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アーム、CPUから応用製品まですべてを見せる“ARM FORUM 2000”詳報

2000年10月23日 10時04分更新

文● 岡田 靖

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アーム(株)は19、20日の両日、東京・千代田区の東京コンファレンスセンターにおいて、自社およびパートナー企業の製品を集めたイベント“ARM FORUM 2000”を開催した。開発者やマーケティング担当者などに向け、製品展示のほかセミナーもあわせて行なわれた。既報に続きその詳報をお届けする。

ARMコアロードマップ

ARMアーキテクチャーは、ISA(Instruction Architecture Set:命令セット)の世代と、コアファミリー、そして用途とで分類される。まず、ISA別に見ると、現役のコアは“v4”、“v4T”、“v5TE”のいずれかに属している。

一部PDAへの採用で有名なStrongARMは、インテルと共同開発のCPU。“XScale”も同様で、現在開発を進めている

v4は、現時点での基本命令セットとも呼ぶべきもので、v4以降のISAのベースだ。v4Tは、コード効率を高めるための“Thumb”と呼ばれる縮小命令セットに対応したもので、v5TEは、さらにDSP機能を拡張したものとなっている。さらに今後、Java拡張やSIMDメディア拡張が予定されていることは、先日の発表でも明らかになっている。

コアファミリーでは、“ARM7”、“ARM9”、“ARM9E”があり、2001年には“ARM10+”が予定されている。さらに、それらを用途別に“プラットフォームOS向け”、“組み込み制御向け”、“セキュアー用途向け”と区分したロードマップがある。セキュアー用途向けはまだ明確でないが、他の2セグメントに関しては、詳細なロードマップを示している。

プラットフォームOS向けプロセッサーは、Windows CEやLinux、EPOC、Palm-OSなどをサポートするために、MMU(Memory Management Unit:メモリー管理ユニット)を備えたものだ。仮想記憶にも対応している。現行のARMコアでは、末尾“20”となるものが中心で、『ARM720T』、『ARM920T』および『ARM922T』が市場に出回っている。まもなく、『ARM1020+』と、『ARM720T低消費電力版』が投入される予定だ
組み込み制御向けプロセッサーは、リアルタイムOSに対応し、かつメモリー保護機能などを備えている。現行コアでは、末尾“40”が基本で、『ARM740+』、『ARM940T』や、『ARM946E』、『ARM966E』などが存在する。さらに、ARM9ファミリ用の浮動小数点ユニット『VFP9』を組み込むこともでき、ARM10ファミリー用『VFP10』も用意されている
ARM7ファミリーのロードマップ
ARM9ファミリーのロードマップ
ARM9Eファミリーのロードマップ
ARM10+ファミリーのロードマップ
2000年1月に初の試作チップが完成した『ARM1020』は、順調にテストをクリアしているという。v5TE命令セット対応で、6ステージパイプラインやブランチ予測などにより、Dhrystone2.1では500MIPS(400MHz動作時)を実現している。各種消費電力低減機能を組み込んでおり、400MHz動作でも消費電力は300mW未満になるという。400MHz動作時でも追随できるリアルタイムトレース機能もサポートしており、機器開発の効率も高い

ミドルウェアを含めたシステムも提供

アームが推進しているジャンルの1つに、音楽プレーヤーがある。ARMプロセッサーの処理能力、低消費電力を生かして、MP3をはじめとする各種デジタル音楽をエンコード/デコードするというものだ。現行の音楽プレーヤーは、その多くがDSPによる処理を行なっており、さらに制御用マイコンを利用している。そのため、チップコストはもちろん、消費電力などの面でもあまり良好ではない。また、USB接続への対応さえも難しいという。

ARMプロセッサーによるオーディオ製品の特徴

だが、ARM7ベースのカスタムチップとミドルウェアを併用することで、チップコストは約半分となり、消費電力も大幅に低減できる。さらに、再生ソフトや著作権保護対策ソフトなどを追加することで、将来のアップグレードも容易になるというわけだ。アームなど各社から、各種のミドルウェアが用意されており、プレーヤーそのものの開発は非常に短期間に行えるようになっている。現在では、すでにシンガポールのクリエイティブ・ラボ社の『Nomad』、米ダイアモンド・マルチメディア社の『Rio』など、主要な携帯型プレーヤーへの採用が進みつつあるという。

