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デジタル化でむしろアナログICの需要が増える――米TI上級副社長グレッグ・ロウ氏が来日記者会見

2006年05月18日 14時48分更新

文● 編集部 小林久

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日本テキサス・インスツルメンツ(株)は18日、都内で記者会見を開催し、同社のアナログIC事業戦略に関して説明した。

グレッグ・ロウ氏
アナログIC事業担当シニア・バイス・プレジデントのグレッグ・ロウ氏

米テキサス・インスツルメンツ(TI)社からアナログIC事業担当のシニア・バイス・プレジデントを務めるグレッグ・ロウ(Gregg A. Lowe)氏が来日したことを受けたもの。米TIは、DSP事業に並ぶ2本柱としてアナログIC事業を位置づけている。

アナログIC製品は、スタンダード製品向けの高性能アナログICと特定アプリケーション向けのミックスド・シグナル製品の2つに大別され、2005年の市場規模は、それぞれ117億ドル(約1兆2753億円)と202億ドル(約2兆18億円)となっている。市場はほぼ横ばいで、大きな成長は見られないが、米TIのシェアは2001年からの5年間で、8%から12%に伸び、売上げも約8億ドル(約872億円)増加したという(世界半導体市場統計:WSTS調査)。

その要因としてロウ氏は「信号の入り口から出口までをサポートする幅広い製品群」「高性能な製品の投入」「顧客のニーズを第1に考えたアプローチ」の3点を挙げた。





アナログ事業は芸術だ

ロウ氏は「若い世代の多くは世界がデジタル化しつつあると考えており、アナログ技術を専攻する学生の数は減りつつある」としたものの、「ところがデジタル化することで、逆にアナログICの需要は増えてくる」と述べた。機器で扱われるデータがデジタル化しても、音楽や電波を扱ったり、温度や圧力をセンシングするためには、アナログICによる変換処理が必須になるためだ。同氏は「20年前主流だったレコードプレーヤーでは、アナログエレクトロニクスはほとんど用いられてなかった。一方でMP3プレーヤーでは情報が完全にデジタル化しているのに、プレーヤー内のアナログ部品は増えている」と語る。

世界を知るためにアナログは必要
さまざまな回路。赤のブロックがアナログ回路、青がデジタル回路。左端が現実世界にあるアナログの信号。それをDSPやCPUなどのデジタル回路に渡すためにはA/D変換が必要。また、デジタル信号を人間が感じ取れるようにするD/A変換も必要になる

優秀なアナログ技術者が減少しているが、一方で市場では一定のニーズがあるため希少価値を生む。「キャリアの将来も明るい」とロウ氏は言う。米TIでは、大学に働きかけ、アナログ技術者を育てる取り組みも積極的に行なっているそうだが、「学生にも徐々にアナログ技術が楽しいと思ってもらえるようになった。アナログ技術者のほうが所得も高いという点もモチベーションを高める要因になっている」と話す。

「アナログ事業は芸術だ」とロウ氏が言うように、EDA(Electronic Design Automation)ツールによって容易に製造を自動化できるデジタルICに対して、アナログICはEDAの資源が限られており、人間の手作業に依存する部分が多い。そのため製造には技術的なノウハウの蓄積が不可欠で、コピーも容易ではない。「アナログICの将来は明るい」と語るロウ氏だが、それには「顧客の求める商品をしっかりと提供できる企業にとっては」というただし書きも付く。つまり、顧客のニーズをしっかり汲み取り、それを製品に反映できる企業とそうでない企業の差が如実に出るということである。

なお、アナログICにはCMOS技術の導入が進んでいるが、その利点としてロウ氏は「CMOS技術はデジタルICでまず立ち上げられ、その償却が済んだ後でアナログ技術に応用すれば、低コストなチップの生産が可能になる。また、低消費電力という利点もあり、これは携帯機器の使用可能時間を長くするとともに、熱の放射が減るため、機器の小型化にも貢献する」ことを挙げた。プロセスルールも0.25μmが中心となっており、90~130nmプロセスに進みつつあるデジタルICに比べて数世代こなれた技術が主流となっている。

アナログIC市場 TIのシェア推移
2005年のアナログIC市場米TIのシェア推移
高性能アナログIC事業 ミックスドシグナルIC事業
TIの高性能アナログIC事業ミックスド・シグナルIC事業

会見でロウ氏は「現在は12%のシェアだが、これを13、14……16%と着実に伸ばしていきたい」と述べた。具体的なシェア達成時期の目標などに関してはコメントしなかったが、「市場のダイナミクスはゆっくりとした周期性を持っており、毎年1%程度確実に成長させるのが目標」と語った。

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