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【オーバークロック研究室】Athlon XPでオーバークロック(前編)~まずは倍率可変CPUに改造する~

2001年11月30日 03時19分更新

文● KAZ

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●切断されたL1ブリッジの接続にチャレンジ

 少なくともこの切断されたL1ブリッジは何らかの方法で接続しないと倍率操作は実現不可能である。つなぐための手がかりは、パッケージ表面に残された小さなドットしかない。ここは無謀かも知れないが、この小さなドット間をリード線で接続してみることにした。まさに谷間へ架ける決死のブリッジ作りである(失敗するとAthlon XPの生死に関わる)。とは言うもののテレビで見かけるレポート番組の1シーンに登場するワイヤーボンダー(ICチップ製造においてチップ内部のコアとピン・リード間というミクロン単位の区間を銅やアルミの極細線で配線するロボットマシン)があるわけではなく、手元に見つけられるのは、近頃、眼精疲労の激しい老眼気味の筆者の肉眼と少々ガタつきはじめた長年愛用のハンダごてだけである。早速、ハンダごてを温めながらL1ブリッジ作戦を練った。まず、予測できる難点として…

(1)ドット間を接続する線は、小さなドットに対してそれなりに細くそしてしなやかな銅線が好ましいが手頃な材料が思い浮かばない。
(2)ターゲットのドットは、先ほどテスターのリード棒をあてた時に感じた印象からパッケージ表面に対していくらか凹んでいる。こう言う場合は、ドットに対して予めハンダメッキを施そうとしてもハンダが弾いてしまってうまくのらない。
(3)成功したとしても鉛筆HB作戦や導電ペイント攻撃のように比較的手軽な方法とは言えず面白みに欠ける。

 と、いくつか考えられたが(1)の材料としては手元にあった比較的細い電線をいくつか選んで被覆をはがしてみた。今回の使用目的では単線ではなくて細い銅線を数本束ねてある心線のうちの一本が使えないかと考えたのである。候補にあがった銅線の太さは0.10mmと0.14mmで、試しにL1ブリッジのジャンパ・ポイントへあてがってみると、丁度、ドットが隠れてしまう太さだった。理想を言えばもっと細い銅線が好ましいが、とりあえず一番細い0.1mmの銅線を使うことにする。
 次に(2)の問題だが、従来のAthlon-1GHzでL1ブリッジを過去にハンダづけした経験がある。その時もブリッジにハンダが馴染まなくてなかなかハンダメッキができなかったが、今回はその教訓もあってチョットしたアイデアを試してみる。
 (3)は、ハンダづけではなくてもっと手軽で確実な方法が思い浮かべば良いのだが、それは今後の課題。今回は、ハンダづけによるジャンパ作業で先を急ぐことにする。ただ、L1ブリッジの切断後に残った凹みを何らかの絶縁体で埋めてしまい、その上から導電ペイントでドット間にジャンパ・ラインを書けたなら何とかなりそうな雰囲気だが、何れにしても実際の作業は困難を極めるだろう。

●L1ブリッジ作戦開始!

ドットに0.1mmの銅線をハンダづけ
ドットに0.1mmの銅線をハンダづけする。ただし、ドットにハンダメッキを施すことが目的だ

 さて、ハンダづけ作業は思いのほか難行した。なんと言っても相手が小さくて作業状況が肉眼ではハッキリと見えないからだ(筆者の視力にも問題があるのかも知れないが)。ほとんどがカンに頼った作業であったと言っても過言ではない。最初の行程では思った通り、ドットにあらかじめハンダメッキを施そうとしても、ドットはパッケージ表面から若干凹んでおりハンダが弾いてすんなり馴染もうとしない。
 そこで先にも述べたようにチョットしたアイデアを試してみた。それは、(1)で用意した銅線をドットに対して垂直に立て、ハンダごてのこて先に溜めた多めのハンダと共に銅線の横から加熱する方法である。つまり細い銅線をハンダごてのこて先に見立ててドットを加熱し毛細管現象を応用してハンダを流し込む作戦だ。結果は上々でハンダごてを直接ドットにあてがうより効率は良さそうだ。コツはハンダがよく馴染むように液体フラックスを併用する。ハンダの温度が下がった頃合いを見計らってもう一度加熱して銅線を抜き取り、ドットにハンダメッキが施せたら残りのドットにも同じ方法で順次ハンダメッキを施して第一行程は完了となる。ただ注意する点はドットのすぐ横にあるジャンパ切断後の凹みへ可能な限りハンダを流し込まないことであり、テーピングをして防御するか、もしも流れ込んだ時は速やかに排除することだ。もう一点、最も注意しなければならない点としてドットにハンダづけし終えた銅線をむやみに曲げたりしないことである。なぜならばパッケージ表面に見えているドットの厚みはとても薄くて剥がれやすい。つまり、その表面積のままで積層内部に深く埋め込まれているのではなく、それこそ肉眼では判断できないほど細い信号線でパッケージ内部に接続されているものと思われる。したがってドットに対して無用な力をかけると、いとも簡単に剥がれる懸念が強い。最悪、ドットを失ってしまうと倍率操作は諦めざるを得ない結果となる。



銅線の違い
当初ジャンパの材料として考えた0.1mmの銅線と袋編みされたハンダ吸い取りワイヤーをほぐした一本の銅線の違い
ハンダ吸い取りワイヤー
ハンダ吸い取りワイヤーを構成する一本の銅線は太さ0.04mmで髪一本の平均値0.07mmより細い
5カ所のジャンパは施せた
美しい出来栄えとは言い難いが何とか5カ所のジャンパは施せた

切断されたL1ブリッジの各ドット10カ所に何とかハンダメッキを施せた。いよいよそのドット間に銅線を接続する行程に取りかかる。ところが高々2mmほどではあるが両方のドット区間に渡した太さ0.1mmの細い銅線を加熱するとハンダが銅線に集中するばかりでドットの方へ思った通りにハンダが流れていかない。やはり現状だともっと細いしなやかな銅線が必要だ。「さらに細い銅線なんて入手困難だ」と筆者の脳裏が先入観に支配されそうになったその時、ふとハンダ吸い取りワイヤーが目にとまった。「あ!あった。これは絶対に細いハズだ」。袋編みされたハンダ吸い取りワイヤーをほぐして一本の銅線の太さを測定してみると0.04mmである。しかも十分にしなやかで今回の目的には好都合だ。先ほどと同じようにドット間へあてがってルーペで確認してみると、ドットが隠れることもなく均等に加熱できそうな様子がうかがえた。早速、ハンダごてで加熱してみると今度はドットにもハンダが流れて概ね良好な感触を得られた。ただルーペで見ると決して納得できる仕上がりとは言えないが、手元のツールと筆者の手作業ではこれが限界と言ったところである。とにかく「電気的に接続する事が最大の目的」と自分に言い聞かせて5本のジャンパ作業を完了させた。

※ハンダ吸い取りワイヤーとは極細の銅線を袋編み状にして予めフラックスが塗布してあるハンダづけ作業に欠かせないツールのひとつで、ハンダづけ作業の際に発生した無用なハンダを吸い取ったり、基板にハンダづけされた電子デバイスを摘出する際に使用する。オーバークロックに関わる改造では、マザーボードのPLLオシレータ回路に実装された水晶振動子を摘出した後、スルーホール内の埋まったハンダを吸い取る際に重宝する。



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