複数のネットワークを経由する仕組み
TCP/IPの機能階層の考え方を理解したところで、複数のネットワークを経由して離れたコンピュータ間の通信がどのように行なわれるか見ていこう。
Ethernetとデジタル専用線のネットワークをつないだ例をTCP/IPの機能階層に置き換えると、図4のようになる。PC-AとWebサーバはすべての機能階層を持ち、スイッチングハブはネットワークインターフェイス層の機能だけ、ルータはネットワークインターフェイス層とインターネット層の機能だけを持つ。
PC-AからWebサーバ宛に送信された情報は、同じネットワークに接続していないので、ネットワーク間の中継が必要となる。その中継を行なうのがルータである。
それではここで異なるネットワークを経由する仕組みについて説明しよう。
PC-Aが情報を送った宛先はWebサーバだ。送信した情報を最終的に受け取る宛先はIPヘッダが示している。これはTCP/IPのインターネット層が、同一ネットワーク内だけでなく、複数のネットワークをつないだ大規模なネットワークにおいても発信者から宛先まで伝送する機能階層だからだ。
図4中のルータを見るとEthernetで接続されているとともに、別のインターフェイスでデジタル専用線にも接続されている。PC-Aから直接Webサーバへは送信できないが、同じEthernetに接続されているルータAにはEthernetでIPパケットを送ることができる。そこでPC-AではIPヘッダに最終的な宛先の情報を入れて、EthernetではルータAを宛先として送信する。IPパケットが宛先の書かれた荷物で、Ethernetがそれを乗せるトラックのような関係である。
ルータAはEthernetからIPパケットを受信すると、ルータのIP制御プログラムによりIPヘッダの宛先情報から次の送り先を決定する。この決定を行なう際に、ルーティングテーブルを参照する。これはあらかじめネットワーク管理者が設定した情報である。たとえば、Webサーバがつながっているネットワーク宛ならデジタル専用線を経由してルータBへ送信し、PC-Aが接続されているネットワーク宛ならEthernetポート側へ送信するといった具合だ。
ルータにおいて転送先が決まると、IPパケットを送信するネットワークインターフェイスのプロトコルに渡す。この例では、Ethernetのトラックに載せられてきたIPパケットをデジタル専用線のトラックに載せかえてルータBに届けるイメージである。ルータBはデジタル専用線に載せられたIPパケットを受け取り、管理者の設定した情報に基づいてEthernetに載せ換え、Webサーバへと届けるというわけだ。
このようにTCP/IPでは、発信者の作ったIPパケットはIPヘッダにつねに最終的な宛先が示されているため、いくつものネットワークを経由しても宛先に到達できる。特に、ネットワークインターフェイス層というハードウェアの制約によって通信範囲が限定される部分と、最終的な宛先を示すインターネット層が分かれているので、ハードウェアの通信の仕組みの違いを乗り越えて情報の伝達ができるのである。
また、異なるネットワーク間の接続においては、ルータという装置の果たす役割も重要である。ルータは一度IPパケットを受信して、ルーティングテーブルを参照して再び送信する。このように、ルータごとに次の送信先が決定されることを「ホップバイホップルーティング」という。
さて、ここまではネットワーク、プロトコルの階層と考え方、そして異なるネットワークを経由して情報が届けられる仕組みについて、基礎中の基礎を解説してきた。このあとはIP、その上位層について詳しく解説していこう。
筆者紹介:遠藤 哲
電子交換機のソフトウェア開発をしていた元SE。インターネットに触発されて転職し、TCP/IPなどインターネット技術のほかSONET/SDH、DWDMなど光伝送システムの教育を担当。現在は独立してネットワークの技術教育インストラクター兼ライター。
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