米NVIDIA社は7日、都内で行なわれたGeForce3グラフィックスチップ関連開発者向けセミナーで、5日に台湾の“COMPUTEX TAIPEI 2001”において発表したグラフィックスチップ統合チップセット『nForce(エヌフォース)』について説明した。
“nForce”のロゴ |
『GeForce3料理の鉄人セミナー』の参加者は、セガ、カプコン、マイクロソフトなど、Xbox関連の開発者が多かったようだ |
この『GeForce3料理の鉄人セミナー』は、米NVIDIAがシリコンスタジオ(株)と共同で7、8日の両日に開くもので、GeForce3のプログラミングについての有料セミナー。100人以上の開発者が参加している。セミナー自体は非公開のものだが、7日の最後に米NVIDIAのDeveloper Tools担当マネージャー、クリス・セイツ(Chris Seitz)氏がnForceについて、台湾での発表に準じて説明を行なった。
米NVIDIAのDeveloper Tools担当マネージャー、クリス・セイツ氏 |
非常に高性能なグラフィックス統合チップセット
nForceは、Integreted Graphics Processor(IGP)とMedia and Communications Processor(MCP)の2チップからなる、米AMD社のAthlon/Duron向けのチップセットで、“Crush”というコードネームで呼ばれていたもの。米マイクロソフト社と共同開発したXbox向けチップセット『X-Chip』(『XGPU』と『MCPX』)の経験を踏まえたものという。
“nForce IGP”の概要図 |
IGPにはCPUインターフェース、GeForce2グラフィックスコア、128bitメモリーコントローラーなどが含まれる。
IGPに搭載するメモリーコントローラーの特徴である“TwinBank”アーキテクチャーは、2つのメモリーコントローラーが、それぞれ独立して動作するというもので、メモリーとIGPの間のバンド幅は最大毎秒4.2GB(PC2100 DDR SDRAM×2)という。メモリーチャンネルごとに64MBと128MBのDDR SDRAMといったように、異なるメモリーを使うことも可能。このバンド幅は2つのメモリーチャンネルを持つIntel 840/850チップセットのメモリーバンド幅毎秒3.2GBよりもおよそ30%高い値となっている。
AMD-760とnForce 220、440Dのメモリー性能比較。(Stream D は米バージニア大学が開発したメモリーのバンド幅を計測するベンチマーク) |
Pentium 4-1.5GHz+Intel850と、Athlon-1.2GHz+nForce 420の各種ベンチマーク比較 |
またDynamic Adaptive Speculative Pre-Processor(DASP)と呼ぶ先読み機構により、CPUの性能を20%程度引き上げるという。このDASPは、メモリーコントローラーとCPUバスの間に配置される一種のパイプラインキャッシュで、CPUの命令をモニターして、CPUが次に要求する命令やデータをメモリーからオンダイキャッシュに先読みするという動作をする。NVIDIAでは、これによってAthlon/Duronのシステム性能を20%程度引き上げるとしている。
IGPが内蔵するグラフィックスコアは『GeForce2 MX』相当のものだが、AGP 6X相当で内部接続するため高い性能を発揮するという。描画能力は毎秒350Mピクセル。グラフィックスメモリーはメインメモリーと共有し最大32MB。IGPはAGP 4X対応の外部バスも備える。
グラフィックス統合チップセットであるnForce 420、nForce 220、Intel 815、VIA KM133のベンチマーク比較 |
グラフィックスチップが外付けの場合と統合した場合の比較 |
“nForce MCP”の概要図 |
もう一方のMCPには、オーディオプロセッサー、Ethernetコントローラー、USBコントローラー、PCIバスインターフェース、UltraATA/100インターフェースなどが含まれる。なお、IGPとMCPの間は米AMDの高速バスアーキテクチャー“HyperTransport”技術によって最大バンド幅毎秒800MBで接続する。
