面倒さは、思い出すだけで苦痛である。接着剤を付けすぎれば余分なところまで入り込み、翌日見たら関節が妙な角度で固定されてしまったことも(涙)。塗装も筆塗りの場合は乾かないうちに重ね塗りをして塗料が剥げたりデコボコになったり、手が汚れたりと散々だった。またスプレー塗料缶では吹き加減がわからなくて厚塗りをしてしまい、表面のディティールが埋まってしまうこともあった。
接着剤や油性塗料には毒性のある有機溶剤が使われており、ガンプラ作りのたびに家族に換気の徹底を注意されたり、塗料の薄め液のビンが転倒しこぼれた有機溶剤で気分が悪くなったりと、接着と塗装には良い思い出がない。
しかし、考えてみればガンプラ作りとは「モノ作りの過程」そのものと言える。自分の手で完成品を仕上げる、という意味で人生の早い時期にガンプラ作りという経験が出来て大変良かった。
現代のガンプラは接着剤も塗料も不要に
7月11日、初代ガンダムのテレビ放映から30年を記念し、新たに描き起こされた新デザイン「G30th」を元に設計された「HG RX-78-2ガンダム Ver.G30th」が、バンダイから発売された。バンダイの持つ最新の模型技術を盛り込んだガンプラで、1/144スケールのRX-78-2ガンダムでは9年ぶりに金型を起こしたという。昭和のガンプラとは何が違うのだろうか。
まず接着剤が要らない。パーツ相互を噛み合わせる「スナップフィット」と呼ばれる仕組みで、接着剤を使わなくてもパーツが外れない。スナップフィットは完成品を床に落としてもバラバラにならないほどパーツの噛み合わせ精度が高く、ヤスリがけしなくても鑑賞に堪えられる。
さらにバンダイ独自の多色成形技術で作られた「色プラ」だ。複数の成型色を1枚のランナー(部品の枠)に収め、例えばガンダムなら胸の青い部分、腹の赤い部分などが、パーツの段階で青色や赤色の樹脂で成型されており、塗装なしで劇中のイメージに近いものが完成する。近頃のガンプラは毒性のある有機溶剤系接着剤・塗料を使わずに済むので、手の汚れや塗りムラもない。今やガンプラ製作に必要な工具は、パーツを切り離すためのニッパーだけになっているのだ。こんなに手軽にプラモデルが作れていいのだろうか。技術立国ニッポンのプラモデルたるもの、もう少し手間がかかった方が完成したときの感動も一層深まるのでは、と思うが、それは私のアタマが古いからなのだろうか。
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ガンダムVer.G30thは、写真のように1/144スケールのプラモデルとは思えないほど、表面に繊細なモールド(凹凸)が施されている。普通のプラモデルでは塗装に失敗し塗料でモールドを埋めてしまうことがあるが、色プラは塗装不要なので失敗の心配がない。またガンダムVer.G30thは、関節の数や可動部の自由度が昭和のガンプラとは比べものにならないほどに増え、自由にポージングできる。接着剤不要なのに腹部やフロントアーマーが動かせる。この完成度にふと頭の中に「ジオン驚異のメカニズム」というバンダイのCMのフレーズが浮かんだ(ガンダムは連邦側だけど)。
初回生産品限定でガンプラミニブックが付属する。「ガンダム30周年プロジェクトの説明、今まで発売されたガンプラの歴史や飾り方を紹介しています」(担当)とのこと。知っているガンプラ、知らないガンプラなどが載っていて、親子2世代で楽しめるそうだ。