ARM7TDMIで各種オーディオ再生に必要なリソース

ROM RAM CPUクロック
MP3 27kB 21kB 29MHz
MS-WMA 36kB 22kB 29MHz
MPEG-AAC 39kB 22kB 28MHz

32kBのSRAMと64kBのフラッシュメモリー、40MHzのARM7TDMIがあれば、ひととおり再生できてしまうという。このときの消費電力は、0.25μmプロセスで111mW(RAM+Flash+ARMのチップのみ)以下、0.18μmでは55.5mW以下と概算されている。

同様に、音楽のリアルタイムエンコードも、ARM9E-Sコアをベースに実現可能で、これらのミドルウェアも近日中にライセンスできるという。MPEG-4ビデオに関しても、最適化されたアルゴリズムを保有しており、顧客のコーデックに組み込んで高速化を実現できる。その結果、ビデオデコードには約11MHz(ARM920Tで15fpsQCIFビットストリームからYUVへの変換を行う場合)、エンコードには60MHzで可能となっている。すでにアームと提携しているビデオシステムベンダーは、イスラエルのGEO社と、米Packetvideo社の2社がある。

エリクソンのBluetoothソリューション開発状況

セミナーは、アームによるものと提携企業によるものとを、別の部屋で並行して行なう形式だったが、スウェーデンのエリクソンによる“Bluetooth IP Solution”だけは、アームのセミナーに混じって行なわれた。

エリクソンは、Bluetoothの開発推進メーカーだが、そのソリューションには、ARM7Tコアを活用しているという。Bluetoothのプロトコル処理などに用いているのだが、小さな周辺機器では、そのCPUパワーの余力で処理を行なうことも十分可能だという。

エリクソンのBluetoothソリューションにおけるライセンスの関係

エリクソンが提供するのは、製品でなくソリューションだ。利用するメーカーは、ARMからCPUコアのライセンスを提供してもらい、エリクソンからはこのソリューション全体のライセンスを受ける形になる。その上で、独自のハードウェアを追加したり、ソフトウェアを搭載してシステムを開発するのだ。

エリクソンの地元、スウェーデンでは、鉄道でのBluetooth活用を試験中だという。このような“乗り換え案内”的なものだけでなく、乗り換えチケットの販売や、食堂車の“本日のメニュー”といったものまで、すべてBluetoothで提供されるとのこと。公衆電話回線を利用しないので、電車内に限定して情報を配信できるのがメリットか。さらに、遊園地や動物園など、アトラクション施設限定の情報配信も考えているという

展示・実演コーナー

展示・実演コーナーでは、各社がARM関連製品のデモを行なっていた。

松下電子工業では、ARM7TDMIコアをベースに汎用プロセッサーを製造、販売している。もちろん、これに必要な機能を組み込み、システムLSIとして生産することも可能だ。また、ARM920Tコアをベースとしたプロセッサーも、CSPとPGAのパッケージで参考品として展示していた
ARM920Tコアに独自デバッグ回路を組み込んであり、専用の開発環境『PanaXSeries』を用いると、リアルタイムトレースだけでなく、プログラム実行中にメモリーや周辺回路レジスターの値を参照、変更できる“オンザフライ機能”が実現できるという
英Picsel Technologies社は、『ePAGE』というブラウザーシステムを展示していた。ブラウザーといっても、htmlやPDF、各種画像はおろか、ポストスクリプトやMSワード形式さえもきちんと表示してしまうというもの。展示していた試作機では、それらの表示デモを行っていた。といっても、端末を製造するわけではなく、ソフトウェアをOEMするのが目的だとか
この試作機には、StrongARMが搭載されていた。おそらく640×480画素の液晶ディスプレーだ。特にアクセラレーターも使わず、MPEG-1画像を2~4画面同時再生できるという
エリクソンのBluetoothのデモ。USB-Bluetoothユニットによる2台のパソコン間でのチャット実演や、Bluetoothヘッドセットなどだ。また、2000年末に発売予定の、Bluetoothユニット内蔵GSM携帯電話(写真左)も見せてもらった。アンテナ部分も含めて完全に内蔵されているため、外見上の変化はほとんどない。クリスマス商戦に間に合わせて発売するという

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