MCPに内蔵されたAudio Processing Unit(APU)は、5.1チャンネルドルビーデジタル音声対応、DirectX 8.0のオーディオ機能のハードウェアサポート、最大256の同時発音(64音の3D音声+129音の2D音声)が可能。ドルビーデジタル音声は、リアルタイムエンコードに対応しており、ゲームをドルビーデジタルシステムで楽しむことができる。
Ethernetインターフェースなどのコミュニケーションインターフェースに関しては“StreamThru”機構により、MCP内部はHyperTransportインターフェースまで、データの同期転送を行なう。NVIDIAではこのStreamThruによって、インターネットの高速化につれて問題となってきた、パソコン内部のネットワーク関連のボトルネックが解消できるとしている。
インターフェースのうち、USBは2つのコントローラーで最大6ポート(各コントローラーで3ポートずつ、または2ポートと4ポート)をサポートする。NVIDIAが配布した資料ではUSB 1.1対応となっていたが、セイツ氏によればUSB 2.0にも対応するという。
nForceはこの秋に製品版を出荷予定
nForceチップセットには、『nForce 420』と『nForce 220』の2種類を用意する。両社の違いはメモリーのインターフェースバス幅で、nForce 420が128bit、220が64bit。チップの価格は明らかにしていない。現在、マザーボードメーカーなどに向けてサンプル出荷中で、秋には製品版を出荷予定としている。このnForceを使ったマザーボードは、台湾のマザーボードメーカーであるASUSTeK Computer社、Micro-Star International(MSI)社、ギガバイトテクノロジー社、マイタック社、エイビット社が、マザーボードの出荷を予定している。
nForceチップセットを使ったリファレンスマザーボード。中央にnForce IGP、右上にnForce MCPが見える |
グラフィックス統合チップは、インテルを始め台湾のSilicon Integrated Systems(SiS)社、VIA Technologies社などが出荷しており、小型デスクトップパソコンや低価格パソコン向けにある程度の市場を形成している。ただ、これまでのグラフィックス統合チップのグラフィックス性能は2Dはまずまずながら3D性能は高いものではなく、どちらかといえばビジネス向けといった位置づけだった。これに対してnForceのグラフィックスコアは最新のGeForce3ではないものの、3D性能はかなり高く、明らかに他社のグラフィックス統合チップとは違う市場を狙っている。また内部のアーキテクチャーも徹底した高速化を図っており、これまでのパソコン用チップセットとは一線を画し、ワークステーション用チップセットのような雰囲気だ。このあたり、NVIDIAは米SGI社からスピンアウトした技術者が設立した会社であることが影響しているようだ。
nForceはチップセットメーカーがグラフィックスを統合した製品を出すのでなく、グラフィックスチップメーカーがチップセットを出すということでも注目される。価格は明らかにしていないが、同等の外付けグラフィックスとチップセットの組み合わせよりは安いとしており、どうやら他社のチップよりはかなり高くなりそうなニュアンスだ。安定して動作するなら性能面では十分な性能を持つだけに、現在NVIDIAのグラフィックスカードの採用も多い、家庭向けパソコンなどに使われても不思議はないが、価格がネックになりそうな気配だ。セイツ氏が示した、デスクトップパソコンにおける最近の四半期ごとのメーカー別シェアをみると、NVIDIAのシェアは50%を超え、2位のカナダのATIテクノロジーズ社の差はかなり開いててきている。デスクトップ向けグラフィックスチップで始まり、ノートパソコン向けの『GeForce2 Go』、グラフィックワークステーション向けの『Quadro』とラインアップを広げてきたNVIDIAだが、果たしてnForceはグラフィックス統合チップの新しい流れを作ることができるだろうか。
セイツ氏が示した、デスクトップパソコンにおける最近の四半期ごとのシェアグラフ。NVIDIAが突出していることがわかる |
セイツ氏が示したNVIDIAの今後の製品戦略。今後はインターネットアプライアンス、低価格パソコンなどにラインアップを広げる |