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【WPC 2001 Vol.19】インテルのモバイル向けプロセッサーには負けない──トランスメタのディッツェルCTO

2001年09月25日 03時32分更新

文● 聞き手:週刊アスキー 佐藤律子、聞き手/構成:編集部 佐々木千之

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“WORLD PC EXPO 2001”に出展するために来日した、米トランスメタ社副会長兼CTO(最高技術責任者)のデビット・ディッツェル(David Ditzel)氏に、富士通(株)の『LOOX(ルークス)』など、ようやく搭載製品が発表されそうな『TM5800』や、次世代“Crusoe”プロセッサーについて話を聞いた。

WORLD PC EXPOのトランスメタブース
WORLD PC EXPOのトランスメタブース(人がいないのは開場直後のため)
米トランスメタ社の副会長兼CTOのデビット・ディッツェル氏
米トランスメタ社の副会長兼CTOのデビット・ディッツェル氏。以前は眼鏡をかけていた同氏だが、レーザーによる矯正手術を受け「とてもよく見えるようになった」という

TM5800を搭載したパソコンが間もなく登場する

ディッツェルCTOはまず2001年1月の最初のCrusoe発表後のこれまでの成果について「たいへんな成功だった。日本メーカーも非常に多くの製品に採用してくれた。さらに日本のコンシューマーにCrusoe搭載ノートパソコンが受け入れられ、1週間のノートパソコンの売り上げでトップとなったことはとても嬉しい」と振り返った。

Crusoe発表からWORLD PC EXPO 2001までのCrusoeを巡る動き
Crusoe発表からWORLD PC EXPO 2001までのCrusoeを巡る動き

そして、6月に発表した、0.13μmプロセス技術で製造され、CMS(※1)のバージョンアップによって従来の『TM5600』と比べて性能が向上し、消費電力は低減するという新Crusoe『TM5800』について「TM5800を搭載する富士通のLOOXがこのWORLD PC EXPOで初めて披露された。参考出品だがDVD-ROM/CD-RWドライブを装備するなどすばらしい製品だ」と、初の搭載パソコンの公開を祝った。このLOOX以外にも、トランスメタブースでは、米PaceBlade Technology社や米沢日本電気(株)もTM5800を搭載パソコンやサーバーを参考出品していた。

※1 CMS(Code Morphing Software)。トランスメタのx86互換プロセッサーCrusoeは、x86互換プロセッサーとはまったく異なるアーキテクチャーの128bitプロセッサーコアを採用している。Crusoeは、x86用のプログラムを実行する際に、Crusoeの内部に組み込まれたCMSによってCrusoe自身のコア用のコードに変換し、変換後のコードを実行する仕組みとなっている。

0.13μmプロセス技術で製造されるTM5500/TM5800(両者の違いは2次キャッシュ容量による)は、年内にCMS 4.2を採用した600~800MHz製品、2002年にはCMS 4.3を採用した800MHz~1GHz動作の製品が登場するという
0.13μmプロセス技術で製造されるTM5500/TM5800(両者の違いは2次キャッシュ容量による)は、年内にCMS 4.2を採用した600~800MHz製品、2002年にはCMS 4.3を採用した800MHz~1GHz動作の製品が登場するという。TM5500/5800は価格も消費電力(同クロック時)もこれまでの半分になるとしている

TM5800発表以来、3ヵ月ほども採用製品の発表がない(現時点でも正式発表したメーカーはない)ことについては「TM5800はTM5600と完全ピンコンパチではないが、技術的には非常に近く、載せ替えるにはそれほど難しくない。ただ、パフォーマンスが向上し、消費電力は下がっているということで、メーカー各社はチューニングや、新たな機能の追加で他社との差別化を図っており、そこで時間がかかっている」と、その理由を解説した。

ディッツェルCTOに、TM5800をどのくらいのメーカーが採用するのかと尋ねてみたが「未発表の製品については何も言えない。ただ、TM5800はTM5600と技術的に近く、性能は向上する。それに我々も生産をTM5600からTM5800に切り替えていく」と述べ、間接的ながらTM5600製品を持つ多くのメーカーがTM5800搭載製品を発表するだろうという見通しを示した。

