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ユーザーサポート裏のウラ

2001年12月16日 23時35分更新

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とてつもないソフトのサポートから生まれた必勝パターン

 ……数週間が過ぎ、僕がユーザーサポート業務にもある程度慣れてきた頃、わが社からとてつもないソフトが発売された。どのくらいとてつもないかというと、普通に遊んでいても2時間に1回は必ずフリーズする、という逸品だ。つーか、なぜそんなソフトが品質審査を通ったのかが不思議でならないが……。ひょっとしてテストって、1時間くらいなのか?

ユーザーサポート
※写真はイメージです。実在するショップやメーカーとは関係ありません

 なにはともあれ、この日から僕は毎日のようにこのゲームに対する苦情の電話に追われるようになる。このとき上司から厳しく通達された「絶対にバグとは認めるな」という命令を遵守するため、つまりは“2時間に1回は必ず止まる”のをバグではないと言い張るために、“サポート必勝応対パターン”を僕は編み出した。それはこんな感じだ。

パターン1
ユーザー「遊んでいたら、止まってしまったんですけど……」
僕「多分、長時間遊んでたから、本体が熱で暴走しちゃったんじゃないですかね?これからは1時間に1回位は休憩を入れるようにして下さい(多分結果はかわらないけどね)」

パターン2
ユーザー「何回やっても同じ場所で止まるんですが……」
僕「その場所には行かないようにしてみてください」

パターン3
ユーザー「どうやっても止まってしまうので、全然先に進めないんですが……」
僕「それでは、これから僕が言うルートでゲームを進めて下さい。その通りにプレイして頂ければ止まらないはずです」
ユーザー「……それって、ゲームが何か壊れてるんですか?」
僕「いえ、ハードとの相性が良くないのではないでしょうか(そんなのあるのかな?)」

パターン4
ユーザー「壊れてますよね?」
僕「壊れてません」
ユーザー「壊れてますよね?」
僕「壊れてません」
ユーザー「壊れてますよね?」
僕「壊れてません」
(以降、繰り返し)

パターン5
ユーザー「バグですよね?」
僕「仕様です」
ユーザー「バグですよね?」
僕「仕様です」
ユーザー「バグですよね?」
僕「仕様です」
(以降、永遠に繰り返し)

 実際のところ、このゲームは1000本くらいしか売れなかった。にも関わらず、苦情が寄せられた延べ件数は100本を越えたのだ。あまりにも販売本数が少なかったので、まったく話題にもならなかったが、おそらくここ最近では最もヤバいゲームの1つだったのではないかと思う。



ユーザーサポート電話番号
パッケージやマニュアルの片隅に書かれたユーザーサポート電話番号。その電話を受けているのは…。※写真はイメージです。実在するショップやメーカーとは関係ありません

 このユーザーサポート業務だが、あまりにも僕(たち)の対応に問題があったからか、しばらくして新たにサポート専門のプロフェッショナルを雇うことになった。だったらリストラすんな。
 …閑話休題。彼は30歳でユーザーサポート歴6年(いいのか? そんな人生)という強者だったが、やはりこのゲームの苦情対応だけはどうにもならなかったようだ。一度、ちょっと怖い系のお兄さんからの苦情電話を処理しきれず、直接謝りに行かされた結果、目の上にあざを作って帰ってきたことがあった。その後、会社に戻ってから「痛くないッスよ、痛くないッスよ」と小声でつぶやきながら、小刻みに震えていたことを今でも覚えている。

 と書いていて思い出したけど、あのとき彼にはちゃんと労災がおりたのだろうか? 会社が消滅した今となっては、確かめる術もない。

 さてそんな「痛くないッスよ」の彼だが、とあるゲーム会社で働いている友人から先日、今も某大手ゲーム会社でユーザーサポートとして働いていると聞いた。いったい、何が彼をそうまでユーザーサポートに駆り立てるのか? 営業の僕には、永遠の謎である。



ここに書いたことは、あくまでも筆者の体験がもとになっています。すべてのゲーム会社に当てはまるわけではありません。

【筆者プロフィール】高田哲弘氏。都内某大学を卒業後、とある中堅ゲーム会社に誤って入社し、営業部に配属されて過酷な日々を過ごす。その2年後には早くも会社の将来に絶望を感じ、就職活動を開始。別のゲーム会社にて採用され、また誤って入社してしまう。そしてそこでも会社の将来に絶望を感じたが、時すでに遅く、会社が倒産するという事態を迎えるハメに。そして現在、なんの因果かまたゲーム業界に近い会社に勤務している。しかしやはり過酷具合は変わらず、現在は長期就職活動中。

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