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【特別対談】二大企業の重鎮が語る、アップルへの提言――第3回「望まれるパソコン業界のパラダイムシフト」

2006年04月12日 19時58分更新

文● 林 信行、編集部

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コンピューターテクノロジーの進化

――最後になりますが、パソコン業界を常に支え、見守ってきたおふたりから見て、今日までのパソコンの進化というのは期待通りのものでしたか?


【西岡】 インテルはこれまで少々、力ずくでCPUのスピードだけを上げてきたところがあります。とはいえ、並列の積分方程式を解く必要があるユーザーはごくごく例外で、普通のユーザーが本当に必要なのは、もっとIO*1の性能を上げたりとか、時間のかかる処理の待ち時間の間に面白いソフトで楽しんでいるといった方面なんです。

なのに、これまでのインテルは自分たちの力が及ぶ範囲、かつx86アーキテクチャーに悪い影響を及ぼさない範囲の改良ということで、やみくもに駆動周波数を上げて演算スピードだけを向上させてきた。そうではなく、ユーザーが本来欲している部分の開発に注力していたら、パソコンの進化がもっと速くなっていたと思うことがあります。


【古川】 私はハードのほうには目覚ましい進化があったと思いますよ。昔はそれこそ5MBのメモリーが65万円もしたし、HDDの容量も10MB程度だった。ただ、容量が爆発的に増えたのにHDDは何GBのものを買っても1GBしか空き容量が残らない。メモリーもいつもいっぱいまで使われている。

確かにCPU性能が向上し、さまざまな容量が上がったことで、それが人とパソコンのリッチなインタラクション(対話)に生かされているのも確かだけれど、本当にそれだけの容量が必要なのか。どうも、われわれは資源をあるだけ使い尽くすようなかたちで、パソコンを進化させてしまったんじゃないか、という懸念があります。

もうひとつ思うのは、私が22歳のときに月刊アスキーのコラムでも書いたんですが、「ハードやソフトは見えなくなるのが理想」だということ。オーディオが趣味の人の中にはケーブルや針といった道具にこだわって、その話ばかりをしている人がいるけれど、本当に大事なのはそれを使って聴く音楽のはず。

同様にパソコン、それを使って可能になる新しいコミュニケーションとか、テレビに代わる新しいメディア形態とかこそが重要なはずなのに、相変わらず世の中は「新しいハードが出ました」とか「新しいソフトが出ました」とか、そんな話ばかりをしている。


【西岡】 昔、PowerPC陣営が発足したときに私が期待していたのは、まさにそういうところ、そういった新しいパラダイムの登場だったんです。インテルは、それまでのソフト資産とかを守らなければならないといった縛りもあったけど、まっさらな状態から始められるPowerPCならそれができたはずなんです。


【古川】 そのような進化は、組み込みの分野で起きているのかもしれませんね。今、レクサスの車だけで80本のCPUが組み込まれていたり、携帯電話からデジタルカメラなどあらゆる分野で米フリースケール社のCPUやインテル社のXscale*2が覇権を争っている。でも、これらの製品を扱う際にCPUの種類やアーキテクチャーを気にする人はほとんどいないでしょう。


――そういう意味では、今回の提携は、iPodへのXscale採用とか、そういった方面への展開も期待できるのかもしれませんね。


【古川、西岡】 そうかもしれませんね。(おわり)



*1 IO(アイオー)
入出力。メモリーやディスク、CPUとの間で情報のやり取りに使われる導線やそこを流れる信号を指す。CPUが高速でもIOが遅ければ、処理するのに必要なデータが読み込めなかったり、結果を書き出せずに処理が止まる。

*2 Xscale
インテルの組み込み用プロセッサー。裁判を経て米デジタル・イクイップメント社から獲得した組み込み用プロセッサー、“StrongARM”をベースに開発。PDAや携帯電話用プロセッサーとして提供しているが、組み込み市場ではPowerPC陣営にやや押され気味。



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