富士通が参考出品した新『LOOX T』シリーズ
富士通が参考出品した新『LOOX T』シリーズ。画面解像度の向上による大画面化、DVD-ROM/CD-RWドライブの搭載、大容量バッテリーと増設バッテリーの併用による13時間の動作などの性能向上が図られている。正式発表日や発売日については未定

次世代Crusoeになれば、インテルとの差はますます開く

256bitコアを採用する次世代Crusoeについては、6月の発表時には、投入時期について2002年とされていたが、今回ディッツェルCTOが提示したロードマップでは、2002年後半となっていた。発表前の製品ということで、チップ自体についてはこれまで以上の情報は示さなかったが、従来の2~3倍のパフォーマンスをねらった製品と、周辺インターフェースなどを統合した低消費電力、省スペース型のシステムオンチップ製品の2種類の製品を投入することを再確認した。また、次世代Crusoeの発表後も、従来のTM5500/TM5800を“ローエンド向け製品”として販売を続ける可能性を示唆した。

次世代Crusoeの投入時期は2002年後半としている
次世代Crusoeの投入時期は2002年後半としている

ディッツェルCTOはここで追加情報として、米インテル社の低電圧版/超低電圧版モバイルPentium IIIと、モバイルPentium III-Mのデータシートから引き出した、ACPI動作時の消費電力グラフを示した。それによると、0.18μmプロセスのモバイルPentium IIIよりも0.13μmプロセスのモバイルPentium III-Mのほうが、省電力モードでの消費電力が大きくなっている。この原因は、トランジスターにおけるリーク電流(漏れ電流)が、プロセス技術の微細化に伴って大きくなってしまうからだという。同じ0.13μmプロセスであれば、トランジスターが少ないほどリーク電流も少なくてすむため、Crusoeが有利になると説明した。

ディッツェルCTOが示した、モバイルPentium IIIとモバイルPentium III-Mの省電力モード時の消費電力グラフ
ディッツェルCTOが示した、モバイルPentium IIIとモバイルPentium III-Mの省電力モード時の消費電力グラフ。数値はインテルのデータシートから得たものという

ディッツェルCTOは、モバイルプロセッサーのトレンドとして、性能を縦軸、搭載製品のバッテリーの動作時間を横軸に取ったグラフを示し、モバイルという観点から見て「Crusoeは、10時間以上という長時間利用できるものと、6~8時間の動作時間でより高性能なものの2つに分かれる。インテルは0.13μmプロセスになっても動作時間は延びず、モバイルPentium 4が出てきたとしても、もっと動作時間は短くなるだろう」と述べ、インテルのプロセッサーを搭載したノートパソコンはデスクトップの置き換えとしての製品向き、Crusoeこそがこれからのモバイル&ワイヤレス用途向けの製品だとした。そして、最後にシステムオンチップの1GHz超Crusoeが搭載されるという、“未来のコンピューター”を示した。そのプレゼンテーションには“すべての要素はもう手の届くところにある”と書かれていた。

トランスメタが考える“モバイルプロセッサーのトレンド”。インテルとの差は広がる一方だという
トランスメタが考える“モバイルプロセッサーのトレンド”。インテルとの差は広がる一方だという

Crusoe発表以後、それまで低消費電力という方向にはあまり積極的でなかったとされるインテルが、低電圧版モバイルPentium III、さらに超低電圧版モバイルPentium IIIを投入するなど、やっきになって低消費電力をアピールするようになったが、劇的に改善するまでにはいたっていない。トランスメタは来年後半に投入する次世代Crusoeでインテルに第2の攻撃を加える予定だが、それに対して、インテルでは“Banias(バニアス)”という、“インテルが初めてモバイル用途だけをターゲットに1から設計したCPU”を2003年に投入する計画だ。Crusoeが引き金となった、低消費電力モバイルプロセッサーの争いはこれからが本格的な戦いになりそうだ。

ディッツェルCTOが示した“未来のコンピューター像”
ディッツェルCTOが示した“未来のコンピューター像”のスペック。システムオンチップの1GHz超Crusoe、コイン大の10GB HDD、2048×1600ドットの有機ELカラーディスプレーなどを備え、Windows XPや“Tablet PC v3.0”(3.0!)が動作するというもの

(9月19日、ホテルグリーンタワー幕張にて)

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